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    hiromu_mix

    ちょっと使ってみようと思います。
    短めの文章はこっちに投げます。

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    ファ切で、7.甘い夜明け
    「寝息 おはようのキス 枕」

    うたた寝と狸寝入りふ、と意識が浮上する。
    気を失うように寝ていたようで、片手に飲みかけのペットボトルを握りしめていた。多分時間にしては30分程度だろう。寝る前に朝日が出てきたなと思った空は、だいぶ白々としていて、背中側に窓のあるファットガムのデスクの上をぼんやりと明るくしていた。
    ペットボトルを置き、ガシガシと頭を掻く。最近、徹夜がきつくなってきた。今日みたいに二日も続くとさすがに身体にこたえる。この二日ですっかり身体は低脂肪になってしまった。
    ふわ、と漏れた欠伸をかみ殺して、とにかくカフェインで誤魔化すかと立ち上がれば、やはりこちらもすうすうと寝息を立てて、組んだ腕を枕にして切島が自分のデスクで寝ていた。ファットガムが寝てしまったのでつられたのだろう。着替える暇もなかったので、寒そうなヒーロースーツのまま。これはちょっとあかんやろ、とファットガムは手近なところを見回してみても、ちょうどよく身体に掛けられるものなどなく。仕方なく、自分の私服のパーカーを手に取った。まあ、ええか。若干の下心が自分に存在するせいで、こういう行為にあざとさを感じてしまう。いや、違うからな、他になかったから仕方ないんや、と頭の中で言い訳。
    背後に回り、呼吸に合わせて上下する背中を見つめる。まだ夏の日焼けが残る張りのある滑らかな背中。隆起した肩甲骨のあたりに出来た影が、ひどくいやらしく見えてぶるりとファットガムは頭を振る。そんなふうに欲を絡めて、切島を見つめていることは秘密だ。告白などするつもりもなく、墓まで持っていく予定の気持ち。時折、それがとても切なくはなるけれど、でも。未来ある若者の、まっすぐな道を塞ぐのが俺のような歪んだ情を持つ大人であって良いわけがない。
    隠すように背中にパーカーを被せ、それから給湯室に向かった。天喰は今日の朝から作戦に参加予定。たまたま天喰の休暇と、今回緊急で発生した事件とが被ってしまったのはどうしようもできないことだった。切島と二人で夜を超えて駆けずり回った、それも、今日までのことだ。ほっとすると同時に、どこか、残念な気分でもあって。いつもは、切島と自分の間に天喰が入る。それが、天喰が居ないことで、二人きりであれこれ近い距離で相談したり戦ったり。こういうのは、今までそれほど多くはない。
    欲張りだなと思う。
    普段だってこんなに傍に居るのに、もっと、もっと傍に行って。君の特別になりたいと俺は勝手に思っている。
    ああ、ほんまアホやね。
    「コーヒー、淹れよ」
    ボソリと自分に言い聞かせるように呟き、湯沸かしポットをセットする。すぐにシュンシュンと音がしてくるのを聞きながら、頂き物のドリップパックをマグカップにセットした。インスタントもあるが、こういう朝は少し、頭を使わないことに時間をかけてみたくなるのだ。湧いたお湯を少しずつ、垂らしていく。コーヒーの香ばしい香りが広がって、さっきまで薄幕がかかったようだった頭がはっきりして。最後にスティックの砂糖を10本ほどぶち込んだ。元に戻すのまでは難しくても、天喰が出社するまでに少しカロリー摂取しておかないと怒られる。ついでに菓子の棚から二箱ほど、饅頭を引っ張り出した。
    デスクに戻れば、まだ切島は眠っている様子だった。赤い頭を横目に、饅頭を摘まんでコーヒーを飲む。この戦闘スタイルだって、どこまでいけるのやら。つい先日、医者から「いつか身体を壊す」と警告されたばかりだ。高脂肪状態は、脂肪吸着のために必要な完璧ボディだともちろん思ってはいるが、確実に内臓や血管にはダメージを与えているのだ。30代も半ば。ため息が零れる。
    「切島くんかて、なぁ、こんな、おっさんに好かれても困るやろ」
    ぼそ、と呟いて。窓の外を眺める。日はすっかり昇り、眩しい光が大阪の騒がしい街並みを洗うように白く染めていた。今日は、昨日より暖かそうだ。
    かたん、と音がしたので視線を室内に戻す。切島が起きたのだろうかと思てそちらを見ても、さっきと体勢が変わったようには見えなかった、が、けれど。切島の足元に、切島のデスクの上にあったペンが落ちていた。よくよく見つめていれば、ほんのり耳が赤く染まっているように見えて。
    どきんと心臓が跳ねる。
    言わないはずの気持ちが、勝手に零れて流れて、君に届いてしまったとして。その君の反応が、俺の想いへの答えなのだとしたら。
    そっと気配を消して立ち上がり、切島のデスクの前に立った。そっと耳元に顔を寄せる。やっぱり、至近距離で見ても赤くなってる。
    「――あんまり起きひん子ォには、おはようのキスしたろかな」
    「ええ!?」
    がば、と切島が起きる。目の前に自分がいるのに驚いた様子で、うわわ、と言って身体を引いた。その顔は、耳よりさらに真っ赤だった。
    「おはよ」
    ファットガムがそう言えば、切島はぱくぱくと言葉にならないまま口を動かし。10秒ほどしてからやっと、おはようございます、と切島の口からは聞いたことのない小さな声でそう言った。ふひ、と思わず笑う。
    「聞こえて、たんよな?」
    何が、とは言わない。切島の反応次第では、まだ誤魔化せる。そう予防線を張りつつじっと見つめていれば、切島はファットガムを見返し。うん、と頷く。
    「そっかァ、聞いてしもうたか」
    ごめんね、と言えば、切島はゆるりと首を横に振る。それから、さらに真っ赤になって、むうと唇を尖らせた。
    「困り、ませんから」
    「ファ?」
    「俺、困りません、からね。むしろ、嬉しいっつーか」
    そうぼそぼそと言ってから、ひどく小さな声で「俺も好きです」と囁く。ファットガムは反射的に手を伸ばし、デスクの上に乗り上げるようにして、切島の肩を抱きしめた。
    「アカン」
    行動とは裏腹の言葉が零れる。
    「アカンよ、きみ、そんな、俺なんかアカンやろ。美人の奥さんもろうて、子どもにたくさん囲まれるのが似合う子やろ、君は」
    「――そんなの、欲しいなんて思ったことねえし」
    むっとしたような声が腕の中から漏れる。ぎゅっと、ファットガムの腕を掴んで、離さないっていうみたいに切島の握る手に力がこもった。
    「困んねえ、って言っただろ、俺。俺は、ファットといる未来しか、考えたことねえ」
    ずきゅんと、胸を打ち抜かれるような音がした、気がした。ああ、何やろこの子。男前すぎひん?
    「ほ、んま?」
    「ほんまです」
    なら、とファットガムは腕を解いて、切島の頬を両手で包んだ。暖かな体温と、早い鼓動が伝わってきて、ああおんなじだ、とじわじわ、胸が温まっていくような。
    「なら、おはようのキス、してみてもええ?」
    「ええ、ですよ」
    チュ、と触れたそれは。
    硬化の個性を持つ彼の一部とは思えないくらい、柔らかかった。



    「いつから起きてたん?」
    「ファットがコーヒー持って戻ってきたときに」
    「声かけてくれたらええのに」
    「だって」
    切島は、困ったような顔ではにかんだ。
    「ファットのパーカー、暖かいしファットの匂いがして、なんか、返したくねえって思っちゃったから」
    なにこの可愛い子。
    もう、今日から俺のやから、ほんま、だれにもやらん。
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