図書館師直は直義に付き添って図書館に来ていた。
「ちょっと調べ物があるから適当に時間をつぶしててくれ」
そう言われ、1時間経過。中に入り探すと、本棚と本棚の狭い通路で立ち読みしていた。良くも悪くも集中すると時間を忘れてしまう。ため息をついて近づいていくと、先ほどは付けていなかったヘアクリップが目に付く。男物らしかった。今日の直義の服装はワンピースだし、普段の好みからも合っておらず、違和感があった。
「直義様」
「ん?あれ?そんなに時間経ってたか」
「それ」
ヘアクリップを見る。
「あ、これは憲顕が貸してくれたんだ。勉強中に邪魔そうだからって。」
憲顕とは同じ学校でよく一緒に勉強をする仲。師直は既に社会人なので、週に1回会えるのがやっとだった。どうしようもなく物理的に埋められない溝だった。師直は直義を後ろの本棚に追い詰め、
「私はあなたが髪を耳にかける仕草が好きなのですが」
と黒のロングヘアを一房手に取りキスをする。
「へっ」
上ずり間の抜けたような声しか出なかった。普段そんな甘いことを言われたことがなかった。途端に口を塞がれた。
ちゅっちゅっと軽い戯れのような口づけ。口だけでなく、弱い耳にまでされて、声が我慢できない。
図書館でキスをしているという背徳感が余計に気持ち良くさせていた。師直はそれとなくヘアクリップを取りポケットにいれる。師直の大きな手が頭を撫でる。一方の手が直義の太ももに手が伸びようとした時、誰かの足音で直義は我に返った。師直を押しのける。
「兄上に報告するぞ」
「それだけは止めてください」
今世でも、兄上とは尊氏のことで、師直にとっての上司。許可を得て付き合っていた。隠れて付き合っても良いのだが、後が面倒だから止めた。直義は、公の場で手を繋いだりキスを嫌がるので、これからどう挽回しようか考えていたが
「あとでな」
と頬を赤らめながら耳元で囁き、直義は本を借りる手続きに向かった。今晩はどんな事をしようか、師直は考えながら直義の後を追った。