夜半のワルツ 薔薇の匂いがする庭園で嗜むワインは悪くない味わいだった。グラスは空になってしまったけれど、ボトルを一本拝借してきたので、まだまだ夜は長い。
屋敷の方から微かに漏れている三拍子のワルツに合わせてステップを踏む。やわらかい風に木立が揺れ、それすらも奏者となって今宵の晩餐を歓迎した。いたく気分が良い。今なら誰かと踊ってやっても良いだろう。
オーエンがひとつ呪文を唱えると、庭園の薔薇の茎がしゅるしゅると人の形を象り、花弁のドレスが着せられた。そうしてできあがった薔薇の貴婦人を目の前に呼び寄せると、オーエンはその手をとって彼女をエスコートした。二人は脚をもつれさせることなく完璧なワルツを踊ってみせた。庭に住まうリスや小鳥がやってきて、オーエンの肩に乗るものもいれば、ギャラリーに徹するものもいた。ひそやかでつつましい舞踏会だった。
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