ショートヘアうなじを隠し、肩甲骨ほどまで伸びた黒髪を見て、みんな一様に「暑くないのか」と質問してくる。
特にこんな夏の日には。
暑いに決まっている。儂は男だ。誰が好んでこんなに伸ばすと思うんだ。
長年手入れしながらも伸ばし続けた髪は、やはり、夏が来る度切りたくなる程鬱陶しい。
風に吹かれると邪魔だし、汗で肌に張り付くし、良いことなんてない。
それでもこの長さをキープしているのは、好きな奴の好みのタイプが『髪の長い奴』だったからだ。
振り向いてもらえる可能性はゼロ。それでもこんなものに縋りたくなるほどに、余裕が無かった。願掛けのようなものだ。
……なんて女々しい理由だろうと、自分でも嫌気がさすが、今更この気持ちは変えようがない。
1840