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    IFにIFを重ねる話。の、7話目前編。
    鬼殺隊IFの狛治さん&完全に鬼の始祖の手駒になる前に呪いを自力で解除した猗窩座殿のおはなし。鬼殺隊IFにする為に時系列が変わっているところがありますが、『ほーん、こんな妄想もあるんだなー』程度に受け取ってください。
     また、創作キャラクターも混ざってます。許して(謝罪の意)

    鬼を連れた隊士 〜邂逅〜❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎ ❇︎

    「鬼とは仲良くできないって言ってたくせに、何なんでしょうか。そんなだからみんなに嫌われるんですよ」

     下弦の伍を倒し、しかし妹を庇う炭治郎の元に突如としてその女性は現れた。水柱、冨岡義勇が彼女の攻撃を受け流す。それにも関わらず身軽な動きで着地したその女性、蟲柱、胡蝶しのぶは独特な日輪刀を握って切っ先を彼ら三人に向ける。
     ……しかし、彼女は不思議に思っていた。何を考えているのか分からない水柱はさておいて、彼が庇っているその少年……厳密にはその少年に庇われている少女。彼女は鬼である。鬼であるのに彼女は竹の口枷を付けており、そして彼らを襲うそぶりを見せないし、現在は意識がないように見える。暴れる可能性があるから気絶させているのか?しかし鬼を気絶させる意味はあるのか?

    「俺は嫌われていない」

     ……話が成立しない。嫌味のつのりが、何故か真面目に答えられてしまった。

    「あぁそれ……。すみません、嫌われている自覚が無かったんですね。余計なことを言ってしまって申し訳ないです」

     何故かショックを受けているかの様な顔をする同僚を無視して、しのぶは庇われている隊士に話しかける。

    「坊やが庇っているのは鬼ですよ。危ないから離れてください」

     ……自分の剣撃に巻き込まれるぞ、という忠告も兼ねているのだが、それでも少年は離れない。

    「ち……!違います!いや違わないけど……あの、妹なんです!俺の妹で、それで、」
    「まぁそうなのですか、可哀想に。では───
     苦しまないよう、優しい毒で殺してあげましょうね」

     少年の顔が青ざめる。それもそうだろう。身内である妹を殺される訳だ。しかし彼女はもう鬼になってしまった。なってしまった以上、助ける手立てはない。強いて言えば、殺してあげるのが精一杯の助けだろう。
     だと言うのに、彼はその妹を抱えて逃げた。道を遮るように同僚が立つ。

    「これ、隊律違反なのでは?」

     水柱は答えない。

    「退いてくださいませんか?私は鬼殺隊の命に従って、鬼を斬りに行くだけですよ?」

     これでもまだ答えない。しのぶの額に青筋が立ち始める。

    「鬼殺の妨害……。これ、立派な隊律違反ですよね。理由があるのでしたら早急に答えてくれませんか?こんな無駄な時間を過ごしている間にあの鬼が誰かを、あの少年を殺すかもしれませんよ」

     ようやく動きが出た。義勇は記憶を辿るかの様に眉間にシワを寄せながら、そして口を開く。

    「あれは確か二年前───」
    「そんな所から長々と話されても困りますよ。嫌がらせでしょうか。嫌われていると言ってしまったこと、根に持ってます?」

     ……いや、「心外だ」みたいな顔をされても困る。何故端的に話そうとしないのか。同じく会話が苦手な素山さんの方がよっぽど………。

    「───あの鬼、何かあるんですか?例えば、『人を襲わない』……だとか」

     義勇の顔に驚きの表情が出る。何故分かった?と言わんばかりの顔だ。

    「いえ、私も同じような鬼と会っているので。それに、二年前だなんて悠長な昔話をされるのかと一蹴したくなりましたが、“彼”が鬼として現れていたのもその時期でしたね……」


     素山狛治。
     彼とは二年ほど前に森の中で出会ったのが始まりだ。任務先であった森の奥に鍛冶場を構える、日輪刀の刀匠にして異彩の職人『阿留多伎 霽吽あるたき せいうん』の元でほんの少しの間宿を借りさせてもらったその帰り際に、“彼ら”と出会った。人を襲おうとせず、寧ろ鬼に襲われそうになった“同じ顔をする人間”を守るように、紅梅色の髪と身体中に藍色の刺青を入れたその鬼は立ち回っていた。

    『猗窩座は違う!猗窩座は俺なんだ!』

     当時は何を言っているのかさっぱりだったが、今なら彼の言っていた意味が分かる。

    『俺が求める強さは、鍛錬によって得られた肉体と精神の成長のみ!!人間の血肉を喰らう事で得られる強さなど馬鹿馬鹿しい!!』

     あの宣言も、十分に馬鹿らしい妄言だ。なのに、自分は彼らを信用できる気がして、蝶屋敷で一年間様子見、もとい監視をしていた。我ながら危険なことをしてしまったと思う。もしもあの鬼……猗窩座が暴れでもしたら、怪我をした隊士だけでなく大切な家族である少女たちも危険に晒されるところであったのに。


    「伝令!!伝令!!カァァァ!!」

     今頃蝶屋敷でアオイたちにしごかれているであろう青年のことを思い出していると、鎹鴉が伝令を運んでくる。
     『炭治郎、禰󠄀豆子、両名を拘束して本部へ連れ帰るべし』。それが“あのお方”からの伝令であった。この伝令によって、とりあえず両名を殺されずに済むことが確定した。義勇は息をつく。

    「……これは、素山さんにも伝えるべきでしょうね」

     しのぶは一人、今後の予定を頭で組みながら事後処理に当たるのであった。勿論、同僚である水柱は無視するものとする。



    ❇︎ ❇︎ ❇︎

    「素山さん、少し良いでしょうか」

     夜。多くの傷ついた隊士たちを担ぎ込む隠たちを引き連れて帰ってきたしのぶが、隊士たちの手当てに忙しいアオイたちを手伝う狛治を呼び止める。

    「はい、何ですか?」
    「明日の午前に柱合会議があります。そこで“鬼を連れた隊士”の処遇が決まると思われるので、素山さんもどうでしょうか。貴方も他人事ではないでしょう?」

     一瞬ドキッとしたが、話しぶりからして、処遇が決まるのは自分達のことでは無さそうだ。

    「まさか俺たちの他にも同じような輩が居たとはなァ」

     同じく看病の手伝いをする鬼、猗窩座が話に割って入ってくる。言わずもがな、彼は狛治の“なる筈であった鬼”である。紆余曲折あって二人は分裂に成功したのだが、この話は長いので割愛するとしよう。

    「彼らは兄妹です。貴方達とは違った経緯ですが、彼らもまた異例の存在です。この後の方針も聞けると思うので、私としては一緒に来てほしいんですよね。あ、無理強いはしませんよ。治療やら看病やらで忙しいでしょうし」
    「……いえ、行かせてください。その“鬼を連れた隊士”を見ておきたいです。近い将来、何らかの形で会うかもしれないので」

     承諾すれば、しのぶは穏やかな笑みで頷いた。



    ❇︎ ❇︎ ❇︎

     そうして迎えた午前。しのぶの後ろをついて行き、本部へと初めて足を踏み入れる。

    「緊張せずとも大丈夫ですよ。素山さんはもう二人もの柱と会っているじゃないですか」
    「いや、それはそうなんですが……」

     それでも緊張するものはしてしまう。自分が何らかの処遇を受ける訳ではないのだが、柱と称される鬼殺隊屈指の実力者が全員集まるのだ。一人の武人としては緊張することこの上ない。

    「ふふ、ちゃんと人間らしいじゃないですか」
    「鬼に成りかけたとは言え、れっきとした人間ですからね。
     それで、件の隊士はどこに?」
    「うーん……まだ隠が到着していないのを見るに、今担ぎ込まれている最中でしょうね」

     本部である屋敷の庭にて既に集まっているのは7人。うち二人は既に顔見知りである岩柱と炎柱。残り五人とは会ったことはない。そのうちの一人、桃色の髪を三つ編みで結った少女がしのぶに気付くと笑顔を浮かべ、しかし狛治の顔を見ると驚いた表情を見せた。

    「しのぶちゃん、その人は誰かしら!?もしかして、」
    「お手伝い兼鬼殺隊士の素山さんです」

     何かを察したしのぶが少女の言葉を遮って狛治を紹介する。何故か注がれる視線に、狛治はたどたどしく会釈した。

    「昨日ぶりだな、睫毛青年!」
    「素山です。悲鳴嶼さんもお久しぶりです。最後にお会いしたのは三週間ほど前でしたか?」
    「そうだな。鍛錬は励んでいるか?」
    「はい。お陰様で雪の呼吸を何不自由なく使えています」

     既に三人の柱とここまで会話できるほどには顔を合わせている狛治に、少女は彼らを忙しなく見やる。

    (えっ、えっ?しのぶちゃんだけじゃなく、師範と悲鳴嶼さんとも知り合いなの!?この子すごいのね!それに“雪の呼吸”って何かしら、聞いたことのない呼吸法だけど。もしかして私やしのぶちゃんみたいに独自の呼吸法を編み出したのかしら!?すっごく気になる〜〜!!)
    「会話が盛り上がってる中悪いんだが、ソイツを紹介してくれや。俺たちは知らないから話についていけないんだが」

     と、四人の会話に切り込む大柄の男が正論をかざした。意外と盛り上がってしまった会話に「あ、」と声を出した狛治はすみませんと謝り、自己紹介を進める。

    「素山狛治です。階級は癸──」
    「いや、一昨日下弦の肆を倒したから階級は上がっている筈だぞ。少なくとも壬には進んでいるのではないか?」
    「えっ、下弦の鬼を倒したの!?」

     思わず口にしてしまった少女に注目が集まると、「あ、ごめんなさい。続けて続けて」と促してくる。

    「……階級は多分壬で、一昨日初めて任務にあてがわれたばかりの新人です」
    「えっ、初任務で下弦の鬼を倒したの!?!?」

     ……またまた遮ってしまった事に「ごめんなさい……」と顔を真っ赤にしながら謝る。

    「……まぁ、そりゃあ普通驚くわな。見た目地味な癖に、結構派手な功績を残すじゃねぇか。俺も正直驚いてる」
    「いえ、下弦の鬼を倒せたのは煉獄さんのおかげです。寧ろ俺は支援に回ったに過ぎません。それに、俺の呼吸法開拓に付き合ってくれた悲鳴嶼さん、一年かけて全集中・常中の指導をしてくれた胡蝶さんにも感謝しきれません。俺一人では何も出来なかったと思います」
    「それでも充分凄いわ!初めての任務でいきなり十二鬼月を倒しちゃうなんて!」

     素直に褒められるのには慣れていない。困ったような顔をしつつも、狛治は彼らの賞賛の言葉を受け止める。

    「ねぇ、別にそれは良いんだけど。どうしてその人がここに居るの?」

     と、本題に入らせたのはぼうっとした少年であった。見たところ最年少であろう彼の表情は読み取りにくく、本当に何を考えているのか分からない。カナヲを相手にしている時の様だ。彼女よりは我があるが、それでも気持ちを読み取るのが難しい。

    「胡蝶、何故部外者を立ち入らせた?その男が此処に来て良い理由が分からない」

     次に声を発したのは、木の上で横になっている白黒の羽織をした男であった。目の色が左右で異なっており、首には蛇を巻き付けて、何より口元を包帯で覆っているのが異質だ。

    「彼にも“例の鬼殺隊士”の処遇について、聞いてもらおうと思いまして。話がややこしくなるので経緯は伏せますが、彼もまた同様です」
    「“同様”?なんだ、その男も鬼を連れているのか。ならば何故拘束しない?何故柱とあろうもの三人が、その男に気を許している?俺は吐き気がしてきた、その男に何を期待しているんだ」
    「彼は人を襲わない。それは一年前から胡蝶の預所である蝶屋敷で証明されている。そして彼は鬼殺隊の信条である悪鬼滅殺をやってのけて見せた。それは一昨日の任務に同行し、判断を下した俺が証言する」
    「……待て。“彼は”、だと?それではまるで、」

     そこで、しのぶが咳払いをして会話を中断させる。

    「……話がややこしくなるので、この話は後に回させてください。第一、不死川さんがいない状態で話を進めると二度手間になりかねません。それに、」

     ちらりと見た先には、少年の隊士を担ぎ込む隠の姿が見てとれた。隠たちは少年を拘束した状態で起こしにかかる。

    「そろそろ、本題の時間です」



    ❇︎ ❇︎ ❇︎

    「起きろ、起きるんだ。起き……オイ、オイコラ。やいてめぇ、やい!」

     声をかけても、揺さぶっても起きる気配がしない。遂に隠の男性が背中を叩こうと腕を上げた時、男性の声が後ろからする。

    「代わります」
    「え?あ、あぁ、じゃあ……」

     隠の男性が黒髪の青年に代わってもらうと、青年はしゃがんで様子を見る。少しの間状態を確認した後、手甲の硬い部分で軽く頭を叩いた。コンコン、と扉を叩く素振りである。これには流石の隠も肝を冷やしたようで、青年を止めに入ろうと近づくが、

    「起きろ。お前の妹がどうなっても良いのか?」

     その一言で件の少年隊士が目を覚ます。バッと顔を上げると、そこで二人は目を合わせる事になった。スン、と少年は鼻で息をすると、たちまち驚いた表情を見せる。

    (……この人から、鬼の匂いがする。なのに、今までに出会った鬼のそれとはまた違う。禰󠄀豆子の様に、鬼としての匂いがありながら確信に至らせる様な匂いがしない……。
     仮にこの人が鬼なら、どうして日光の下に居られるんだ?鬼は日光が弱点だろう、どうしてこんな昼間から鬼の匂いがするんだ……?)

    「起きましたよ」
    「ありがとうございます、素山さん。
     おはようございます。ここは鬼殺隊の本部です。貴方は今から裁判を受けるのですよ、竈門炭治郎くん」

     柱たちの言い分はこうだ。
    「本来ならば、鬼を庇うなどという隊律違反をした時点で斬首するべき事態だ。しかし俺は既に素山青年と猗窩座という前例を見ているし、俺は彼らを許容した。彼らの様に確固たる証拠があるのならば、許容するのもやぶさかではない」
    「煉獄がそう言うとは珍しい。だが俺はソイツと鬼を斬るべきだと思うぜ。何なら俺が派手な血飛沫を見せてやるよ」
    (えぇぇ……?前例があるなら別に良いんじゃないかしら。それにこんな可愛い子を殺してしまうなんて胸が痛むわ、苦しいわ)
    「あぁ……なんというみすぼらしい子供だ。可哀想に。生まれてきたこと自体が可哀想だ。素山という例外が居るとはいえ、隊律は重んじるべきであろう。……“お館様”の御意向であるならば、私は素山をも断罪する覚悟がある」
    (あ、俺も一応裁判に掛けられるのか……)
    (……何だっけ、あの雲の形。なんて言うんだっけ)

     素山狛治と猗窩座という前例がある為に炎柱、煉獄杏寿郎は少年の断罪を渋り、対する音柱、宇髄天元は否応なしに斬るべきと主張。恋柱、甘露寺蜜璃は声に出さないもののどちらかというと許容派であり、岩柱、悲鳴嶼行冥は前例の二人を見ているものの隊律を重視して考える。その為ならば教え子として一年間指導した狛治と猗窩座を殺す覚悟である。そして霞柱、時透無一郎は大事な話を歯牙にも掛けない。
     一方、炭治郎は妹と仲間たちが今どこに居るのかが分かっていなかった。周囲を見渡しても居ない。

    「その“素山”はどうするのかね」

     と、口を開いたのは先ほどから木の上で横になっている蛇柱、伊黒小芭内であった。ネチネチと不満を垂れ流す姿を見て、「あぁ、これが通常なんだな」と察した。

    「胡蝶めの話を聞く限り、その男も同じく鬼を連れているのだろう。ならば隊律違反に相違ない。何故処罰に渋る、俺には理解できない。そこの隊士が鬼を庇ったという隊律違反で処罰するとすれば、一年も前から鬼といるそこの隊士もまた処罰の対象になるだろうに」

     矛先が狛治に向く。彼の言い分も正しいだろう。一年間、蝶屋敷の手伝いをした事で猗窩座が人を襲うことがない証拠を出し、一昨日の任務で鬼殺隊の補助をした事で有用性もあると証明できた。出来たが、これで納得してくれるほど甘くはないだろう。狛治の顔が曇る。

    (俺と同じで“鬼を連れている”?この人から鬼の匂いがしたのは、それが理由なのか?……俺のせいで、この人にまで疑いを掛けてしまっている。俺が、なんとかしなくちゃ……!)

     言葉にするべく息を吸うも、痛みで思わずむせてしまう。それを見たしのぶは懐から小さな瓢箪を取り出し、鎮痛薬入りの水を飲ませた。

    「顎を痛めていますから、ゆっくり飲んで話してください。鎮痛薬が入っているので楽になる筈です。怪我が治ったわけではないので、無理はいけませんよ」

     水を飲み、息を整えて炭治郎は話す。

    「……俺の妹は鬼になりました。だけど人を喰ったことはないんです。今までも、これからも。人を傷つけることは絶対にしません。
     この人だってその筈です。匂いで分かります、この人には鬼の腐臭がしない。この人が連れている鬼だって、何らかの因果で鬼にされただけです。今この話に、この人は関係ない筈です」
    「くだらない妄言を吐き散らすな。そもそも身内なら庇って当たり前。それは理由にならない。言うこと全て信用できない。俺は信用しない。
     お前だってそうだ、素山。この際だから言っておくが、胡蝶や煉獄がお前の連れている鬼の無害性と有用性を証明したところで、ソイツが鬼である事実は変わらない。例外がないとも限らない。不安要素は徹底的に潰すに限ると言うのに、何故そうしないのか理解に苦しむ」

     痛いところを突かれた。確かに例外は存在する。猗窩座が食欲を欠けているのも、件の鬼を連れた隊士、竈門炭治郎の妹が鬼になっても人を喰らっていないのも例外に当てはまる。しかしそれは、『絶対に人を襲わない』という確証にはならない。何らかの要因で、又は何らかの偶然で彼らが牙を剥き、人を襲う可能性例外も十分にあるのだ。

    「聞いてください!!俺は禰󠄀豆子を治すため剣士になったんです!禰󠄀豆子が鬼になったのは二年以上前のことで、その間禰󠄀豆子は人を喰ったりしてない!」
    「話が地味にぐるぐる回ってるぞアホが。人を喰ってないこと、これからも喰わないこと。口先だけでなくド派手に証明してみせろ。
     その点、素山は証明しきっている。胡蝶の屋敷で一年間、負傷した隊士がいる中で襲うことなく、しかも看病を手伝っていたと聞いた。そして先程も煉獄が言っていたが、一昨日の任務先で成された鬼殺隊における有用性の証明もされている。俺はその点を鑑みて、素山を評価するぜ」

     まさか天元がその証明を知っていたとは。しのぶも驚くが、すぐ納得した。大方、忍びとしての癖やらで何処かから情報を聞き出してきたのだろう。流石は忍びの血筋、油断も隙もない。
     そこに、「あのぉ、」とおずおず発言するのは、恋柱の蜜璃であった。

    「でも疑問があるんですけど……。”お館様“がこの事を把握していないとは思えないんです。勝手に処分しちゃって良いんでしょうか?いらっしゃるまで、とりあえず待った方が……」

     あまり発言権が無いのだろうか?他の柱たちに生暖かい目で諭されている。
     とは言え、彼女の意見も尤もだ。上の指示を仰ぐ。組織ならばそれもまた選択のうちに入るだろう。狛治たちの件もしのぶが報告した事で認識され、そして一年間監視している間も定期的に報告していた。それ故にこの様な異例を許してもらえているのだ。

    「妹は俺と一緒に戦えます!鬼殺隊として、人を守るために戦えるんです!だから───」


    「オイオイ、何だか面白いことになってるなァ」

     炭治郎の宣言を遮るように、その男は現れた。しかも、左手に軽々と抱えているのは縦長の木箱。一側面に紐が伸びているのを見るに、腕を通して背負うものだ。
     そして身体中傷だらけの白髪の男、風柱、不死川実弥は怒りを露わにして話を続ける。

    「鬼を連れてた馬鹿隊員はそいつかいィ。一体全体どういうつもりだァ?」
    「困ります不死川様!どうか箱を手放してくださいませ!」
    「胡蝶様、申し訳ありません……」

     隠の二人もかなり慌てている事から、これが異常事態である事が分かる。鬼気迫るその気迫に圧倒されるが、しのぶは難しい顔をして実弥の方に向き直る。こちらもこちらで腹を立てている様だ。二人に挟まれるこちらの身にもなってほしい。

    「不死川さん、勝手なことをしないでください」
    「鬼が何だって?坊主ゥ。“鬼殺隊として人を守るために戦える”ゥ?
     そんなことはなァ、ありえねぇんだよ馬鹿がァ!!」

     腰に下げた刀を引き抜き、刃を勢いよく箱に刺す。この暴虐無人っぷりに一同は息を呑み、狛治もまた顔を歪ませた。その行為に、この男の言葉に、こちらの心も抉られる様であった。
     箱の隙間から垂れる血液が、中に鬼がいる事を物語る。瞬間、炭治郎は走り出していた。

    「俺の妹を傷つける奴は、柱だろうが何だろうが許さない!!」
    「ハハハハ!!そうかい、よかったなァ!」
    「やめろ!!もうすぐ“お館様”がいらっしゃるぞ!」

     終始黙っていた水柱、冨岡義勇が静止の言葉をかける。そちらに気を逸らしてしまった実弥の一振りはかわされ、代わりと言わんばかりに炭治郎の頭突きが顔に炸裂した。炭治郎はかなりの石頭なのだろう。実弥は鼻血を出して倒れる。その時蜜璃が思わず吹いてしまっていたが、それは不問とする。

    「善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないなら、柱なんてやめてしまえ!!」
    「てめェェ……!ぶっ殺してやる!!」

     実弥が顔を上げた時、独特な香りが狛治の鼻をつく。
     猗窩座が体の中のいる時、狛治の体細胞は人の細胞と鬼の細胞が混同する。その際、身体能力が若干鬼寄りになるのだが、人の血肉に対する判断も鬼寄りになる。ツンとする、甘い香り……いや違う。少量にしては濃すぎる鉄分の臭い。これは、

    『狛治……なんだ、この臭いは……頭が痛いんだが……』
    (多分、稀血だ。この人、稀血の持ち主なのに柱として前線に出ているのか……!)

    「“お館様”のお成りです」

     屋敷の奥、襖が開いた先にいたのは、彼らが言っていた“お館様”、産屋敷耀哉であった。
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