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    稲荷娘

    @musumeinari

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    稲荷娘

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    ケダモノオペラ、ローデュラウムの伝説。

    こうして竜は二度と人を友としないことを誓ったのでした。

    涙の泉小さな町の外れに住む青年が、竜と友になった。薬草を採っている最中道に迷って縄張りに入った青年を疎ましく思い、道を教えて追い出したところ竜に恩義を感じた青年が毎日竜の元に通うようになったのだ。

    初めは邪険に扱い、喰ってしまうぞと脅した竜もそれでも懲りずに自分の元に来る青年に根負けして追い払うのをやめ、青年と竜は竜が住処にしていた山麓の窪地で毎日話をするようになる。 天気のこと、草花のこと、青年のこと、竜のこと…竜が長年生きて蓄えた知恵を青年に分けることもあった、青年が花を摘んで冠を作り竜に贈ることもあった。
    そんな穏やかなひと時を積み重ねて数年、突然ぱったりと青年が竜の元を訪れなくなる。竜はそれを少し気にかけたが、まあ人間が自分の元を去るなどはじめてではない。あいつもいよいよ恐れをなしたのだろう、そう結論付けてもどこか、心の引っ掛かりは取れないままだった。

    …青年のいない日々を送って数週間後のこと、竜の前に松明を持った人間の一団が現れた、青年のいた町の人間達だ。どんよりと曇った、嫌な空の日だった。
    聖職者のような出で立ちの男が竜を見て声高に叫ぶ。主のご意志に背く悪魔め、迷える羊を惑わし悪魔の術で堕落させる気だろう。男は何か聖典や神の教えに基づくありがたい理屈をべらべらと鼻息荒く並べ立てていたが、そんなものは竜の耳に入らない。

    人間達の中に、あの青年の姿を見たのだ。

    竜の胸が、なんだか酷く軽くなったような気がした。叩けば音がしそうなほど、空っぽに。
    ぽつり、とその場の誰かの頬を冷たいものが伝った。雨だ、空にはすっかり暗雲が立ちこめ土の湿った独特の匂いが辺りに漂っていた。
    雨は次第に強くなり、車軸を流すような雨になる頃には人間が持つ松明は消えていたが、何も言わない竜を見て誰もが観念したと思ったのだろう。帰ろうと言うものはおらず、聖職者の説教にも熱が入る。
    我らには主の加護がある!何も恐れることは無い!声高に叫んだ声のせいだろうか、熱に浮かれたせいだろうか、遠くから微かに水の流れる音がすることに誰も気付かなかった。

    竜の魔法で異様な程強くなった雨水が地面に染み込み、地下水があふれ、竜と人が相対する窪地に流れ込む。
    流れる水が見えた頃にはもう遅く、人間の足では到底荒れ狂う水の流れから逃れることなどできようはずもない。
    神に祈るものも、慌てて逃げ出したものも、竜に命乞いをするものも、竜も、青年も、町でさえ。全て残らず水底へ沈む。
    後に残ったのはかつて窪地であった湖だけだ。

    今でもその湖は水を湛えており、その湖底には竜がいるという。
    なぜ水が引かずに今も湖として残っているのか?科学や理屈に基づいた多くの説があるが、ほとんどの人々は竜が湖底で悲しみに暮れて泣いているからだと信じている。
    故にその湖は、いくつもの国で"涙の泉"と呼ばれているのだ。
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