斉唱「孤独な鯨って知ってる?」
「孤独な鯨?」
「そう、その鯨は声が高すぎて誰にも理解される事のない孤独な鯨。誰もその鯨の声を聞くことができないんだ」
宵闇の暗さと同じくらい深い色の海は、冬の訪れを待つほど冷たい波が肌を刺す。
海へ行かない?と言った公子殿は、日没前の美しい黄昏色の髪が暗く染まっていた。
「その鯨はどんな声で歌うんだろうね」
「……とても美しい声だと思うぞ」
「はは……先生ならきっと聞けるかもね」
もし聞けたら教えてよね。その鯨がどんな歌声だったのかをね。
ブーツ脱ぎ、裾を上げながら海へ走る彼は美しい空鯨を掲げる。鳴き声が空から涙を流し、温かい雨が手のひらにぴちゃんと滴り、白い砂浜に吸い込まれていった。
往生堂の仕事が入ったのはそれから数日後だった。
相手は"北国銀行"から。そしてその名前を堂主から聞かされた俺は気づいた時には海にいた。
日は沈み、青い海の色が反射した青い月がキラキラと美しい情景を魅せる。ザーザーと波打つ海の音は海が歌ってるかのように心地がいい。
孤独な鯨はどんな声で歌うんだろうね?
先生ならきっと聞こえるよ
お気に入りの革靴に手をかけ、両足を揃え波打ち際に並べおく。裾を上げると痛いくらい冷たい波が肌を刺す。
鯨が歌っている。とても美しい音色で。
一人はきっと寂しい。
俺も一緒に歌ってやろう。だから、待っててくれ。
鯨と龍の斉唱が冬の訪れを待つ璃月の海に優しく響き渡っていた。