ミタロイ両片想い泣き受け添え薄暗い部屋に差し込む月光が、ロイエンタールの艶やかなダークブラウンの髪を照らし、その髪一本一本が絹のように滑らかに輝いていた。おれは思わず息を呑む。ロイエンタールの美しさはいつもそうだ。右目は深淵のような黒、左目は澄んだ青の金銀妖瞳が、まるで夜空に浮かぶ星と月のように対照的で、目を離すことができない。おれ、ミッターマイヤーは、長い付き合いの中で何度もこの顔に見惚れてきたが、今夜はその輝きがいつも以上に心を締め付ける。
「卿、どうしたんだ? 顔が暗いぞ」おれはソファに腰を下ろし、目の前のロイエンタールに声をかけた。ロイエンタールは窓辺に立ったまま、月を見上げている。おれの言葉に反応して、ゆっくりと振り返ったその顔は、どこか儚げで、普段の鋭さが影を潜めていた。
「おれには分不相応な場所が多すぎるのかもしれない、卿」ロイエンタールが静かに呟いた。声は低く、少し掠れている。おれは眉を寄せる。ロイエンタールがそんなことを言うなんて珍しい。いや、珍しいどころか、ありえない。
「何だそりゃ。分不相応って、卿がそんな言葉を使うなんておかしいじゃないか、ロイエンタール」おれは軽く笑ってやった。だが、ロイエンタールの表情は変わらない。むしろ、ますます暗さを帯びていく。おれの胸に嫌な予感が広がった。
ロイエンタールは一歩近づいてきた。月光がその顔を横から照らし、完璧に整った鼻梁と、鋭い顎のラインを際立たせる。絶世の美男子とはロイエンタールのためにある言葉だ。おれは内心でそう認めながらも、表面上は平静を装う。だが、ロイエンタールの次の言葉に、おれの心は一気に乱れた。
「おれのような男は、卿のそばにいるべきじゃないのかもしれない。卿にはもっと相応しい相手がいるだろう」ロイエンタールが目を伏せながらそう言った。おれは一瞬、言葉を失った。何? 卿がそんなことを言うのか? おれの知るロイエンタールは、有能で、誇り高くて、そして誰よりも美しい男だ。それが今、自分を卑下してるだと?
「ふざけるなよ、お前」おれは立ち上がり、ロイエンタールの肩を掴んだ。「おれのそばに相応しくないなんて、誰が決めたんだ? 卿がそんな気分でも、おれには関係ない。卿がいるのが当たり前なんだよ、ロイエンタール」
だが、ロイエンタールは目を逸らした。その金銀妖瞳が揺れている。おれには分かる。ロイエンタールはおれを遠ざけようとしてる。わざとだ。嫌われようとしてるんだ。だが、なぜだ? おれの頭がぐるぐる回る中、ロイエンタールが口を開いた。
「卿、おれは汚れてる。お前にはもっと清らかな奴がふさわしい。おれみたいなのは…」言葉が途切れ、ロイエンタールが唇を噛んだ。おれは目を細める。ロイエンタールが自分を卑下する理由が分からない。おれにとって、ロイエンタールは完璧すぎる存在だ。戦場での鋭い判断、冷静な頭脳、そしてこの誰もが振り返る美貌。おれがロイエンタールをどれだけ信頼し、どれだけ…愛してるか、ロイエンタールは分かってないのか?
「お前、わざとらしいんだよ」おれは敢えて声を低くした。「おれを遠ざけようとしてるのが見え見えだ。嫌われようとしてるだろ? だがな、ロイエンタール、そんな演技、下手すぎるじゃないか」おれはロイエンタールの顎を掴み、無理やり顔を上げさせた。すると、そこには予想外の光景があった。
ロイエンタールの目から、一筋の涙が零れ落ちていた。月光に照らされたその涙は、まるで宝石のように輝き、ロイエンタールの美しさを一層引き立てる。右の黒い瞳は濡れて深みを増し、左の青い瞳は涙に滲んで儚く揺れていた。おれは息を止めた。ロイエンタールが泣くなんて、初めて見た。いつも冷静で、感情を表に出さないロイエンタールが、今、おれの前で涙を流してる。
「おれは…おれは卿を汚したくないんだ…」ロイエンタールが震える声で呟いた。「おれがこんな気持ちを抱いてるなんて、卿に知られたら…お前が遠ざかるなら、それでいいと思った…でも、おれ…嘘がつけなくて…」言葉の途中で、ロイエンタールの声が詰まった。両手で顔を覆い、肩を震わせる。おれはその姿に胸が締め付けられた。
なんて健気なんだ、ロイエンタールは。おれから身を引こうとして、自分を犠牲にしてまでおれを守ろうとしてる。その涙が、その震える肩が、愛おしくてたまらない。同時に、こんな美しい男が泣いてるなんて、可愛すぎるじゃないか、ロイエンタール。おれはロイエンタールの手をそっと外し、涙で濡れた顔を見た。完璧な美貌が涙で歪んでるのに、それでも美しさが損なわれない。おれの心が疼いた。
「お前、馬鹿だな」おれは優しく笑って、ロイエンタールの頬を拭った。「おれだって、卿が好きだよ。ずっと前から。卿がそんな気持ちを抱えてたなら、もっと早く言ってくれ、ロイエンタール」
ロイエンタールが目を見開いた。涙が止まらず、ぽろぽろとこぼれ落ちる。「卿…本気か?」ロイエンタールの声が震えてる。おれは頷き、ロイエンタールの額に自分の額をくっつけた。
「ああ、本気だ。おれは卿が好きだ、ロイエンタール。卿がおれを想ってくれてるなら、それでいい。卿が泣くなんて、もう見たくない」おれはそう言って、ロイエンタールの唇にそっとキスをした。ロイエンタールが一瞬固まった後、おれの背中に腕を回してきた。その腕が少し震えてるのが、おれには分かった。
「ミッターマイヤー…おれも、お前が好きだ…」ロイエンタールが囁いた。お互いの気持ちが通じ合った瞬間、部屋に静かな幸福が満ちた。おれはロイエンタールの髪を撫でながら、心の中で誓った。もう二度と、ロイエンタールを泣かせたりはしない。おれとロイエンタールは、これからもずっと一緒にいるんだ。