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    kimikoSunohara

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    kimikoSunohara

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    【千ゲン】千空ちゃんとタコパしたらゴイスー楽しかったよっていうただの惚気話だけど需要ある?

    復興後、ナチュラルに結婚した千ゲンがイチャコラしながらみんなでわいわいタコパする幸せいっぱいの話です。千ゲンがひたすらバカップルしてます。
    ※ちょっとだけクロルリ描写あります。

    これは世界が復興して、俺と千空ちゃんが籍を入れたばかりのいわゆる新婚ほやほやの時期の頃の話なんだけどね。
    千空ちゃんは、なんだかよくわからないゴイスーな科学賞を受賞したの。

    俺は千空ちゃんのパートナーだったので、千空ちゃんが受賞した賞の記念式典とかセレモニーとか祝賀会とかとにかく色んな式典やパーティーに連れ回される羽目になった。

    確かに千空ちゃんがすごい賞をとったのは嬉しい。
    千空ちゃんが一生懸命、研究に勤しんでいるのは俺も知ってたし。
    でも、いくら千空ちゃんのパートナーだからって、堅苦しい式典にばかり列席させられると、俺もだんだんストレスが溜まる。
    これが俺のための式典だったなら退屈しない。
    俺は観客に好きなだけマジックを披露すればいいだけなのだから。
    だけど千空ちゃんのための式典に、世間一般的な言葉で言う千空ちゃんの奥さんっていう立場で式典に参列するのは正直ちょっとつまらない。
    飛び交うのは、どこもかしこも俺のわからない科学の専門用語ばかりだし、俺は千空ちゃんの評判をさげる訳にもいかないから、ずっとにこにこと愛想笑いをして、千空ちゃんの傍らに立っていないといけない。そう、こういう式典において、俺はただの添え物でしかないのだ。
    石化前だったらそれでもよかった。文明復興のためだって何でも我慢できた。だけど、今の俺はもっと欲張りになっている。
    マジックしたいし注目されたい。みんなを楽しませたい。ただの置物みたいにじっとしているのは窮屈だ。

    あれ? 俺、ひょっとして内助の功とか実は向いてない?

    「もうリームー!!リームー!!」
    帰りの車の中で、俺はハンドルを握ったまま喚いていた。助手席に座る千空ちゃんが、ネクタイを緩めながら言った。
    「? 別に無理に参加しなくたっていいんだぞ?」
    「招待したパートナーが欠席とか不仲を疑われんのも嫌だし、千空ちゃんに恥かかせるのも嫌だ!」
    「んなの気にすんのは、てめぇだけだ」
    千空ちゃんは、俺の本質をよくわかっている。
    何より千空ちゃんだって、堅苦しい式だの華やかなパーティーだのは好まない人だ。堅苦しいスーツも大勢の人前に出てスピーチするのだって、本当は好きじゃない。ただ千空ちゃんは、科学に没頭して好きな研究がしたいだけ。賞レースはそれに付随する副産物に過ぎない。だから、俺が授賞式にいなくたって千空ちゃんは気にしないだろうけど、俺は気にする。
    いつだって、俺は千空ちゃんの完璧なパートナーでいたい……、これはただの俺の見栄であり願望だけど。
    でも、俺だってそこまで人間ができてるわけじゃなくて……。

    「って言うかね!!千空ちゃん、俺、最低なわがまま言っていい?!」
    「クク…、なんだ言ってみろ」
    千空ちゃんは可笑しそうに喉の奥で笑った。
    「ここんとこ毎日毎日、式典だ祝賀会だって高級料理のフルコースばっかり食べさせられんのがもう耐えらんない!!ジャンクフードが食べたいの!!あとコーラも!!我慢できない!!」
    「~、それは少し同意する。食うもんもろくになかった石化前じゃ考えられなかった贅沢な悩みだけどな。フォアグラだのキャビアだのお高級品が続くとたまらなくラーメンが恋しくなるなぁ……」
    隣で目を細める千空ちゃんをガン無視して、俺は目を血走らせた。
    「それより今日はこのままマックかケンタに寄っていい?!ドライブスルーで我慢するから!!」
    「待て待て待て」
    勢いのままアクセルを踏み込みハンドルを切ろうとする俺を、千空ちゃんが止めた。
    「ジャンクフードがそんなに食いたいならもっといい方法がある。家に帰んぞ」




    「ねぇ、千空ちゃん。今からフライドポテトでも揚げてくれんのー?」
    家に帰ってラフな格好に着替えると、千空ちゃんは押し入れをごそごそ漁り始めた。
    「違ぇ。今からやんのはこれだ」
    千空ちゃんが押し入れから出してきたのは、丸い穴がたくさん空いている鉄板だ。
    「千空ちゃん!!それって!!」
    「ぁ、たこ焼き器だ」
    「ジーマーで?! 俺、タコパしたい!!」
    俺はテンションぶち上げで立ち上がる。
    その時、ピンポーンとインターフォンがなった。
    「はいはい~、どなた~?」
    「よう、ゲン。ついさっきぶりだな」
    玄関を開けると、さっき式典で別れたばかりのクロムちゃんがいた。クロムちゃんは、今も千空ちゃんと同じラボで働いているのだ。
    「クロムちゃんじゃん。どうしたの?」
    「千空がタコパっつーのをすっから遊びに来いって、さっきメールで。言われた通り材料買って来たぜ」
    クロムちゃんはスーパーの袋を掲げてみせた。
    「で、なんだたこ焼きって?そんなうめーのか?」
    クロムちゃんがキラキラと目を輝かせる。
    「そっか。石神村のみんなはたこ焼きまだ食べたことないんだっけ」
    「新居のお披露目会も兼ねて丁度いいだろ?どのみち近いうちに集まろうぜって話してたんだ。つーわけで暇してそうなやつ全員に声掛けといた」
    千空ちゃんが背中から抱きついてくる。千空ちゃんは相変わらず仕事が早かった。
    俺は千空ちゃんに体重を預けるようにして千空ちゃんの肩に頭を乗せる。
    籍を入れてからというもの千空ちゃんは人前でも堂々と甘えたりスキンシップをとるようになった。それが俺はちょっぴり嬉しい。
    「そりゃゴイスー急だねぇ。まぁいいけどね、タコパはみんなでしたほうが楽しいし」
    「おい、千空、ゲン!!いつまでもイチャついてねーで、どうやって作んのか教えろよ!!」
    勝手知ったる態度でキッチンにあがりこんだクロムちゃんが叫ぶ。
    「うるせぇな、こちとら新婚だバカ。イチャつくのが仕事だ」
    「ん~…、仕事ではないと思うけど……」
    俺はくすくす笑って千空ちゃんと指先を絡めて繋ぐ。

    とりあえずみんなが集まるまでに下ごしらえをすませようって話になり、俺と千空ちゃんもエプロンをつけてキッチンに立った。
    千空ちゃんとクロムちゃんはボウルに薄力粉、卵、水、牛乳なんかを混ぜ合わせてたねを作っている。
    俺は、包丁を握ってタコをぶつ切りに切ることにした。
    「ルリちゃんは今日は来ないの?」
    「おー、来たがってたけど今つわりがなぁ……」
    クロムちゃんは、一足先にルリちゃんと結婚した。ルリちゃんは今妊娠3ヶ月だ。
    「嫁さん具合悪いのに遊んでていいの?」
    「たこ焼きお土産にたくさん貰ってきてって言われたからな。持ち帰り用のも頼む。タッパーいっぱい持ってきたしよ」
    クロムちゃんは、ちゃっかりとバックからタッパーを取り出して言った。
    「んで、このタネってやつをどうすんだ?」
    「タコを入れて焼く。そんだけだ。ゲン、そっちはどうだ?」
    「んー、もうすぐ終わるよ……痛っ」
    俺は、手を滑らせて少し指先を包丁で切ってしまった。
    「なにやってんだ、バカ」
    千空ちゃんが飛んできて、俺の指先を捕らえる。
    「いや~、タコがぬるぬるしてるからつい手を滑らせちゃって……って千空ちゃん?!」
    傷は浅くてぷっくりと血がでた程度なんだけど、千空ちゃんが俺の指先をかぷりと咥えたもんだから俺は慌てた。
    「さすがにジーマーでこれは恥ずかしいんだけど……」
    「うるせえ、消毒だ、消毒」
    その時、またピンポーンとインターフォンが鳴った。
    「クロム、代わりに出てきてくんねぇか?」
    「おうよ、任せとけ。千空はゲンの傷の手当しとけ!心ゆくまでイチャつきながらな!」
    クロムちゃんは俺があたふたしてるのを面白がっているのかニヤニヤ笑って玄関に向かっていった。
    あぁ、恥ずかしい……。それに千空ちゃんの顔面が目の前にあってドキドキしちゃう。
    よく一緒に住んだり結婚したら、恋人よりも家族になってドキドキしなくなるって言うけれど、俺はずっと千空ちゃんにドキドキされっぱなしだ。
    「ってかさー、唾つけとけば治りやすいとか昔からよく聞くけど意味あるの?ジーマーで…」
    「~、そりゃ嘘だな。確かに唾液には殺菌作用のある分泌型免疫グロブリンやリゾチーム っつー殺菌性酵素もあるが咥内には細菌も多くいる。衛生観念上、よろしくねぇ。市販の消毒薬を使った方が効率的だ」
    千空ちゃんは銀の糸を引きながら、俺の指を離すと手際よく俺の指先に絆創膏を貼った。
    「じゃあ今なんで舐めたの?!」
    「なんでって舐めたかっただけだ。無意味に舐めちゃダメなのか?」
    千空ちゃんは俺の片頬に手を添えた。
    ひぇ……。心臓破裂して死にそう。
    「ってか耳の裏まですげー真っ赤。どうなってんだ、お前の百面相」
    千空ちゃんが俺の耳を指先でさすり唇を重ねようとしたその時ーー。
    物音がして振り返ると、そこにはコハクちゃんとスイカちゃんが立っていた。
    「ハ!そのまま続けてくれて構わないぞ?仲良きことは睦まじいことではないか」
    「スイカたちはお邪魔虫なんだよ。さっさと退散するんだよ」
    俺と千空ちゃんは真っ赤になって慌てて離れた。


    リビングに移動して、タコパははじまった。
    集まったメンバーは、クロムちゃんとコハクちゃん、スイカちゃんと司ちゃんに氷月ちゃんだ。
    いくら広めのリビングルームにしたとは言え、流石にこれだけ大勢集まるとぎゅうぎゅう詰め大所帯である。
    コハクちゃんが興味津々といった様子でたこ焼き器を覗き込んだ。
    「ほう、このたこ焼き器とやらにタネを流し込むのだな」
    「ああ、そうだ」
    「タコちゃん投入しま~~す」
    千空ちゃんがたこ焼き器にタネを流し込む。
    俺は、アシストするように千空ちゃんが流し入れたタネの真ん中に1個ずつタコを落としていった。
    ちょうど良い頃合を見計らって、千空ちゃんはたこ焼き用のピックでくるくるとたこ焼きを回転させる。
    「やべぇーー!!すげぇ!!くるくる回ってんぞ!!」
    「なんだかとってもいい匂いがしてきたんだよ~」
    「みんな、いい反応するねぇ」
    クロムちゃんやスイカちゃんが目を輝かせているのが微笑ましくて、なんだか俺までほっこりした。
    「ほら、食え。熱いから火傷しねーように気をつけろよ」
    千空ちゃんは小皿に熱々のたこ焼きを乗せる。俺は、その上にソースとマヨネーズをかけてクロムちゃんとスイカちゃんに渡してあげた。
    「んめーっ!!なんだこれ!!」
    「外はカリカリなのに中はふわふわで美味しいんだよ」
    スイカちゃんは、たこ焼きが熱くて一生懸命ふーふー吐息を吹きかけながら頬張っている。
    「どれどれ。俺も食べよ~っと」
    ひとしきり全員に行き渡ったところで、俺もたこ焼きにかじりつく。
    「ん~!!これこれ!!俺が食べたかったのはこううの!!」
    更にコーラで流し込んで最高に幸せな気分になる。
    「ゲンもたこ焼き好きなんだよ?」
    「うん、好き好き。やっぱりソースとマヨネーズの組み合わせは禁断の味だよねぇ。今日はカロリー気にせず食べちゃお」
    俺は、マヨネーズましましでたこ焼きにかけた。
    「クク、ゲンはお芸能人様なのにお高級料理が口に合わないんだと。庶民舌であらせられるからな~」
    千空ちゃんが俺を小馬鹿にするように笑う。
    「別に俺、龍水ちゃんみたいにボンボンだったわけじゃないし。庶民舌ですよーだ」
    「ゲンの気持ちわかるぜ。俺もたまに猫じゃらしラーメンが恋しくなるもんな!」
    「ん~、猫じゃらしラーメンか。ちょっとえぐい後味するけどねぇ」
    俺は確かに庶民舌だけど、石神村の人たちの貧乏舌よりはまだ肥えているほうなのだ。
    「おい、ゲン」
    「ん?」
    「ついてる」
    千空ちゃんは、そう言って俺の頬についたマヨネーズを親指で拭ってぺろって舐めた。
    またみんなの前で!!千空ちゃんは、そういうことをする!!
    俺はまたゆでだこのようにかーっと赤くなった。
    「ハ!お前たちはあれだな、出会った頃はゲンが甲斐甲斐しく千空の世話を焼いていると思ったものだが、今となってみれば千空のほうがよっぽどゲンの世話を焼いているな!」
    コハクちゃんは愉快そうに大笑した。
    「こいつ、意外と抜けてんだよ」
    と、千空ちゃんが即答した。
    「なにそれ、ドイヒー~……」
    「うん……、でもゲンは復興してから……、いや、結婚してからかな、なんだか少し雰囲気が柔らかくなった気がするね」
    ずっと聞き役に徹していた司ちゃんがおもむろに口を開いた。
    「え~~、そうかな~~」
    ちょっと恥ずかしくなってきたのを誤魔化すように、俺はたこ焼きを頬張った。たこ焼きは、ふんわり柔らかくて口の中で甘く蕩けた。
    「おうよ、前より毒気が無くなったっつーか」
    「コウモリ男特有の偽悪が無くなったのではないか?」
    「だってもう世の中平和だし……。どっちにつけば勝ち馬に乗れるとかそういうのないし……。ちょっと気が抜けたってのはあるかも」
    復興前は、千空ちゃんの肩に人類の存亡がかかっていた。それもあって、俺は全力で千空ちゃんをサポートするため、自分の持ちうる能力の全てを千空ちゃんに捧げていた。
    でも、今は世の中が平和になって、千空ちゃんがこの先の科学者人生において成功しようが失敗しようが世界は滅亡を迎えることなく、粛々と時は進んで行く。
    そして俺は本来元々あんまり人に尽くしたりするタイプじゃない。いつだってわりと自分の気持ちを優先するし、自分のやりたいことに全力で我を通す人間だ。世の中が平和になったおかげで、俺のわがままな本質がすっかり顔を出しちゃってる。
    「千空ちゃん、俺、やっぱ内助の功とか向いてない!!千空ちゃんのパートナーにふさわしくないかも!!バイヤーじゃない?!」
    俺は、真っ青になって千空ちゃんの肩を揺すった。
    「? んなもん求めてねー、バカ。てめぇは俺の横でやりてーようにわがまま言ってぐずってるくらいのほうがお可愛くてちょうど良いわ」
    千空ちゃんは俺に軽くデコピンした。いてて……。
    「さて、バカップルは放っておいて。このたこ焼きとやらは、たこ以外を入れても美味しいんじゃないか?このたくわんとか納豆とか梅干しはどうだ」
    俺たちをいじるのにすっかり飽きたコハクちゃんが、勝手に冷蔵庫を漁ってとってきたらしい食材を次々と投入して闇鍋のようなたこ焼きを作り始めた。
    「ちょっと……、たこ焼きになに入れてるんですか。タコが入っていないならそれはもうたこ焼きではありませんよ。ちゃんとしてください」
    静かにもそもそたこ焼きを食べてた氷月ちゃんの眉間にシワが寄る。
    「うん……、納豆は……、少し嫌だね」
    「あ!!いいこと思いついた!!」
    俺は、飛び上がってキッチンに急ぐ。
    「せっかくのタコパだからさ、変わり種も楽しみたいじゃない」
    闇鍋パーティが終わるのを待って、俺はたこ焼き器を独占すると、丸い穴の中にオリーブオイルとすりおろしニンニクを加えた液体を流し込んだ。ぐつぐつ煮込んで来たら、小さく切ったトマトやブロッコリー、カマンベールチーズなんかをくわえていく。
    「なんだか突然、お洒落になったんだよ?」
    「アヒージョですか。いいですね、彩りも鮮やかでちゃんとしてますし美味しそうです」
    さっきまで暗い表情だった氷月ちゃんの声が弾む。
    「あとデザートもやるよ~!」
    アヒージョが完売したら、次はホットケーキミックスを流し込んで、中にチョコを入れた。
    仕上げに粉砂糖とはちみつをたっぷりかける。
    「はい、ベビーカステラの爆誕~」
    串に刺してスイカちゃんに渡してあげると、スイカちゃんは目をキラキラさせて喜んだ。
    「めちゃくちゃ可愛いんだよ!それに甘くて美味しいんだよ!」
    「はい、千空ちゃん。あーん」
    俺は千空ちゃんの口元にベビーカステラを差し出した。千空ちゃんは躊躇うことなくぱくっとベビーカステラに食らいつく。
    「お~、うめぇ。やるじゃねぇか。メンタリスト」
    「美味しいご飯もエンタメだからね、千空ちゃん」
    俺はふふんと得意げに胸を張った。
    俺はこれからも千空ちゃんにいっぱいわがまま言ってやりたい放題して迷惑かけるだろうし、マジシャンの仕事もたくさんしたいしテレビに出まくりたいし、メンタリストの仕事もじゃんじゃんしたい。だからきっと前みたいには、千空ちゃんのお仕事の参謀にはもうなれないだろう。
    だけど、文明復興っていう強い目的が無くなっても、一緒にいる意味なんてなくても、これからもずっと俺と千空ちゃんは一緒に暮らしていく。
    そして千空ちゃんが全部復活させるって言ったエンタメの中には、好きな人との美味しいご飯を食べる生活も絶対含まれると俺は思うんだよね。
    だから、俺はこれからもずっと千空ちゃんの隣で、毎日一緒に美味しいご飯を食べるって、それだけは絶対だって約束できるよ。
    ね、千空ちゃん。


    夜も深まり縁もたけなわになって、みんなが帰って行くと途端に俺たちの家は静寂に包まれた。
    でもこの静けさも俺は嫌いじゃなかった。
    お互いに違うことをしていても、耳を済ませば、どこかしらで千空ちゃんの生活音がしているし、千空ちゃんの匂いが残っていて、寂しくない。
    俺は心地よい疲労感に包まれながら、後片付けを済ませてしまおうと茶碗を洗っていたら、千空ちゃんから唐突に後ろから抱きしめられた。
    「うひゃあ!びっくりした」
    思わず皿を落としそうになってしまった。キャッチできたから割らずにすんだけど。
    「ゲン」
    千空ちゃんは俺の肩にぐりぐりと額を押し付け、甘えた声で俺の名を呼んだ。俺は布巾で濡れた手をふいて、千空ちゃんの頭をぽんぽんと撫でた。
    「どうしたの、千空ちゃん」
    「ん、やっとゲンを独り占めできたと思って」
    「自分で人呼んだんじゃん~」
    俺は、おかしくなって肩を揺すって笑った。
    「たまに無性に見せつけたくなんだ、お前のこと。自慢したくてたまらなくなる」
    「へぇ~?」
    「でもあんまり見られると、今度は独り占めしたくてたまらなくなる」
    「ふは、なにそれ。千空ちゃんってばゴイスーわがまま!」
    「わがまま言うのはダメか?」
    千空ちゃんは俺の機嫌を伺うように上目遣いで、俺の顔を覗き込む。
    あー……、この顔はずるい。俺はへらりと笑って、千空ちゃんの鼻先にキスをした。
    「んーん、全然ダメじゃない。むしろ嬉しいかな。千空ちゃんのこと、俺もいっぱい甘やかしたいし」
    なんだか茶碗を洗うのがどうでもよくなってしまった。残りは明日でいっかーなんて思ったりして。
    「千空ちゃん、一緒にお風呂入ってベッド行こ」
    俺は振り向きざまに千空ちゃんの首の後ろに手を回して身体を密着させるようにして抱きしめた。
    千空ちゃんがぎゅうっと俺を抱き締め返してくる。
    「今夜は寝かせてやれねーかも」
    「あはは、知ってた~」
    千空ちゃんと指先を絡めて繋ぎ、深い深いキスをした。水道の蛇口は止まっているのに、唇を重ねるたびに水音がキッチンに響いている。
    明日も明後日も明明後日も、俺は千空ちゃんの隣でいっぱい美味しいご飯を食べて、百億回のキスをする。
    千空ちゃんと結婚してよかったなぁ。


    あぁ、今ね、俺、めちゃくちゃ最高に幸せ!
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    kimikoSunohara

    SPOILER【千ゲン】z=1.9.7 その後の劣情、七年越しの愛欲について

    ※注意 がっつり本誌のネタバレというか本誌(z=1.9.7)のその後のお話です!!
     七年ぶりのマジックショーを終えて、宴もたけなわになり夜もふけると、みんな酔いつぶれて寝てしまった。
     全員が寝泊まりできる民家なんてあるはずもなく、みんなで焚き火を囲んでの雑魚寝だ。
     サマーキャンプみたいで悪くはないけど、贅沢を言えばふかふかのベッドと柔らかい布団が恋しい。
     俺はその夜、なんだか寝付きが悪かった。
     七年ぶりに目覚めた興奮が覚めきらないのか、起きたり眠ったり浅い眠りを幾度も繰り返していたところ、誰かに足をつんつんとつつかれる。
     そっと目を開けると、千空ちゃんが俺の顔を覗き込んでいた。

    「せんく……ちゃん? ……どうしたの?」
    「ゲン、ちょっとこい」

     千空ちゃんに腕を掴まれて、俺は眠たげに目を擦りながら起きあがる。

    「司ちゃんとの話はもういいの?」
    「ぁ、終わった。次はテメーに話がある。ちょっと来い」

     千空ちゃんに改まってそう言われて、強引に手を引かれる。
     こんな夜中に話ってなんだろ。
     俺はなんだか少し不安になって千空ちゃんに手を繋がれたままあとをついていく。
     夜の森は暗かったけれど月光がどこまでもついてきて足元を照らしていた。
     ジャングル 2885