死んだら勿体ないからねそういや日本酒禁止令が出てたのを、今更ながら思い出した。
けど、遅かった。
お猪口を片手に、ふにゃふにゃの酔っ払いが出来上がってて、ファットガムは思わず苦笑。
「らからねェ、ふぁっと、きーてます?」
舌が回ってない、やけに幼い喋り方で。けれど目の前に居るのは学生時代のころに比べたらすっかり身体つきもがっしりした立派な青年だ。それが、ふにゃふにゃと半分テーブルに身体を預けたまま、あどけない顔で楽しそうに笑っている。
あー、もう、これ、可愛すぎるんやけどどうしたらええかな。
同じペースで飲んではいたが、ファットガムはこのくらいで酔うことはない。まだ全くの素面と変わらないくらいだと思っているが、けれど、この可愛すぎる酔いどれをこれ以上世間に晒すより、掻っ攫ってうちに連れて帰って独占したろォかなと、危険な思考をしてしまったので多分少しは酔っているのだ。いやいやありえへん。何考えてんだろうな。
「俺あァ、ほんと、ふぁっととォ、のめてうれひいんれす」
「ん、そぉか、俺もな、切島くんと飲めてほんま嬉しいで」
「ほんまですかァ?」
「ほんまです」
ふにゃ、と顔が、本当に嬉しそうに柔らかく緩む。とろとろと溶けてしまいそうだと思った。慌てて、頬を覆うように両手で包むと、切島は酷く不思議そうに目をぱちくりと瞬き、それから、まるで懐いた猫がそうするようにファットガムの手に頬を擦り付けた。
「冷たくて、ェ、きもちい」
ざわ、と凶暴な気持ちが心を締める。さっきありえないと思ったはずの行為を、実行に移してやろうかと思った。このまま一人で自分の家に帰せるわけがないだろう、こんな、可愛い生き物を一人にするなんて。
「な、切島くん……うちで、飲みなおそうか?」
「ふェ?」
ふぁっとんち、嬉しいです、と長閑に笑う切島に、微妙に罪悪感。ごめん、コッチはどちらかと言えば、気分は狼かもしれない。いやいや大丈夫、取って食ったりするわけじゃない。ただ、この酔っ払いを一人にしたくないだけだから。
ファットガムの家に着いたら。
玄関先で背中を支えていた切島が、そっと、ファットガムを見上げて手を伸ばし、背伸びをするので。なんや?と身を屈めたら、そのまま唇が触れた。目を白黒させていれば、切島は目を細め、嬉しそうに笑って。
「俺、もォ、今日死んだっていいかも」
なんて可愛いことを言うし。
それに、死なれたら困るので。
死んだら勿体ないで、明日、酔いがさめたらもっとええことしたるからな、と沸騰しそうな頭でファットガムは、囁いた。