ウチの彼氏が最高すぎる沖縄までファットガムと二人、チームアップに来て、無事に任務完了。
ここまで来て、仕事だけして帰るなんて勿体ねえけどまあ仕方ねえかって思いつつ。沖縄にもこんなホテルあんだなって意外に思ったシンプルなビジネスホテルの、そんな窓からでも見えるきらきらと朝日を跳ね返して輝く、コバルトブルーの海を切島は少しばかり恨めしく睨んだ。初めて来たっていうのに一度も海に入ることもなく。体験したのは、想像していた以上の暑さと太陽の近さと、熱帯夜だけで。
部屋で荷物をまとめてロビーまで降りれば、すっかり脂肪を使い果たしたファットガムがちょうど、隣のエレベーターから出てきたのでそのまま合流。黄色に、真っ赤なハイビスカスが付いたやけに派手なアロハシャツは、多分最初から持ってきたものではないはずで。いつのまに買ったんだろとぼんやり、切島が見上げていれば、ファットガムは手慣れた様子でチェックアウトを済ませていた。終わったでと言いながら切島の分まで荷物を持ち上げたので、慌てて持ちますと言えば、ええねん、とファットガムは笑って。そして、てっきり空港まで直通のリムジンバスを待つのかと思いきや、ホテル前のロータリーを逆方向に向かって歩いて行くので、切島は慌ててその背を追いかけた。
まだ8時過ぎだってのに、7月の沖縄の空気はすでに猛烈な熱を孕んで、朝日とは思えない眩しい太陽が肌を焼く。
「ファ、ファット?」
大股で急ぎ気味に歩くファットガムに追いつけば、暑いな、とファットガムが空を仰いで呟いた。
「このままやと、ほんまにとけるわ」
「ですね」
「なあ、切島くん。褒めて欲しいことあるんやけど」
え?と顔を上げれば、にやんと頬を緩め、並んで歩くファットガムが切島を見下ろした。
「いうても明日には帰るけどな……一日だけ」
バカンスを用意しときました、と言われて、切島は最初意味が分からずぽかんとしていれば、ほら、とファットガムは、さっきのホテルの隣にあった、海に面したいかにもなリゾートホテルを指さした。
「今日、ここに一泊するからな」
もちろん一緒の部屋や、と。覆いかぶさるように距離を縮め、耳朶を唇が掠めながら落とされた甘い囁きに。ここ数日ですっかり日に焼け火照る肌以上に、身体の中がぞくんと焙られたように熱くなるのを、感じる。
「俺のと、お揃いのアロハも買ってるしな。沖縄やったら、誰も俺らがヒーローやなんて知らんやろうから……な、普段できんようなこと、しよ」
身体を戻したファットガムが、ふふ、と楽しげに笑う。普段はあまり見ないような浮かれた様子に、切島までわくわくと心が浮き立った。
「っス!」
「まずはホテル行って……それから何しような」
歩き出しながらそう言われて、切島は思いついたようにファットガムの空いたほうの手に指を絡めた。少し驚いた顔をしてから、握り返してくる力強さに、心がきゅっと嬉しくって、どきどきして、苦しい、嬉しい。
「なんでもきっと……最高っス」
「そうやな」
リゾートホテルがもう近くて、プライベートビーチのきらきらと真っ白い砂と、輝くマリンブルーが眩しい。切島は目を細め、まずはあの中に飛び込みたいと思った。それをまるで読んだみたいに、ファットガムがフハと笑う。
「もちろん、水着と浮き輪も買ってるで」
ああ、もう。なんだろ、これ。
堪え切れず、ゲラゲラと笑いながら切島はファットガムと手を繋いだまま走り出した。ファットガムも二人分の荷物を片手で抱えたまま一緒に走る。ファットガムも笑ってた、俺たちはもう、この暑さだって笑っちまうくらい楽しくて、かんっぺきにリゾート気分。
「ファット……太志郎さん、最高!大好き!」
笑いながら青空に向かって、叫んだ。
悔しいくらいに完全無欠の俺のカレシ、ほんと、最高。