美丈夫でも風邪引く受は見たい朝から喉の奥に僅かな違和感があった。おれはそれを無視して書類に目を通し、元帥府の執務室でいつものように部下に指示を飛ばしていた。だが、日が傾くにつれ、その違和感は熱を帯び、頭の奥に鈍い痛みが広がり始めていた。風邪だろうか。いや、そんな些細なことでおれの歩みが止まるはずはない。そう自分に言い聞かせながら、デスクに積まれた報告書を片付け続けた。
ロイエンタールは右目に深い黒、左目に鮮やかな青を持つ金銀妖瞳の持ち主だ。長く美しい睫毛がその異色の瞳を縁取り、通った鼻筋と白磁のように滑らかな肌が完璧な均衡を保っている。艶やかなダークブラウンの髪が指先に滑り、長身でスタイルの良い姿は動作一つ一つに優雅さを宿していた。だが、本人はその美しさを把握していても、まるで無頓着だ。鏡に映る姿を一瞥し、髪をかき上げた彼の仕草にすら、余人には及びもつかない気品が漂う。しかし、おれにはその矜持がある、と彼は考えるのみで、自分の容姿には興味がないらしい。
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