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    海底_

    滾ったものを吐き出す気まぐれな何かです。
    成人済。

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    海底_

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    9月新刊書き下ろしサンプルを一本ずつ。
    こんな感じの短いお話やちょっと長いお話の再録と書き下ろし詰めた本です。

    9月新刊書き下ろしサンプル・銀博書き下ろし

     ドクターはシルバーアッシュと揃いの指輪を持っている。いつもチェーンを通して首から下げ、時折一人か、シルバーアッシュと一緒の時に手袋を外した指に嵌めてみて、ふわりと微笑んで外して、綺麗に磨いてまた首にかけて、と、それはそれは肌見離さず大事にしていた。シルバーアッシュも似たようなものだ。
     二人でドクターの自室に戻ったあと、いちゃいちゃする最中に、そんなドクターの姿を見て今日もシルバーアッシュは喉を鳴らす。聞きつけたドクターが顔を上げた。
    「何かいいことあった?」
    「お前がそうして指輪を喜んでくれるから、嬉しいだけだ」
     ぽすんと尻尾も跳ねさせてから、隣のドクターの肩を引き寄せて寄り添えば、ふわりと笑うその様も愛しい。
    「だって君とお揃いのものだよ。うれしくないわけがない」
     頭を預けて寄りかかってくるドクターが、指輪を嵌めた手でシルバーアッシュの手を握った。細い指が長い指の間へ入って互いに柔らかく握り合う。
    「大切にしまっておきたいけれど、離すことはできないし。指にあるのを見たい気持ちもあるけど、色々事情を考えるとこっそりしておきたい気持ちもある」
    「そうか。そうだな」
     シルバーアッシュにしてみれば、いつでも互いの指輪の嵌った指を見せつけて己はすでに彼の人のものだ喧伝しても構わない。しかしそれをするにはお互いに各種差し障りがあると思い常には隠している事実に歯噛みしたくなることもある。
     それでも揃いの指輪をはめて互いに愛を求め、応じられた事実は大変に喜ばしいものだ。特に愛しい恋人が嬉しげに見てくれると言うならばなおさらのこと。
    「次は何を贈ろうか。この耳を飾るピアスもいいな。私の前で着てくれるような服もいいだろう」
    「私がお返しできる範囲にしてほしいな」
     恋人を飾る楽しみに浮き立つシルバーアッシュがすぐそばに見えた柔らかな耳朶をいじりながら呟けば、ドクターからたしなめるような言葉が返ってきた。それにシルバーアッシュは笑って応える。
    「大人しく与えられておけ。私は、お前のいつかの先の時間すべてをもらおうというのだから」
     それにはドクターも笑って答える。
    「私だって同じように君の時間すべてをもらうから、そこは等価だろう?」
    「そこはそうだな」
     シルバーアッシュにしてみればその言葉でも十分なお返しになるのだが、そこは黙っておく。ドクターが何かを見返りに与えてくれると言うならば、素直に受け取ってみせよう。甘味でも言葉でも行為でも。
     シルバーアッシュはごろごろ喉を鳴らして、享受できる喜びに目を細めた。


    ・葬博書き下ろし

     イグゼキュターの恋文を受け取ってからしばらく経つが、特に大きく何かが変わったということはない。相変わらず秘書は有能だ。いつも通りてきぱきとドクターの補助をしてくれる。戦闘でも散弾銃を軽々と撃ち込んで敵を一掃する猛者である。
     変わった、といえばお菓子が増えた。それも手作りの。
     一昨日はパンケーキ、昨日はゼリー、今日はプリン。時折ドクターが好むからか、コーヒー味のお菓子も出る。一つの量は多くなく、おやつに、デザートに、と少しだけ。
     ただし食事をしっかり取らないともらえないので、合わせて三食少なくとも食べるようになった。
    「うーん」
    「どうしました、ドクター」
     ドクターが唸ってちらりと秘書席を窺えば、イグゼキュターがすぐに見つめ返してくる。今日もイケメンで何よりだ。首を傾げる仕草はどこか子犬っぽくてかわいい。
     この天使がドクターに好意を寄せるとは、中々の衝撃だったの間違いない。それがうれしくもあるからドクターとしては不思議でもあった。
     じっと見上げているとイグゼキュターの髪がさらりと揺れた。何も言わないドクター顔をのぞき込んで見つめてくる。
    「ドクター? 体調が悪いですか?」
     ここも変わった点だ、とふとドクターは気づく。イグゼキュターから触れることが少し増えた。何気なく伸ばされる手だったり、ことりと寄せられる頭だったり、と少し距離が近づいたのだ。
     今もそっと頬に触れる手が優しい。滑らかな皮膚に長い指でその爪先まで美しいけれど、触れるとしっかりと硬い皮膚があって、訓練を欠かさない戦う者の手だと感じる。
    「熱はないようですが。隈は少し濃いでしょうか。顔色は少し赤いような。これから発熱するのかもしれません」
     ただ、綺麗な顔がだんだん近づいてまじまじ見つめられるのが何だか恥ずかしいのは何故だ。それでいてもっと触れてほしいなんて感じるのは。これは可愛い子犬には抱かない感情だと思われる。
     けれどドクターはその気持ちを解析するのは後回しにする。イグゼキュターの表情が僅かに揺れたからだ。
    「ドクター」
    「大丈夫だよイグゼキュター」
     頬に触れた手を握り返す。
    「ちょっとぼんやりしただけだ。特に異常はない」
    「そうですか。不調が見られるならば早めに医療部に。休まれるようでしたら地雷を置いてきます」
    「地雷はいいよ」
    「いいえ、ドクター。ゆっくり休むためには邪魔が入らないようにするのも必要です。通達だけで足りないならば実力行使も必須です」
    「いいから、おいで」
     ああ、こんなところも変わったな、とドクターは思う。ドクターが心安く過ごせるように少し過保護になった気がする。けれど手招けばすぐ側に来てくれて、頭を撫でさせてもくれるのだ。
     そう、イグゼキュターはかわいい子犬のような、知らない男性のような、頼もしい番犬のような顔を見せるようになった。それがドクターの受け取り方が変わったせいか、彼が好意を伝えてくれたためかはまだわからない。
     けれど今は、大人しく膝に頭を乗せて撫でさせてくれるかわいい天使を愛でていよう。さらりと指でその髪を梳いて、ドクターは微笑んだ。
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