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    ジョニー・キリサキ

    @kirisaki_johnny

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    脚本家夏と俳優五。どっちともとれるかも。全年齢。[プライベッターからの再掲]
    題名「そういうことです」

    俳優「五条悟」と、脚本家であり演出家である「夏油傑」の不仲説は業界内外でもあまりにも有名だ。
     その不仲説はドキュメンタリー番組で俳優である五条悟に迫ったもので、夏油傑との、あまりにも激しい言い争いのような稽古に、スタッフが凍り付いたことから始まった。
     完璧に見える筈の五条の演技に、すぐに夏油から鋭い駄目出しが入り、そこで五条も素直に従わずに言い返す始末。最終的に五条は夏油の指摘の細かさにキレて、五条は持っていた台本を叩きつけて稽古場から足早に遠のき、呆れた夏油が深々と溜息を漏らす──というシーンが幾つも見られたのだ。
     脚本家、演出家の夏油傑は舞台監督で、テレビでの露出はない。その為、二人がドラマで組むことはなく、舞台演劇でのみ二人は顔を合わせることになる、売れっ子の五条は人気脚本家の夏油と自然と組まされることが多い。夏油が五条を指名しているとは考えがたいので、事務所からのアプローチであろう。事実、夏油としても客席は埋めたいし、五条のネームバリューは大きい。渋々五条を起用することを呑んでいるのだろう。でなきゃあんな舞台稽古はない。
     舞台稽古での苛烈なやり取りで不仲説が濃くなったと同時に、急上昇したのが脚本、演出家の夏油傑の存在だった。夏油はドキュメンタリー番組やインタビューなど応じることが一度も無く、今までその姿は不透明なヴェールに包まれたままであった。だが、この番組を機に、その麗しい姿が露わになり女性ファンが爆発的に増えた。夏油傑、五条悟の組み合わせの劇があれば一瞬で完売し、五倍以上の価格で転売もされるほどだった。
     二人は仲が極めて悪い。
     だが女性達にとってはそんなことはどうでも良いことだった。五条悟の美しさ、夏油傑の麗しさ、その組み合わせによって生まれた劇は言葉に尽くせないほと素晴らしかったからだ。劇のパンフレットは毎回完売し、女性達は皆そのパンフレットを感無量といった感じで抱きしめて帰路についたという。
     SNSをしている五条に反して、夏油は案の定というべきか、SNSなどのアカウントは持っていなかった。そのため夏油の私生活はまるで謎であったし、意外にもSNSをしている五条もアカウントこそ持っているだけで、あとは仕事の予定や告知というだけという、まったく私生活は謎に包まれていた。そんなミステリアスな二人が、劇の稽古ではあんなに感情をぶつけあって……と想像すると女性達はたまらない気持ちになった。
     そんなある年の12月25日。
     クリスマスを千秋楽に迎えた五条と夏油の劇は幕を下ろし、五条は降り注ぐ拍手のなか舞台挨拶のためにステージに上がっていた。本当に素晴らしい劇だったと観客からも報道陣からも賛辞を受け、主演の五条はスポットライトの下、きらめくような笑顔で客席に手を振っていた。いつ見ても眩く美しい五条に女性達は感嘆の息を吐いたが、同時に女性達にとって、この日はこれ以上ないくらいのクリスマスプレゼントが用意されていた。
     普段は決して舞台に立たない夏油が、この日だけはと、五条と共に舞台挨拶の為に立ったのである。しかも真横に。会場はいつ二人の間で戦争が勃発するかと思いハラハラしていた。
     だが、周囲の緊迫感を裏切るように、滑らかに夏油の千秋楽の挨拶の言葉は終わり、呆気なく舞台は幕を閉じた。それが良いことか、それとも悪いことだったのかは分からないが、皆が皆、拍子抜けしたのは確かだった。



     だが、突如世間が爆撃を受けたのは、年が明け、春に近づいた三月の頃だった。

     ──「夏油傑、五条悟対談。新しい劇の幕開け」

     なる見出しの記事の雑誌が発売されたのである。
     女性達はその凄まじい見出しに、何冊も買い集め、あらゆる書店が完売の嵐となった。
     その内容は以下のようなものであった。



    ──────

     記者A(以下A);本日はお越し頂きありがとうございました。お二人は数年前からずっと舞台劇で組まれることが多かったようですが、今回は新しい劇の幕明けということで何か思うところはありますか?

     夏油傑(以下夏油):そうですね。今春からは既存の作品同士を組み合わせた話を書きたいですね。例えばシンデレラと人間失格とか(笑)そういう意味では新しい劇なんじゃないでしょうか。

     五条悟(以下五条):僕は今まで通り楽しく演じるだけかな。舞台劇ならではの、何か一捻り加えてもっとお客さんを愉しませたいけど、そこはまだ悩み中。

     A:お二人とも舞台劇に対して情熱を燃やしているんですね。時にはそういった情熱がぶつかり合ってしまうこともあると思うんですが、お二人は意見が相違した時、どうやって解消するんでしょうか?
     
     五条;うーん、僕は感情的になっちゃうタイプだからさ。感情移入し過ぎて大袈裟になっちゃうの。だから大抵、傑の言うことが正しいかな。だから結局僕が折れるワケ。この五条悟がだよ?

     A:す、傑ですか?

     五条:え? 僕、何か変なことを言った?

     A:いえ、失礼ながらお二人は名前で呼ぶ仲ではないと思っていたので。

     夏油;ああ、不仲説ですよね(笑)気にしないで下さい。正直、そんな説が流れた時は、悟と一緒になって有り得ないと笑ってました。

     五条:ほんとそれ(笑)なーんで僕達仲悪いってことになってんだか最初わかんなくてさー。でもまぁ、段々僕も傑も世間を騙してやろうって思っちゃって。

     A:そうだったんですか? それでは度重なる衝突というのは嘘……?

     夏油:悪戯心ってやつですね。ワイドショーで私と悟の不仲説を見ながら、悟、ゲラゲラ笑ってましたよ。もっと世間を賑わしてやろうと、彼は激しい舞台稽古を「演じて」いたんですよ。本当にタチが悪いでしょう? 悟は完璧人間に見えて、性格だけが駄目なんですよ。

     五条:傑。そんな事言う癖にずーっと僕のことを劇の主演にってし続けたじゃないか。

     夏油:だってそれは君以外に適任が浮かばなかったからね。私は脚本を書く時、いつも君が演じているところを想像するからね。
     
     五条:それは嬉しいけど、人が眠ってるところ深夜、寝室に入り込んで叩き起こしたかと思ったら、鬼気迫った顔で「インスピレーションが湧かないから観察させろ」なんて言われた日にはたまったもんじゃないよ。

     A:ちょっと待ってください。深夜、寝室に入って……っていうことはどういう……?

     五条:ああ。僕達、一緒に住んでるから。

     A:……申し訳ありません。少し思考を整理したいのですが、要はお二人は不仲ではない、と。そう認識して宜しいのでしょうか?

     夏油:はい。不仲どころか私達は唯一無二の親友ですから。

     五条:キャー、夏油くん。そんなカッコイー台詞、さらりと言っちゃうの。大好き!

     夏油:はいはい、私も好きだよ(笑)

     A:では本当に、繰り返しにはなりますが、稽古で激しく言い合いになっていたのは冗談だったんですか?

     五条:そうだね。お互い演技でやるときあるよね(笑)勿論ちゃんとやるときはやるし時々本気の喧嘩もするけど、ふざけて白熱する芝居ごっこみたいなのもやる、みたいな。そう考えると、俺達すっげー傍迷惑なやつらだよなあ~、

     夏油:こら、悟。俺じゃなくて僕だろう。それに口調も砕けすぎだ。
     
     A:……すみません。五条さんは元々「俺」だったんですか?

     夏油:そうですね。私が「俺じゃなくて僕にしなさい」って何度も言って。ようやく僕が定着してくれました。

     五条:僕は俺で良いと思ったけど、傑がそう言うなら直そうかな~って。

     A:す、すごいですね。とても舞台でのお二人とは思えませんでした。では、お二人の関係について教えて頂いてもよろしいでしょうか? まずは夏油さん。夏油さんにとって五条さんはどういった存在ですか?

     夏油:唯一無二の親友です。そして私の人生という劇の主役は、いつだって悟です。それ以外は有り得ない。

     A:熱烈な台詞ですね。では五条さんの方はどうでしょう?

     五条:それなら僕は傑の書いた劇という世界でしか生きられない存在かな。あ、ちなみにその世界の中心にいるのは僕だけどね。

     A:なるほど。両者とも、お互いを想い合っている同士であることが、至極伝わってきました。ありがとうございました。今回のお二人のお話はとても興味深く、大変有意義な時間になりました。

     夏油、五条:こちらこそ。

     A:さて最後にお二人にお聞きしたいのですが、今後、お二人はどうなっていると思いますか?

     夏油:どう、ですか……端的に言うと、結婚します。

     A:はい?

     五条:だから結婚するんだ、僕たち。こんな所で報告すると思っていなかったけど(笑)

     夏油:そうだね。でも、そういうことです。



    ──────




     五条悟と夏油傑の結婚。

     その言葉に日本中が混乱の渦に陥った。
     だがその騒ぎの後は、桜が一気に開花しそうな幸福談へと盛り上がり、彼らの美しい人生劇は更にきらめいた。
     余談だが、結婚騒動の後、五条のSNSに読書する夏油が映され、「僕の未来の伴侶です」とのメッセージがつけられていた。
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