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    hiromu_mix

    ちょっと使ってみようと思います。
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    アイスクリームパレット:抹茶(追憶 / 掻き乱す / マナー)

    恋の味は苦い「ファットの、前の彼女と会いましたよ」
    どきりと、切島は肩を震わせるが、しかし顔はパソコンから上げなかった。必死に知らんぷりして、けれど勝手に耳が、すべてを拾おうと必死に聞き耳を立てる。さっきの言葉は、天喰がパトロールから戻ってきての第一声だった。ファットガムが微かに息を飲む気配。それから、ハ、と小さく息を吐く。ちらりと見れば、ファットガムの唇に浮かぶのは苦笑と、どこか追憶に沈むような表情。
    「あ、ほんま?元気にしとった?」
    「ええ、元気そうでしたよ」
    切島がインターンに来る前に別れたと聞いたが、天喰は面識があるのだと今知った。と言うことは、別れてまだ二年も経ってないのか。つきんと胸が痛い。

    話は聞いていた。他でもない、ファットガム本人から。学生時代から付き合ってて、ヒーローで、結構な美人だと。けれど互いの忙しさにすれ違い、自然消滅したとか。別に聞きたくもないのに、事務所で飲んだ時にまだ酒が飲めない切島に向かって、酔っぱらったファットガムが滔々と話してくれたのだ。
    『まだ好きか、と言われたら、ぶっちゃけそんなことはないねんけどな。けど、長いこと一緒におったからかな、寂しいとは、思うわ』
    そんな、諦めたような顔に寂しさを薄っすら浮かべて笑われて。嘘だろまだ未練あんじゃねえの、って言いたい言葉をぐっと堪え、切島はそうっスね、とだけ返し、それ以上は何も言わなかった。最近、淡い恋心を自覚したばかりの切島には、どこまでも残酷で。マナー違反と思いつつ、がつがつと目の前の飯を食いつくすことに注力した。こんな時にどうするかって、やけ食いするくらいしか、ガキには思いつかねえんだよ、と。文句を言いたくなる気持ちを押さえ、とにかく喰った。ええ喰いっぷりやな、って、何も知らないあんたは笑ってたけどな。笑ってくれたから、まあいいや。

    「――なんか、言うてた?」
    遠慮がちに天喰に問う言葉が、切島の心を掻き乱す。
    まだ、気になんのかよ。俺が、俺が。こんなに、あんたのことが好きなのに。俺が、その寂しさを埋めてあげたいのに。
    「ええと……あの」
    言葉を濁す天喰に、ファットガムは眉を寄せた。あまりいい話ではないと感じたのだろう。ファットガムが顎をしゃくって先を促せば、天喰はため息交じりに、秋に結婚するって言ってましたよ、と呟いた。
    「あ……そう、なんやな」
    ま、そうやんな、あっちは結婚願望強かったし。
    早口でそう言って、それからファットガムはくしゃりと泣きだす寸前みたいな顔で笑った。ずきずきと痛む胸が限界で、切島はそっと席を立つとトイレに逃げ込んだ。泣かない、泣かないけど。でも、こんな、醜い思いを誰にも知られたくなかった。ぎゅっと胸を押さえる。
    少しだけ、ホッとした自分がいた。これで奪われないって。可能性が、少しでもあるかもしれないって。ああ、どこまでも自分のことばかりで嫌になる。

    トイレを出て、デスクに戻る。だれも切島を気にしたものは居なかった。天喰は席に戻って、書類作業を再開していた。切島はペットボトルを手にすると、まるで苦い薬を飲んだ後みたいに、喉の奥にじわと広がる味をごくりと、嚥下するようにミネラルウォーターを流し込んだ。
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