電源、オン 白い手が、小さな青を丁寧に触る。綺麗だと手塚はそれを見る。周囲はぼうっと霞がかって、舞台がどこかはわからない。ただ、隣には不二がいた。伏せられた長いまつ毛の先が、夢のさなかにけぶっている。
彼が操作しているのはワイヤレスイヤホンだ。手慣れた様子がさすがは不二だ。旧いものにやわらな眼差しを向けながら、新しいものもちゃんと楽しむ。今は携帯電話でなにか設定をしているところらしい。
手元の画面をちょんとつつき、明るい瞳が手塚を見上げた。はい、イヤホンに触ってみて? そう、指先で、ちょんって――。
気づけば手塚は耳にイヤホンをはめていた。見えないが、不二の手にあったものと同じだと手塚は知っていた。できるだけそっとつついてみる。
966