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    etoeto26

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    海枯れ前の暁の日記のような独白のような感じです
    文章です
    イメソンはポ…ノ…グ…フィ…のシスターです

    好きな男がいた。
    物心がつくよりもずっと昔、気がついたら隣にいた幼馴染の男を自分は愛しているのだというのに気づいたのがいつかも思い出せないほど、その感情は当たり前に全ての日々に馴染んでいる。当たり前過ぎて想いを伝えることもせず、かといって一番仲の良い友人としての居場所も手放せず一緒にいながら俺の気持ちは常に宙に浮いていた。ただ「一緒にいたいから」という理由で大学まで同じ進路を選ぶなど自分でも人間としてどうかと思うが彼は何も言わずに同じ学校を選んだこと、同じクラスになれたことをその度に喜んでくれていたので俺はその居場所に甘んじていた。甘やかされていたのだ。
    大学卒業後のことを考えていなかったわけではない。むしろそればかり考えていた。今後、自分は彼とどうなりたいのか。どうしたいのか。仕事については敢えて全く違うもの、在学中から趣味が講じて時折賞を貰っていたのもあり物書きになることにした。なるべく一人でできるものを選んだ。そもそも俺は一般的な社会人になれる素養も根性も向上心もない。勉強も彼についていくためにしていただけだ。彼は狙っていた企業の内定をもらったと嬉しそうに報告をしてきたので俺はただおめでとうと返事をした。卒業式の後も二人で初めての酒を飲みお互いの将来のことを祝いながら、一層のこと酔いの勢いに任せれば良いものをついぞ告白することはなかった。十年以上隣の席に執着しておいて自分でも恐れ入る。

    結論から言えばその後も連絡が途絶えることはなかった。何かにつけて向こうから度々現状報告と俺の生存確認として連絡を寄越してくるのだ。後者に関しては学生時代から容姿のことが原因で精神的な不調があったためもう随分と心配をかけている。自分で言うのも何だが、俺の容姿は老若男女問わず視線を惹きつけやすいらしい。この顔で二十年以上過ごしているのだからどれだけ鈍感に生きることを心がけたとて白々しいほど自分から切っても切り離せない一つ。要するに滅茶苦茶モテた。元々内向的な俺には本当にありがた迷惑な話だ。それが原因で壊れたコミュニティは数知れず。今風に言えば所謂「サークルクラッシャー」である。誠に遺憾だが。一人でできる仕事を選んだ理由の一つでもある。このまま就職などしていたらサークルクラッシャーからカンパニークラッシャーに成り果てていただろう。そう言い切れるほど成人してからも俺の顔面偏差値は常に100を上回っていたし俺も自分以上に容姿が優れている人間には出会ったことがない。これは驕りではない。彼もそれなりの容姿で人を惹きつけていたがそれは社交的な性格のおかげでもある。このような経緯で俺は自分の容姿をかなり疎んでいた。悪い方の意味で容姿について悩んでいる人からしたら恨んでも恨み足りないだろう。そういう人々に読まれていないことを祈る。

    話が大幅に逸れた。
    上記のように定期的に連絡を寄越していた彼だが、ある時からぴたりとそれが途絶えた。とは言えそれぞれ働いている身でむしろ今まで気にかけられていたことの方が稀だったのだとこの時は思っていた。彼程の人物が俺以外の人間に惹かれないわけもない。次にもし連絡が来たら結婚報告かもしれないな。結婚式に招待されてもされなくても嫌だな、間違っても司会には選ばれないであろうなどと考えていた。

    真冬だというのに汗と動悸が止まらない。扉を開けて息を切らす俺を見て彼は笑った。以前と変わらない朗らかで見ているものを安心させてくれるような笑顔だった。だが今回ばかりはそれが逆に不安を煽った。点滴から薬が垂れる音と電子音と俺の吐息だけが病室に響いていた。
    「嫌じゃなければ俺の家で過ごさないか」
    今までで一番思い切った発言だった。鼓動がうるさかった。涙が溢れそうだった。彼は少し驚いたあと笑って了承してくれた。ありがとうとも言われた。どうして自分が代わってやれないのだろう。もし彼を救ってやれるなら俺の命は惜しくないなどと本気で思う日がくるなど幼かった自分はつゆ程も考えていないだろう。

    彼に好きだと言われた。俺は面食らった。気づいていなかったわけではない。散々隣にいて向こうが俺の気持ちに気づかないわけもない。しかしこの状況にならなければ伝えられなかったかもしれない気持ちだ。涙が溢れた。俺が泣いてどうする。そう思えば思うほど止まらなかった。俯いて泣くことしかできない俺を彼は温かい身体で抱きしめてくれた。ああ、この体温がいつまでもこれからも傍にあってくれたならどれだけ幸せだったことだろう。俺はこの時やっとの思いで今まで抑えてきた自分の気持ちを伝えることができた。こんなことになるまで言えなかった自分を恨んだ。俺が想いを伝えることで何かが変わったとは思わない。だけどもう少し早く伝えていられたら、もう少し早く傍にいられたらと思わずにはいられない。

    ある時彼が泣いていた。子供の頃以来初めて泣いているのを見た。死ぬのが怖い。ひとりになりたくない。当たり前だ。むしろよくここまでそれを言わずに我慢していたものだ。俺は覚悟を決める。もう時間がない。



    自分がいつスーツのジャケットに袖を通したのかはっきりと思い出せない。事は淡々と筒がなく進んだ。家族とはここ数年不仲であったらしいが泣き崩れた彼の母親を父親が支えていた。久しぶりに会った俺にたくさん謝りお礼も伝えてくれた。不謹慎だが俺からすると本人が生きている間にそれを伝えてやれば良かったのにと思わずにはいられなかった。寂しくて不安で悲しみでいっぱいだった彼のことを俺がどれだけ支えてやれていたのだろう。
    死なないで欲しい、暁には生きていて欲しい。生きて幸せになって欲しい。地獄だ。今更それを言うのか。お前の後を追う覚悟をとっくに決めていた俺に。一緒に死んでも構わないと思っていた俺に。俺がこれから生きる世界は地獄だ。他は文字通り全て墓まで持って行ったお前が俺にだけ与えた地獄だ。彼無しの世界に俺は永遠に放り出されて漂うことになってしまった。

    海が泣いている。
    そう思ったのを最後に俺の意識は途切れた。
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