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    kimikoSunohara

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    kimikoSunohara

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    【千ゲン】千空ちゃんって出会う前から割と俺のガチファンだったよね?

    石化前に千空がゲンの握手会にいく話。
    遺伝子レベルで惹かれあう千ゲンを書きました。

    うろこ雲がたゆたう晴天の小春日和のことだった。
    石神千空は、幼なじみの大樹、杠の二人と共に近所のショッピングモールに訪れていた。
    「ったく、なんで俺がわざわざ休みの日に野郎と握手するためなんかにこんなとこまで来なきゃいけねーんだ…」
    千空は、眉間に皺を寄せて耳の穴をほじりながらぼやいた。
    「せっかくチケットをもらったんだからいいだろー!!俺は芸能人に会えるなんて初めてだぞ!!」
    「私も私も!!芸能人をこんな間近で見られるなんて初めてだよ!」
    寝起きのようにテンションの低い千空とは違い、テンションが高まっているのは似た者夫婦の大樹と杠だ。
    「?んなもんテレビで見んのと同じだろうが。むしろ加工ができねーぶん、実物のほうが見劣りにするに決まってんだろうが」
    千空は毒を吐きながら、小指についた耳垢をふぅっと吹き飛ばす。
    今日はショッピングモール内に併設されているイベント会場で、メンタリストあさぎりゲンの握手会があるという。
    もとより千空は、あさぎりゲンに興味など更々なかった。百夜が好んで見ていた深夜のバラエティー番組によく出ていたから、顔と名前は一致している程度の認識である。
    ならばなぜ興味の欠片もない芸能人の握手会に参加することになったかと言えば、あさぎりゲンの大ファンである科学部員が急な家庭の事情で握手会に参加出来なくなったためだった。
    驚くべきことに、その後輩の科学部員は、あさぎりゲンと握手したいがためにゴミのような心理本を3冊も買ったのだという。なんでもゴミ心理本一冊につき一回の握手券がついてくるらしかった。
    せっかくなけなしの小遣いをはたいてゲットした握手券だが、家庭の事情を投げ捨ててまで会場に駆けつけられないのは未成年の悲しい性である。
    せめて握手券をただの紙切れにはしたくないという後輩の科学部員に泣きつかれ、千空たちは代わりに握手会に参加することとなったのだった。

    千空はあくびを噛み殺しながら待機列に並んだ。
    イベント会場は人混みで騒然としている。あさぎりゲンはなかなかに人気があるらしい。
    「ぁ、早く帰りてぇ。続きを進めたい宇宙の研究が山ほどあるってつーのに」
    後輩には、是非ともツーショットを撮ってきて欲しいとせがまれたが、そんな写メを撮ったことがバレたら百夜にどれだけ笑われるか。
    「千空、たまには息抜きも大事だぞ!それにしても人がたくさんいるな!あさぎりゲンは人気なんだなぁ」
    「フン…意外と野郎も多いよな」
    千空は、待機列を見渡しながらつぶやいた。女だらけの会場を覚悟して来たが、三分の一程度は男の姿が垣間見える。
    「あさぎりゲンって同性のファンも多いらしいよ、千空くん」
    と、杠が言い添えた。
    「男らしいっていうよりは線も細いし、元々中性的な顔つきだし。女装させたら絶対美人だよ」
    「? 野郎が男の容姿なんか褒めてなんになるっつー……」

    列が進んで、当のあさぎりゲンの姿が見えると、千空は言葉を失った。
    実物のほうが見劣りするなんて大嘘だ。
    目の前にいるあさぎりゲンは、テレビ番組で見るよりもずっと線が細く華奢で眉目秀麗だった。
    メンタリストという肩書きを知らず、ファッションモデルだと言われたら信じただろう。
    ほんの一刹那でも、あさぎりゲンに見惚れたなどとは口が裂けても言えない。
    だが、なんだか急に動悸が激しくなってきて、千空は驚いた。
    今まで誰かにこんな感情を抱いたことはなかった。
    あっという間に順番がまわってきて、千空はあさぎりゲンの前に歩み出る。
    千空を目にして、あさぎりゲンはにっこりと微笑んだ。
    「お疲~~。長いことお待たせしてごめんねぇ」
    「…………」
    千空は、思わず押し黙る。気付いた時には緊張していた。元々ファンではないのだ。何を話していいのかもわからない。あさぎりゲンを目前にすると、心拍数があがり、手汗をびっしょりかいていた。
    こんな手を差し出していいものかと躊躇する。

    「今日はお友達と来たの?俺のファンじゃないでしょ?」
    戸惑っている千空を見かねて、あさぎりゲンは小首を傾げ優しい声音で囁いた。千空ははっと顔をあげる。
    「わかんのか?」
    「そりゃわかるよ~。目を見たら。訴えかけてくる熱量が違うもん」
    「クク。物分りが早くておありがてぇ。ゴミ心理本書いてた割にはやるじゃねぇか、メンタリスト」
    「ゴミ心理本ってひどいねぇ、君、名前はなんて言うの?学生でしょ?何部?」
    「石神千空。科学部」
    「千空ちゃんね~、科学部とかゴイスー頭よさそ~」
    あさぎりゲンは、千空の手をそっと優しく握った。
    ふわりと甘い匂いに包まれる。
    ガツンと頭を殴られたような、衝撃的な香りだった。こんなに恋焦がれる匂いを千空は知らなかった。
    激しい電流が全身を駆け抜けたような気がした。
    「ほら、でも一応、ここは俺の握手会だからさ。一応形だけでも握手はさせてね? そんで今から千空ちゃんが俺のこと大好きになる特別な魔法をかけてあげる」
    千空は、ぐいっと思わぬ力であさぎりゲンに引き寄せられた。
    吐息のかかる距離で、そっとゲンは囁いた。

    「科学少年の千空ちゃん、遺伝子レベルで惹かれ合う相手はとてもいい匂いがするんだって。知ってた? 千空ちゃんはなんだかとってもいい匂いがするね。千空ちゃんも俺がいい匂いって思う?そうだったら今度は一人でも会いに来て欲しいな」

    呆気にとられている間に、ゲンはぱっと手を離した。
    「またね~、千空ちゃん」
    あさぎりゲンはにこっと微笑んでひらひらと手を振った。
    列は流れ、千空の持ち時間は終幕した。


    「千空くん、どうだった、握手」
    握手を終えた杠が千空の近くにやってきた。
    「杠、あさぎりゲンが使ってる香水、なんてやつか知ってるか?」
    「香水?香水の匂いなんてしたかな?」
    杠は、不思議そうに首を傾げた。隣にやってきた大樹も頷く。
    「千空ー!!あさぎりゲンから香水の匂いなんてしなかったぞ!!」
    「?? 鼻詰まってるんじゃねーか、お前ら」
    「俺は風邪なんて引いていないぞ!!」
    「花粉症ってわけでもないし、私も鼻炎とかじゃないはずだけど。本当に香水の匂いがしたなら気付いたと思うけどな?」

    だったら、あの甘い香りはなんだったのか。
    あさぎりゲンは、千空のこともいい匂いだと言っていた。だが、千空とて普段から香水を愛用するような習慣はない。
    千空は、ふと手の中に何かあることに気づいて掌を開いた。いつの間に握らされていたのか、手の上には犬鬼灯の花が一輪、ちょこんと乗っていた。
    鼻腔を近づけて、犬鬼灯の匂いを嗅いでみる。
    微かに花の香りがしたが、やはりゲンからした蠱惑的な甘い香りとは全然違った。
    杠や大樹の宣告通り、千空しかゲンの甘い匂いに気付いた者がいないなら、それはもう科学の謎である。
    千空は指先を一本、顔の前にかざした。

    ドンッ

    「人間が匂いを感じるレセプター(受容体)は約400種類。うちレセプターの遺伝子構造によって、同じ匂いでも受け取り方は異なる。HAL遺伝子、通称恋愛遺伝子は、自分と違う遺伝子配列を持つものに強く惹かれ、匂いによって無意識に相手を選別しているという研究結果が出ている……」

    つまり、あのいんちきマジシャンは、千空が遺伝子レベルでゲンに惹かれるマジックをかけたということになる。
    マジックで遺伝子配列を組み替えるなどありえない。あったとしたらそれはファンタジーだ。

    「ククク、唆るじゃねぇか。絶対に種明かししてやる……」

    千空は、悪い顔をしてニヤリと笑った。

    「なぁ、杠。あそこの物販に売ってるゴミ心理本買えば、もう一回あさぎりゲンと握手できんのか?」

    「え?!そうみたいだよ!心理本一冊につき握手券が一枚ついてくるんだって。って、千空くん、また並ぶの?!」
    「千空はそんなにあさぎりゲンが気にいったのかー!!」

    「うるせえな。ちょっと気になる謎があんだ。てめぇらは先帰ってろ」

    千空は大樹たちと別れゴミ心理本を買い漁り、その後10回以上、握手会の待機列に並んだ。

    ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


    電球の仄かなあかりの中、千空は天文台で文明復活に向けたクラフト作りのためのロードマップを書いていた。
    ふいに肩に体温を感じて横を見れば、眠たげなあさぎりゲンがうとうとと船を漕ぎ、千空の肩にもたれかかっていた。隣で作業を手伝わせていたのだが、疲れ果てて寝てしまったらしい。
    千空は、ふいにゲンのうなじに顔を寄せた。
    たまらなく甘い香りがして、深く息を吸う。
    千空は、ゲンの匂いが好きだった。
    ゲンから漂う甘い香りは石化前から何も変わっていない。そしてゲンの匂いの虜になっているのは旧世界でも新世界でもどうやら千空だけのようだった。つまり3700年経っても、あさぎりゲンのマジックは解けていないことになる。それは千空にとってみれば、石化の次に不可解な謎だった。
    「ん……?千空ちゃん?」
    ふいに目を覚ましたゲンが眠たそうに目を擦る。
    「いい匂いがする」
    千空は、ゲンを抱きしめて囁いた。
    「あ~、千空ちゃん、俺の匂いゴイスー好きだもんね。俺も千空ちゃんの匂い好きだよ、ジーマーで。千空ちゃんの匂いがするとなんだか安心するんだよねぇ」
    ゲンがしみじみと呟き、ぴたりと身体を密着させる。
    なぜゲンはこんなにもいい匂いなのだろう。
    「……お前、なんか香水でも作ってんのか?」
    「え?俺が?香水なんて一人でクラフトできるわけないじゃない。千空ちゃんじゃあるまいし。花は好きだけどさ」
    ゲンは、驚いて目をぱちくりさせた。
    「てめぇのいい匂いはファンタジーすぎる」
    「あー、千空ちゃん。握手会の時のマジック、まだ気になってたんだ?」
    「てめぇ!!覚えてやがったのか!!」
    千空は耳の裏まで真っ赤になった。
    謎解きのためとはいえ、野郎の握手会に何十回も並んだことは、千空の中では黒歴史以外の何物もない。しかもゲンは覚えていないと思ってこれまでやり過ごしてきたというのに。千空はあまりの恥ずかしさに穴があったら入りたかった。
    ゲンは、楽しそうに肩を揺らして笑った。
    「そりゃ覚えてるよ。初めは死んだ魚のような目をして列に並んでた科学少年が次第に目をキラキラさせて何度も何度も握手にくるんだもん。ゴイスー可愛くってさ。3700年経っても忘れらんないよ」
    千空はむぅと唇を尖らせる。
    「……あんときゃ、どういうマジックだったんだ。教えろ。降参だ」
    「知りたい?」
    「ぁ、さっさと教えろ。気になって、夜しか眠れねぇ」
    「なにそれ、眠れてるじゃん!」

    ひとしきり腹を抱えて笑ったあと、
    あさぎりゲンは柔らかな微笑を浮かべ、千空に触れるだけのキスをした。

    「あのね、千空ちゃん」

    千空はもっとだと強請るように、ゲンの唇を追いかけ床に押し倒す。
    あさぎりゲンは熱の篭った視線で千空を見つめ、手の甲に口付けた。

    「種もしかけもございません」
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    kimikoSunohara

    SPOILER【千ゲン】z=1.9.7 その後の劣情、七年越しの愛欲について

    ※注意 がっつり本誌のネタバレというか本誌(z=1.9.7)のその後のお話です!!
     七年ぶりのマジックショーを終えて、宴もたけなわになり夜もふけると、みんな酔いつぶれて寝てしまった。
     全員が寝泊まりできる民家なんてあるはずもなく、みんなで焚き火を囲んでの雑魚寝だ。
     サマーキャンプみたいで悪くはないけど、贅沢を言えばふかふかのベッドと柔らかい布団が恋しい。
     俺はその夜、なんだか寝付きが悪かった。
     七年ぶりに目覚めた興奮が覚めきらないのか、起きたり眠ったり浅い眠りを幾度も繰り返していたところ、誰かに足をつんつんとつつかれる。
     そっと目を開けると、千空ちゃんが俺の顔を覗き込んでいた。

    「せんく……ちゃん? ……どうしたの?」
    「ゲン、ちょっとこい」

     千空ちゃんに腕を掴まれて、俺は眠たげに目を擦りながら起きあがる。

    「司ちゃんとの話はもういいの?」
    「ぁ、終わった。次はテメーに話がある。ちょっと来い」

     千空ちゃんに改まってそう言われて、強引に手を引かれる。
     こんな夜中に話ってなんだろ。
     俺はなんだか少し不安になって千空ちゃんに手を繋がれたままあとをついていく。
     夜の森は暗かったけれど月光がどこまでもついてきて足元を照らしていた。
     ジャングル 2885