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    minmin31039

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    IFにIFを重ねる話。の、6話目。
    鬼殺隊IFの狛治さん&完全に鬼の始祖の手駒になる前に呪いを自力で解除した猗窩座殿のおはなし。鬼殺隊IFにする為に時系列が変わっているところがありますが、『ほーん、こんな妄想もあるんだなー』程度に受け取ってください。
     また、創作キャラクター創作地域名も混ざってます。許して(謝罪の意)

    切っても切れない❇︎ ❇︎ ❇︎

    「丁仙、爾子又」

     “ご先祖様”が呼んでる。そう気付けば、私は片割れの爾子又と手を繋いで祠の前に出た。爾子又は妄想癖が激しいから、私が手を繋いで引っ張らないと現実を見ない。私たちが“ご先祖様”の前までやって来ても表情を変える事はなく、声色だって変わらない。淡々とした口調でお話しをしてくる。

    「お前たちは下弦でありながら使命を忘れ、しかし結果を献上してくる。進化せず、変わろうともせず、いつまでも無知な子供のままでいる。現に私に首を垂れることがない。何故だ?」
    「だってご先祖様のことがだいすきだもの」
    「だってご先祖様の事が大好きだもの」
    「これっておかしな事?」
    「全然おかしくないよ」
    「そうよね、周りが変なだけよね」
    「そうよね、周りがご先祖様のこと異様に怖がってるだけ」
    「わたしはご先祖様のことだいすきだから怖くないよ」
    「私もご先祖様のこと大好きだから怖くないわ」

     無邪気に話し、礼儀のなっていない私たちを前にしても“ご先祖様”は顔色一つ変えない。額に青筋を立てることもない。……この人は、最初から私たちに無関心なのだ。なんとなくわかる。

    「お前たちはこれからも変わらず、無知な暴力をかざせ。何も考えるな。お前たちの存在理由など考えるに値しない。お前たちはただ、遊び相手に無邪気な暴力で遊んでやれば良い。私はお前たちを糾弾しないし、期待もしない。せいぜいお前たちの望むままに過ごすが良い」
    「はーい」
    「それじゃあ、遊んできまーす」

     “ご先祖様”は全く表情を変えてはくれなかったけれど、自分達のことをある程度許容しているんだろうなと思った。だから私たちわたしたちは何も間違っていない。


     思えば、十二鬼月になって年月は経っている方だけど、あまり良い顔をされた記憶はないかもしれない。
     響凱ちゃんの鼓は踊るのに最適だし楽しくて好きだけど、当の本人は人肉を食べられなくなっていた。だからご先祖様に数字を消された。進化も停滞もしない、むしろ退化してしまった可哀想な子。
    『腹立たしい、腹立たしい。野良猫どもが小生の部屋に土足で踏み入りおって……』

     佩狼ちゃんは何かにすっごく固執してた。それなのに記憶するのが苦手で、ずーっと『復讐』ばっかり。怒ると自分の頭を鉄砲で撃ち抜いちゃうの。今まで見てきた下弦の鬼達の中ではすごく強かったのにね。勿体ないなぁ、佩狼ちゃん。
    『お前たちを覚えている暇はない。俺はあの男に復讐する、それだけ覚えていれば良い』

     零余子ちゃんとは大事な約束をした仲なの。もし私たちが死んで下弦の肆が空席になったら、一番に座らせてあげるの。ご先祖様にもきちんとお話したもの、零余子ちゃんは賢いから意地汚くても生きていてくれるよね?
    『何を考えてるのかさっぱりだわ……。どうしてあのお方は何も咎めないのかしら。それに、何で私に下弦の肆を譲るなんて話を持ちかけたのよ……一体何を企んでるの?』

     入れ替わりの激しかった下弦の鬼たちとも一通りお話はしたけど、みんなしてわたしたち私たちを奇怪な目で見ていた気がする。
     それじゃあ、おかしいのは私たちわたしたち

     ……考えたところでわからない。だから考えるのをやめた。


    「きみたち、自分のことを『二童子』って言ってるけど、それじゃあ『摩多羅神』は何処にいるの?まさか、あの人のこと?」
    「違うよ」
    「ご先祖様は“ご先祖様”よ」
    「ねぇねぇ累ちゃん、家族ってなーに?」
    「鬼どうしでも家族になれるの?」
    「…………きみたちと話していると疲れる。早くどっか行って」

     結局、累ちゃんは教えてくれなかった。
     ……そう言えば、わたしたち私たちにとっての摩多羅神って誰なんだろう?ご先祖様は“ご先祖様”だから違うし、他の子たちも違う。

     ……考えても分からないから、考えるのをやめよう。ご先祖様も言ってたもんね。



    ❇︎ ❇︎ ❇︎

    「考えるな考えるな。わたしはわたし、摩多羅神のいない爾子多爾子又!!」
    「何も思うな何も思うな。私は私、摩多羅神のいない丁禮多丁仙!!」
    「わたしは爾子又、煩悩の象徴、試練の形!」
    「私は丁仙、煩悩の象徴、三毒の形!」
    「わたしたちが考えた試練遊びで、みんなと遊ぶんだからっ!!」
    「私たちが考えた遊び試練で、皆と遊ぶのっ!!」

     丁仙の口から伸び続ける蔦が道を阻み、南瓜の実をつける。一方で家屋から出てきた死体たちは爾子又の叩く手拍子で動く。死体が三人の道を阻み、南瓜の蔦が彼ら三人の間を縫って展開される。

    「苦しめ、苦しめ!試練に苦しめ!!」
    「笑うな、笑うな!わたしたちは何もおかしくない!!」
    「私たちが分たれる理由はない!!」
    「わたしたちどちらかが居なくなる理由はない!!」
    「爾子又が産まれないかもしれない苦悩に悩まされる事の何がおかしいの!?」
    「摩多羅神の愛に飢えて何が悪いの!?」
    「摩多羅神が爾子又を殺そうとした事に怒ることは邪悪なの!?」
    「答えてよっ、わたしたちの遊び苦悩に答えてよおおおッッ!!!」

    「炎の呼吸、参ノ型 気炎万象ッ!!」

     弧を描くように振り下ろされる刀によって南瓜は蔦ごと焼かれ、剣撃は黒い霧をも断つ。死体たちも猗窩座の鬼としての怪力で家屋に投げ飛ばされ、空いた道を狛治が走る。突き出された右拳は爾子又の頸を狙っていた。だが拳を打ち込まれたところで届きやしない───、そうタカを括っていた爾子又の頸に日輪刀が深く刺さる。

    (この人、手甲に小刀を仕込んでいたの!?)

     狛治の日輪刀である両手甲には仕掛けが施されている。右中指と左薬指に通された指輪に紐が括り付けられており、握り拳を作ると紐が中に隠している小刀を引っ張り上げて突出させるものだ。そしてその小刀は、かつて戦友が振るっていた日輪刀の刃先を加工したものだ。
     気付いたところでもう遅い。もう片方の手も拳を作って小刀を突出させ、頸に差し込む。一方で杏寿郎は障害物がなくなった直線上で力強く踏み込み一瞬で間合いを詰めていき、丁仙の頸を捉えた。だが、丁仙は炎の如く燃ゆる赫き刀に両手を添えて最後の抵抗を見せる。この勝負、爾子又の血鬼術さえ発動すれば形勢逆転が十分に見込めるのだ。
     『渇愛金花猫』。あれは双子の妹である爾子又の体をどこか切り落とすと発動する血鬼術だ。それは鬼の弱点である頸も例外ではない。だから最初に斬られた時も渇愛金花猫は発動し、頸が斬れたという事実を無かったことにされた。
     そして渇愛金花猫の思念体は現在も、自身の頸を狙う男煉獄杏寿郎に取り憑いたままだ。爾子又が健在中でも思念体は一度取り憑くと離れない。だから目の前にいる鬼狩りは本来の実力が出せておらずに、未だ自身の頸は三分の一を残している。このまま長期戦に持ち込めば、いくら鬼狩りの中でとびきり強いであろうこの男にも十分勝てる。人間など脆いのだから、無邪気に遊ぶ私たちよりも弱いのだから───!!

    (斬れ、斬れ、爾子又を最初に斬れ!!)
    (斬れ、斬れ、わたしの頸をさっさと斬れ!!)

     抵抗をする丁仙とは違い、爾子又は頸に刺さった二本の小刀が左右に引き裂くのを待つ。

    「素山青年、彼女の頸だが絶対に斬り落とすな!彼女を斬り伏せると思念体が取り憑いてくるぞ!その上、頸を切った事実を無かったことにされる。一番最初に俺がやった時と同じ事になる!」

     しかし杏寿郎がそう声を上げて助言すると、丁仙と爾子又はギョッと焦った顔をする。子供のまま無邪気に成長した彼女たちには、感情をうまく隠すことが難しすぎたのだ。狛治は先程までニヤニヤ笑っていた爾子又の表情が焦りで塗りつぶされたのを見ると、ヒュルルルルと言う雪の呼吸独特の呼吸音で足に力を入れた。

    「雪の呼吸、肆ノ型 脚式・ざらめ蜂きゃくしき ざらめばちッ!!」

     頸に突き刺していた両手の小刀をしまい、横回し蹴りを繰り出した。花火の『蜂』の様にぐるりと回転をする回し蹴りにより、鉄靴のかかとに取り付けられた杭が爾子又の頸を捉えた。
     両足の踵には杭状になった日輪刀が取り付けられている。回し蹴りや踵落としを繰り出す際に、この杭で蹴り飛ばすのだ。

    (ダメ!爾子又の『渇愛金花猫』は“切り落とさなくては”意味がない!斬り落とされないと、発動しない!!)
    「あ、あぁああぁぁぁああ!!!何で、何で斬らないの!?鬼は日輪刀で頸を斬られなくちゃ消滅しないのよ!?」
    「“日輪刀で”頸を落とせば問題なく消滅する。ならば“日輪刀の素材で出来た杭”でお前の頸をぶっ飛ばせば問題ないッ!!」
    「そんなの、そんなの試練にならないっ!無効!!無効よおおおお!!!」


     そう叫ぶ二体の鬼の抵抗虚しく、彼女たちの頸は同時に断たれた。



    ❇︎ ❇︎ ❇︎

     …………動いていた死体たちが倒れ、蔦はボロボロに崩れ落ち、杏寿郎の背中に取り憑いていた思念体の重圧も消える。頸を斬り落とされた丁仙と爾子又の胴体が同時に倒れ伏す。

    「───斬られちゃった」
    「うん、斬られちゃった」

     頸を斬られた二人は存外あっさりとしていて、喚くことも怒ることもなく、ただ事実を受け止めていた。

    「丁仙、どこ?」
    「ここだよ」
    「見えないから分かんないよ」
    「そんなこと言わないでよ。もう体だってまともに動かせないんだから」

     倒れ伏す彼女たちの体は崩れ始めている。塵になって、細胞一つも残す事なく虚空に消えていくだけだ。

    「楽しかったね、爾子又」
    「そうだね、丁仙」
    「いっぱい遊べたね」
    「いっぱい遊んだね」
    「でも、摩多羅神は見つからなかったね」
    「……ねぇ、丁仙。わたしたちの探している摩多羅神って、誰のこと?」
    「知らない。分からないことは考えても意味ないから。考えないでいたから」
    「わたしね、丁仙と一緒に鬼になれて幸せだったわ。人間の頃の記憶なんて全然ないけれど、丁仙だけがわたしのいちばんの宝物なの。きっと、人間の頃だって同じ気持ちだったわ」
    「私は、爾子又と一緒に外の世界に出られて幸せだったよ。双子で良かった。双子で───」


     丁仙は星空を見上げ、そして口を止めた。丁仙は明らかに動揺していた。
     「……思い出した」と口にして。

    「……摩多羅神は、摩多羅神おっかぁは、最初から死んでいた」
    「丁仙?」
    「おっかぁは、私たちを産む前に死んだ。ご先祖様が分けてくださった血に耐えきれずに死んだんだ」



    ❇︎ ❇︎ ❇︎

    「名前、何が良いかしら。恋鞠こまり日鞠ひまり……。ふふ、貴方はきっとかわいいに違いないわ。早くお母さんにお顔を見せてね」

     胎の中にいた時から、そう優しい声で膨らんだお腹をさするお母さんの声を覚えていた。

     鬼になる前、私たちはお母さんの腹の中にいた。お母さんは私たちが双子として生まれてくる事は知らなかったけど、私たちは双子として一緒に産まれるはずだった。でも、爾子又は十分に成長出来ず、鬼にならなければ死産であったと私は直感している。
     栄養が足りなかった理由は、お母さんは裕福じゃなかったから。食べ物だって満足に食べられなかったのに、お母さんは双子を身籠もってしまった。そんなの、どちらか一方にしか栄養が回らないに決まっている。

    「胎に子を宿した母体に私の血液を分ければどうなるか……試す価値があると思わないか?」

     ……ただ、一緒に産まれたかった。爾子又が死ぬなんて運命を否定し、お母さんの細胞が崩れていく中で必死になってご先祖様の血液を受け止めた。そうして、お母さんの胎を破って産まれたのが私たちだった。
     爾子又日鞠にはきっと、胎にいた頃の記憶はないだろう。胎の中で必死になって栄養を貰おうとしていた事など覚えていないだろう。だって、彼女は死ぬことが確定されていたから。


     丁仙の崩れかけの体が起き上がる。三人は未だに動き続けようとする丁仙に驚くが、彼女の体はもう脅威ではない。崩れた両腕、ボロボロの脚。立っているのが不思議なくらいに崩れていく体で、丁仙は倒れる爾子又のところまで走る。

    「おっかぁ、って誰?摩多羅神がその“おっかぁ”なの?日鞠って誰?わたしは爾子又───」
    「違う。貴方は日鞠。私は恋鞠。……私たちは誰かに試練を与える摩多羅神の遣いなんかじゃない。私たちこそが、三毒に耐えるべき存在だったんだ」
    「丁仙は時々難しいことを考えるね。わたしには難しくて分かんないよぅ」

     爾子又の体もむくりと起き上がるが、その両脚は塵となって消えている。座ったままボロボロの両腕を広げて丁仙を迎える。

    「でも、これだけは分かるよ。次に生まれるときも、もう一度死ぬ時も、閻魔様にご挨拶に行くときだって。ずーっと丁仙と一緒だよ」

     腕を無くした丁仙恋鞠爾子又日鞠の体へと飛び込む。二つの体は衝突すると一斉に崩れ落ちて塵になる。一つになった塵が風に煽られて天に登っていく。


     そこが例え地獄の業火の中だとしても。恋鞠は日鞠の手を離さない。

    「日鞠、日鞠っ、貴方は日鞠!爾子多でも猫又でもない、私の大事な妹!!」
    「わたしには人間の頃の記憶なんて無いけれど、爾子又になってからの記憶なら一片たりとも忘れていないわ。わたしたちの絆は、おにいさまたちにだって切っても切れないって信じてる。だから泣かないで、お姉ちゃん」
    「たとえご先祖様であっても、日鞠との絆は切らせはしないわ……!!私たちは許されない事をして来たけれど……次こそは、丈夫な体で一緒に産まれるんだからっ!!」
    「そうだねぇ、一緒がいいねぇ」

     人間の頃の、胎の中にいた記憶を取り戻した丁仙恋鞠の顔は綺麗な人間の顔であった。未だ猫のような顔をする鬼の爾子又は、顔が変わってしまった姉を見て「置いていかれるのかな」と不安になる。しかし、大好きな姉が抱きしめて離さないのを見て、彼女の顔もやがて人間の顔になっていく。
     日鞠の顔は、あまり綺麗な方ではなかった。そばかすが目立ち、顔も整っていない。綺麗な部類に入るであろう姉の恋鞠とは違い、日鞠は栄養失調で死産が確定していた少女であった。それを表すかの様な醜い風貌に変わってしまうが、それでも恋鞠は日鞠の背に回す腕の力を緩めない。
     地獄の業火の中で双子は無邪気に笑い、又は純真な心で泣きながら、来世に目を向けるのであった。……叶うならば、次の生では二人で一緒に歩く未来を─────



    ❇︎ ❇︎ ❇︎

     初めて、まともな戦い方で勝った。狛治は初陣で飾った初勝利に安堵する。

    「しかし、やはり素晴らしい闘気であった!」

     安心も束の間、問題児こと猗窩座が杏寿郎の方を向いては笑顔で彼を褒め称える。面倒事を起こさなければ良いのだが……。

    「思念体を引き剥がす際の気迫、技を繰り出す一瞬でも垣間見える闘気、そして己に課せられた責務を全うせんと奮う覇気!どれを取っても素晴らしい!その才能と技量はお前だけのものだろう、俺と手合わせしろ!」
    「断る!隊士どうしの戦闘は隊律違反だ!話はこれで終いだな!」
    「何を言う。たしかに狛治は鬼殺隊士だが、俺は鬼だ。鬼殺隊に席を置いていないのだから、お前のいう“隊律”に抵触しない」
    「いや、君はもう鬼殺隊の一員だ」

     先ほどまで何処を見て言っているのかが分からなかったが、この時初めて目があった。世界を照らすような日輪の瞳が、猗窩座の満月の瞳に映る。

    「俺や睫毛青年の指示に従っていただけとは言え、君は人間に仇なす二体の悪鬼に対抗した。死した人を無下にすることなく、遺体が極力傷まない様に対処した。生きる人のために、死した人のために鬼と戦った君は、間違いなく鬼殺隊の一員だろう。この目で見た俺が保証する」

     ……つまり、準目的であった『猗窩座が鬼殺隊にとって有用であるかどうか』の試練は見事突破した、という事だ。狛治は再び安堵のため息をつく。

    「……おかしな事を言う。どんなに筋が通った行動を取っていようが、鬼であることに変わりない」
    「それはそうだ。君があくまで鬼であり、同じ人間でないことなど百も承知。だからもし君が人を喰ったのなら、俺が誰よりも先に君の頸を切って引導を渡すし、睫毛青年も切り伏せる!俺も腹を切って詫びる!」
    「いや煉獄さんは関係ないでしょう!?」
    「監視役の俺が彼の有用性を見出し、有用であると判断を下した!この判断はもう間も無くお館様に報告されるだろう!この判断が間違っていたのならば、判断を下した俺も相応の心構えを見せなければならないのは至極当然だ!」
    「ヒャハ、お前と戦えるのならそれも考えてみるか」
    「猗窩座!!」

     ……狛治は、自分の胃がキリキリと痛むような感覚に襲われた。
     もうすぐ、夜が明ける。





    ❇︎ ❇︎ ❇︎
    【閑話休題~後日談~】

    「コレデ、狛治ノ 迷イガ 晴レルト 良イノダガ」

     狛治の鬼の部分である猗窩座の処遇が正式的に決められた。此度の任務の成果を鬼殺隊の長である“お館様”に報告するべく、二羽の鎹鴉が空を飛ぶ。
     狛治の鎹鴉、牡丹は多少の不安を抱えていた。牡丹は狛治の最終選別での様子を、彼の元に配属される前から見守っていた(実際には、その時の最終選別に参加した子どもたちを見守っていた)時、狛治が何かに囚われている様に感じていた。長年の経験則からして、彼はきっと己自身を許せないのだろう。自責の念が、彼の足を引っ張っている様に感じた。
     最初は、彼が本来なるはずであった“鬼の残骸”である猗窩座への嫌悪かと思っていた。しかし彼らは仲が悪い訳ではないようであった。寧ろ、お互いが自分自身である事を理解しているからこそ息が合っているとも言える。一蓮托生、と言うべきか。
     牡丹は、狛治が何を背負っているのかが分からない。見るだけで分かることと言えば、彼は盆栽が趣味であることと、彼の知り合いである誰かに対して負い目を感じていることくらいだろうか。

    「信ジテヤレ。オ前ノ 見込ンダ 隊士ダロウ」
    「……デスナ。イヤハヤ、歳ヲ取ルト 心配性ニ ナッテシマウ」

     杏寿郎の鎹鴉、要の言葉に、老いぼれの掠れた声が自嘲気味に答えた。



     あの後、別れを惜しみながらも猗窩座は狛治の体内へと戻っていった。二人はマヨイガの里を離れ、千巌霊山を降る。
     早朝、丹霧生村に帰ると飯処を営んでいた女将のおばさんが店の前に居て、二人が無事に戻ってきた事を喜んでいた。昨日、彼らが任務の確認として話し込んでいた内容が声のでかい杏寿郎のせいで聞こえてしまったらしく、二人が大事な用事であの『マヨイガの里』を訪れる事を頭では理解していたが、やはり心配だった様だ。
     「あんなに美味しそうに食べてくれる人を相手にしたのは久しぶりでねぇ。少し情が芽生えちゃったのさ。まさか、アンタたちが件の“鬼殺隊”だったとはねぇ」と、豪快に笑いながら二人に朝御飯を振る舞ってくれた。狛治は最初こそ遠慮していたが、このお店の看板横に藤の印があるのを見て、この店は『藤の家の家紋』を持っているのだと分かった。藤の家の家紋については、しのぶから話を聞いている。ならばここはご厚意に甘えるべきだと考え、消化に良いものを食べさせてもらった。対する杏寿郎はいつも通りである。

    「俺は引き続き別の任務に赴く」
    「分かりました。煉獄さん、お世話になりました」
    「ではな、素山青年。猗窩座にもよろしく伝えておいてくれ」
    「別にあいつの事は忘れても良いですよ。また会ったところで、無礼を働くだけでしょうし」
    「君は存外、自分に厳しいな」
    「そうですね、自覚してます」

     かつての戦友を殺し、その上で無下にした鬼も許せないが、何より許せないのは自分自身である。そんな言葉は仕舞い込んで、相手を見送った。
     一方で狛治は初任務という事もあってか、終わったと自覚した途端にどっと疲れが押し寄せてきた。「2階に上がって一睡しておいで」と女将のおばさんは彼を半ば強引に2階の民宿となっている部屋に押し入れ、あれよあれよという間に布団の中に潜り込んでいた。
     ……思えば、初任務としてこの村に来てからずっと根を詰めていた。村自体に鬼の情報は出ていなかったのに、ちょっと警戒しすぎていたなと反省する。それに、戦い方が戦い方なので仕方ないと言われるとぐうの音も出ないが、相手を完膚なきまでに叩き潰そうとして前に出過ぎていた。丁仙との戦いも、相手は下弦の鬼とは言え今まで相手にしてきた鬼とは違っていたのだ。本来ならば慎重になって相手の出方を見るべきだったのに……と、狛治の頭の中では反省会が開かれる。

    『狛治、寝ないのか?騒がしいぞ』
    (………悪かった)
    『別に、戦いの評価と反省点を思い返すこと自体は悪くない。だが今は休息だ。お前、布団の中でもそうやって気を張っているつもりか?』
    (いや……そんなつもりは無かったんだが……)

     まだ気が抜けていなかったのか。己の集中力には本当に驚くものがある。猗窩座の言う通りだ。まずは疲れた心身を休ませるべきだろう。こうして狛治はウンウン考えつつも、何とか就寝にありついたのであった。



    結論:昼ごろまで眠った後、鎹鴉の牡丹が戻ってきた。彼の伝言曰く「蝶屋敷に戻るように」という事であった。怪我をした覚えはないのだが、と首を捻ると、「胡蝶さんと栗花落さんが今日の夜に那田蜘蛛山へ向かう為、早めに帰って蝶屋敷での治療準備を手伝ってほしい」という補足を付けられた。柱である胡蝶さんが出るのだ、初任務の時のように一筋縄ではいかない任務先なのだろう。伝言を受けた狛治は早速蝶屋敷へ向かう事にした。
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