月と太陽の夜冷たく静かな夜が、帝国の首都オーディンを包んでいた。星々が天空に散りばめられ、その光は宮殿の窓から差し込む月光と交じり合い、室内に淡い輝きを投げかけていた。ラインハルト・フォン・ローエングラム、銀河帝国の若き皇帝は、黄金の髪を月光に浴びせながら、窓辺に立っていた。輝く美貌は太陽の化身のようで、その瞳には今宵、柔らかな光が宿っていた。

「卿を呼んだのだ、ロイエンタール」と、ラインハルトは振り返り、部屋の入り口に立つ男に声をかけた。「余の傍へ参れ。さあ、遠慮は無用だ。」

オスカー・フォン・ロイエンタールは静かに一礼し、足音も立てずに近づいた。右目は深い黒、左目は鮮やかな青の金銀妖瞳が、端麗な顔立ちに妖艶な魅力を添えていた。整った眉は優美に弧を描き、薄い唇は静かな意志を湛えている。月光に照らされた彼の姿は、静かに光る月そのもので、ラインハルトの輝きと対を成しながらも、どこか儚げな美しさを漂わせていた。「陛下、お呼びとあれば、いかなる時も馳せ参じます。作戦会議でしょうか？」と、彼は落ち着いた調子で尋ねた。

ラインハルトは小さく笑い、テーブルの上に置かれたワインの瓶と二つのグラスを指し示した。「作戦会議ではない。今宵は卿と二人で杯を交わしたいと思っただけだ。どうだ、ロイエンタール、余と共に飲むのは嫌か？」

ロイエンタールは一瞬目を瞠った。作戦会議かとばかり思っていた彼にとって、これは予想外の誘いだった。「陛下、それは……」と、言葉を濁し、内心では動揺が広がっていた。（おれをワインに誘うだと？ 何だ、この状況は……）心の中で「おれ」という声が彼の本音を漏らしていた。

ラインハルトはグラスに赤い液体を注ぎ、彼に差し出した。「余が卿を呼び出したのだ。断るつもりはあるまい？」と、柔らかくも命令的な口調で言う。ロイエンタールは迷ったが、その輝く瞳に見つめられると、抗う術を知らなかった。「恐縮です、陛下」と呟き、グラスを受け取る。その端麗な指先が僅かに震え、月光に照らされた顔には微かな緊張が浮かんでいた。

「卿の手が震えているようだな」と、ラインハルトはグラスを口に運びながら、にやりと笑った。「余と二人で酒を飲むなど、そんなに緊張するものか？」

「いえ、陛下、私にはそのようなことは……」と、ロイエンタールは慌てて否定しようとしたが、言葉が途切れる。ラインハルトの視線があまりにもまっすぐで、金銀妖瞳が揺れ、頬が僅かに紅潮していた。（おれとしたことが、こんなことで動揺するとは……）と、自嘲するも、その表情には隠しきれぬ照れが滲んでいた。

ラインハルトはそんな彼をじっと見つめ、やがて口元に笑みを浮かべた。「卿、可愛いな」と、さらりと告げた。ロイエンタールの端麗な顔に驚きが走り、青い左目が大きく見開かれ、黒い右目が僅かに細まる。普段の冷徹な仮面が剥がれ、唇が小さく震え、困惑と羞じらいが交錯する表情が月光に映えた。

「陛下、何を仰いますか」と、彼は平静を装って返すが、声が上擦り、長い睫毛が僅かに伏せられてその動揺を隠そうとしていた。ラインハルトはその一瞬の機微を見逃さず、さらに身を乗り出して彼を覗き込む。「何だ、照れているのか、ロイエンタール。余には隠せぬぞ。卿のその顔、戦場で見せる姿とはまるで別人のようだ。面白いとは思わぬか？」

「陛下、私はそのようなつもりでは……」と、ロイエンタールは弁解しようとしたが、ラインハルトの笑顔に言葉を奪われた。輝く美貌が近づき、月光の下でその瞳に見つめられると、彼の整った顔に熱が上るのを止められなかった。（ラインハルト様……何故こんな目に……）と、心の中で切羽詰まった声が響く。頬に浮かんだ紅潮が、彼の妖艶な美しさを一層際立たせていた。

ラインハルトは満足そうに笑い、再びグラスを手に取った。「まあよい。今宵は戦の話は抜きだ。卿とこうして過ごすのも悪くないであろう？」と、優雅にワインを傾けた。

ロイエンタールは小さく息をつき、グラスを手に持ったまま頷いた。「陛下のお言葉に甘えさせていただきます」と答えつつ、心の中では（おれはどうやら、この陛下には敵わんな）と、諦めと温かさが交じった思いが広がっていた。

月光の下、二人のグラスが静かに響き合い、夜は更けていく。太陽と月、輝きと妖艶さが交錯するこの瞬間は、彼らだけの秘密のように、静かに刻まれていった。