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    ばったもん

    ワヒロと浅桐さんと戸浅が好きです。

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    ばったもん

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    【始まりの春】第一話
     今ではツーカー(古)な戸上さんと浅桐さんも、入学したての一年生の時には上手く連携出来なかったりしたのかなという妄想です。
    (2021.03.28)

    #ワヒロ##戸浅##始まりの春

    桜が舞う。
     満開の桜道の下、学び舎の門をくぐる若者達に今年もまた幼さの残る顔立ちが混じる季節になった。
     柔らかな春の日差しの中をはらはらと降り注ぐ薄紅の一片が、真新しい制服の肩へと舞い落ちる。
     桜が咲き誇る校庭を、戸上宗一郎もまだ身体になじまない赤錆色のブレザー姿で校舎へと歩いて行く。長身の宗一郎はゆっくり歩いていても歩幅の広さから進みは早く、その肩で一休みした花弁が風に浚われる様に飛んでいった。

    『ほら、あいつだよ。白星から来たっていうさ……』
    『ヒーローなんだろ? なんでわざわざ白星から?』
    『白星じゃレギュラーになれないからだろ。崖っぷちの崖縁なら誰でもなれるもんな』

     すれ違う生徒達の中に、時折そんな聞こえよがしの声がするが、宗一郎の歩みは変わらない。宗一郎がエスカレーター式に進学出来たはずのヒーローの名門高、白星第一学園の付属中学から崖縁工業へと外部進学する事を決めた時、それなりにゴタゴタも有り、仲間達やとりわけ後輩には迷惑をかけてしまった。そのことで古巣の白星でも宗一郎の選んだ道を快く思わない者も少なからず居た。
     だが、共にヒーローを目指して訓練していた仲間達の元を離れ、親元も離れ、生き直すくらいの覚悟をもって自分自身で選んだ崖縁だ。たとえ歓迎されなかったとしても、誰になんと言われようとも、宗一郎が歩みを止める事も俯くことも無い。
     宗一郎の背後でざわと桜が揺れた。

    『浅桐だ』
    『……あれが天才強化技師』

     登校中の生徒達の間に、一つの名前がさざ波の様に広がっていく。そのざわめきには好奇心や憧れといった華やかさが有った。
     立ち止まって振り向いた宗一郎の視線の先で、自然と割れる人並みの真ん中を細身の長身がまっすぐに歩いてくる。その手にぶら下げる様に持つ銀のアタッシュケースが、春の朝日を受けて鈍く輝いていた。
     宗一郎と同じように着慣れていないはずのブレザーを自然に着こなすその人物は、彫りの深い整った顔立ちをしているが、鋭い目つきと皮肉な表情が気難しそうな印象を与える。肩まで伸ばした特徴的な錫色の髪がほんのりと桜の薄紅を映し、浅桐の歩みに合わせて揺れていた。 
     浅桐は宗一郎の側までくると、いつもの様に唇の端を上げてニヤリと笑った。
    「よぉ、宗一郎」
    「おはよう。浅桐」
     軽く挨拶を交わしただけで浅桐の歩みは止まらない。宗一郎は浅桐の隣へと並んで歩き出した。
    「今日は午後にイーターの出現予想が有る。昼休みになったらラボに来いよ」
    「承知した」
     並ぶと浅桐は宗一郎よりも視線一つほど背が低いが一般的には長身の部類で、体躯も宗一郎に比べればずいぶんと細いが華奢と言うほどでも無い。なにかと人の噂に上る二人が並んで歩けば、当然周囲の視線は集まってくるのだが、二人共に全く気にした様子は無い。
     しばらくは並んで歩いていたが、浅桐は校舎の前までくると宗一郎とは反対の方へ足を向けた。
    「浅桐。教室へ行かないのか?」
    「ヒッヒッヒ。新生崖縁ヒーローの初陣だ。ドラマチックにしねぇとなぁ」
     宗一郎の問いにはひらひらと手を振って答え、ヒーローというよりは悪役の様な笑い声を残して、浅桐はラボへと行ってしまった。


     浅桐の背を見送り、宗一郎は踵を返した。昇降口で上履きに履き替え、4階へ向かう。4階建ての校舎は上から一年生、二年生、三年生の順に教室が配置され、専門科ごとにクラス分けされている。4階廊下の突き当たりに『機械人体強化科』とやや窮屈そうに筆でかかれたプレートが付いた引き戸があり、宗一郎は開いたままのその扉をくぐった。
     すれ違う数人のクラスメイトと挨拶を交わしながら自分の席へ向かうと、隣の席から声がかかる。
    「ガミくん。おはよ~」
    「おはよう。夏木」
    「? 浅桐くんは?」
     宗一郎と浅桐は毎朝一緒に登校してくるわけでも無いのだが、宗一郎が一人だけなのを見て不思議そうにそう聞いてくるのは、登校中に二人を見かけたのだろう。
    「ラボへ直行したようだ」
    「自由だねぇ」
     クラスメイトがそういって笑うのは、入学して数日で浅桐が気まぐれにしか授業に出ない事はすでに解っているからだ。そして、それについて咎めようという者もこのクラスにはいない。


     入学式の日、担任となった教諭が新入生を受け持った時の恒例行事ということで、各自短い自己紹介をすることになった。
     皆一様に名前のほかには出身校や部活動、趣味といったテンプレート的な自己紹介が続き、宗一郎も皆とそれほど変わりない内容で白星第一中学付属の出身で有ること、部活はバスケ部だったこと、崖縁でヒーローをするといった事を話した。白星からと聞いて、やはり周囲は多少ざわめいたが、次に立ち上がった浅桐の自己紹介にはクラス中が驚いた。
    「浅桐真大」
     面倒臭そうに立ち上がった浅桐は、傲然と自分の名前だけを告げて腰を下ろした。
     あまりに簡潔な自己紹介に宗一郎を含むクラスの半数はぽかんとし、のこる半数はどよめいた。
    「浅桐くん。ほかには?」
     流石に短すぎる自己紹介に、補足を促した担任に浅桐は唇の端を上げて皮肉に笑った。
    「ヒッヒッヒッ。ま、人体強化を学ぼうって連中にはコレで十分だろ」
     教師を含む半数の生徒達のどよめきが大きくなり、おいてけぼりの半数はますます唖然とした出来事だった。


    「浅桐くん。教える方でも不思議じゃ無いもんなぁ」
     夏木がパラパラとめくる機械人体強化の教科書に『浅桐真大』の名は記されている。教科書だけでなく、参考書にも学校指定の技術書にも『浅桐真大』の名は掲載されており、あのときおいてけぼりだった半数のクラスメイト達もたった数日であの短すぎる自己紹介に含まれた膨大な情報を知った。
    「この前もエンジニア情報誌に特集出てたぜ」
     夏木の前の席に座っているクラスメイトが振り返って、携帯の画面を彼に見せる。そこには世界のエンジニアに向けて制作されている技術雑誌の表紙が写っていた。
    「すっげぇ。これ、めっちゃ難しい系の本じゃん。流っ石ぁ」
     まるで遠い国の大スターを語るかのように盛り上がるクラスメイト達の話を聞きながら、宗一郎は窓際の自分の席へと腰を下ろした。


     ◇ ◇ ◇


     午後になり、宗一郎は浅桐と共にパトロールを兼ねて出現予想地域の住民へ避難を呼びかけていた。石崖区と北松区の境にあるこの地域は古い住宅が多く、レトロな町並みには電信柱がまだ残っている所も有る。
    (戦闘でひっかけてしまっては、この辺一帯の住民に被害が出るな……)
     被害を出さない立ち回りを意識しなければと考えながら、ポケットのリンクユニットを確かめた。
     ポケットから取り出した結晶は、宗一郎の掌で薄く緑色に輝いている。


     宗一郎がこのリンクユニットを渡されたのは入学式当日だった。
     帰る前にラボへ来いと浅桐に呼ばれ、宗一郎は強化手術を受けてから初めてラボの扉をくぐった。念願の崖縁へ入学し、今日からここがヒーローとしての拠点となるのだと思うと感慨深いものが有る気もするが、まだ実感が湧かないというのも正直な感想だった。
    「リンクユニット届いてっから、装備しとけよ」
     そう言って、浅桐は作業台に置いてあった段ボールの小箱を開けた。
    「早いな。 ……もっと時間がかかるものだと思ったが」
     宗一郎が候補生時代に先輩達から聞いていた話では、新入生は四月中には貰えるらしいという話だったが、入学式当日に支給されたいう話は聞いた事が無かった。
    「新入生が売るほど入る様なとこと比べんな。うちは入れ替わりで現役ヒーローが卒業しちまったからな。『ヒーロー活動を途絶えさせない為』って名目で強化技師権限で事前申請した」
     ヒヒっと悪戯っぽく浅桐が笑う。
     崖縁工業所属の強化技師には様々な権限が有るが、制度を考えた前人は流石に学生が強化技師を兼任するなどという事態は想定していなかったに違いない。
    「流石に新入生を売ってはいなかったと思うが……」
     宗一郎は苦笑して浅桐が開いた小箱をのぞき込んだ。箱の中には21、22と番号が振られてあり、宗一郎はごく自然に22番を手に取った。
    「そりゃ、オレんだよ」
     浅桐は宗一郎の手から22番の箱を掠めるように取り上げた。
    「まってくれ。1番はリーダー番号だろう? 崖縁のリーダーなら浅桐の方が……」
     珍しく焦って言いかけた宗一郎の鼻先を浅桐の細い指先がはじいた。
    「い~か、よく聞け。宗一郎。オレぁね。忙しいんだよ。ヒーローとしての活動の他にも崖縁の強化技師としての仕事も有るし、買いだめたコミックも読まなきゃいけねぇし、撮りためたビデオも見なきゃいけねぇの。リーダーなんて雑用やってる暇無いんだわ」
     面食らって目を丸くする宗一郎に、浅桐は21番の箱を押しつける。
     宗一郎の認識では、リーダー番号はすべてに秀でたヒーローの証でもあり、誰もが憧れる栄光の番号だった。白星の候補生達はその番号をつける自分の姿を夢見て訓練に励んでいたのだが、崖縁では、というより浅桐にとってはその栄光のリーダー番号は「雑用係」と等しいらしい。
     なぜか自分はもう崖縁にいるんだと、こんな些細な事で実感が湧いてくる。そう思うとなんだか可笑しくなって、宗一郎は素直に21番を受け取る事が出来た。


     そして今、宗一郎の手には21の番号が浮かぶリンクユニットが有る。
    「来たぜ」
     嬉しそうに口角を上げ、浅桐も緑に輝く結晶を手にする。
     ふよふよと漂う幼生体の増加は成体が現れる前兆だ。
     心地よい春の昼下がりに誰もが聞き慣れた警報音が鳴り響き、避難を促すアナウンスが場違いな程にのんびりと流れた。
    「っし。……ドラマチックに行こうぜ。変身!」
     浅桐のかけ声に合わせ、緑色に輝く石を割り砕く。まばゆい閃光が弾け、澄んだ青空に深緑のスカーフが翻った。赤錆色のブレザーは黒鉄色の戦闘服へと変わり、その腕には学校のエンブレムとヒーロー番号が輝く。
    「念のため周辺の避難状況確認してくっから、イーターの誘導頼むわ」
    「誘導先は?」
    「2ブロック先だ。再開発の遅れで瓦礫しかねぇ区域が有る」
    「了解だ」
     宗一郎が頷くと、浅桐は軽く反動を付けて地を蹴った。その細い体が思いがけない勢いで空高くへと舞い上がる。
    「! ……凄いな」
     浅桐の強化部位は脚だと聞いてはいたが、宗一郎が実際にその能力を見るのは初めてだった。感心して見上げる宗一郎の視線の先で、浅桐は軽々と民家を飛び越えてその姿が見えなくなった。
     イーターの咆吼が簡素な住宅街に響く。
     新たな仲間の力に感心してばかりはいられない。宗一郎も自分の武器を構えた。


     ◇ ◇ ◇


    「フィナーレだ!」
     浅桐の魔弾がイーターの眉間から尻尾までを貫き通し、宙に縫い止められたかのように動きを止めたイーターは、端部から溶け崩れる様に光粒となって霧散した。
     討伐すればそれで終わりとはいかない。休む間もなく被害状況の確認をしていると、イーター討伐完了の報を受けてシェルターに避難していた人たちが戻りはじめた。
     町に日常が再開されるのを確認して、二人の戦闘服が一瞬の煌めきからもとの制服へと戻る。
    「浅桐」
    「宗一郎」
     互いを呼ぶ声は同時に発せられ、見合わせた顔に笑みがこぼれる。宗一郎が先を譲った。
    「ラボに帰ってメンテすっぞ。しばらくは稼働データの収集と調整を念入りにやっからな」
    「承知した」
    「で、お前の方は何だって?」
     傍若無人な印象のある浅桐だが、意外と律儀に宗一郎の話も聞いてくれる。
    「メンテの後で良いんだが、報告書を作成する為に今日の戦闘についてお前の意見を聞きたい」
    「ふ~ん。……了解だ」
     何かを含んだ様な間が少し気になったが、宗一郎が問いかける前に浅桐はさっさと行ってしまった。


    「上だけ脱いで施術台に上がれ」
     浅桐の指示に従い、宗一郎は施術台に腰を下ろして学校指定のワイシャツを脱いだ。
    「開くのか?」
     施術台に横になりながら聞いてみる。
    「い~や。……ま、そのうち習うだろうが心臓の強化ってのは歴史が長い分技術も進んでんだ。そうそう頻繁に開胸手術は必要ねぇよ」
     浅桐はそう言いながら宗一郎の胸元へ手早く電極を取り付けていく。
    「稼働データのコピーしてから、動作チェックと調整すっから、十分程度安静にしてろよ」
    「解った」
     宗一郎が頷くと、ラボの照明が抑えられ、微かな電子音が等間隔に鳴り始める。
    「……ついでだ。ミーティングも一緒にやっちまうか」
    「俺はかまわないが……」
     宗一郎は安静にしながらミーティングが出来るのだろうかと少し疑問に思ったが、浅桐が言い出した事でもあるし、きっと差し支えないということなのだろうと頷いた。
    「まずは、リーダーとして今日の戦闘の総評ってヤツを聞かせてくれねぇか?」
     リーダーとして、そう問われて宗一郎は考え込んだ。個人として自分自身の反省点などいくらでも出てくるが、リーダーとしての視点を求められているのだからチームとして伸ばすべき点や改善すべき点を考えるべきだろう。
    「……そうだな。早めに避難を呼びかけた事で住民に怪我も無かったし、建物への被害も数軒の塀が崩れた程度で生活する母屋にまで被害が及ばなかった。電信柱の残る地域だったが、断線の被害も無かった。改善する点が無いわけでは無いが、初戦にしては深刻な被害も無く、よくやれたと思う」
     浅桐はずっとモニター画面のデータを見ているが、同時に宗一郎の言葉を聞いているのはわかる。
    「浅桐の意見を聞かせてくれないか?」
     宗一郎が問いかけると、浅桐はキーボードで何かを操作してから宗一郎を振り返った。
    「……白星の補欠ヒーローなら及第点かもしれねぇが、崖縁のヒーローとしちゃぁ、評価出来ねぇな」
     厳しい言葉のわりには、その声に怒りも苛立ちも感じられない。浅桐は淡々と言葉を続けた。
    「まずは、強化技師としての意見だが……」
     浅桐はタブレット端末を手に取り、その長い指先で画面を操作していく。その手が止まり、指先が画面の縁をトントンと叩いた。どうやら何か考えている時のクセらしい。
    「……今日の戦闘は時間がかかりすぎだ。オレとお前の強化スペックなら、半分の時間で討伐出来たハズだ。当然、あらゆるマイナス要素を考えた上で、さらに甘く見積もってだ」
     タブレット越しの視線が宗一郎を見る。普段は感情豊かに見える浅桐だが、今は全く読み取れなかった。
    「俺は強化部位を使いこなせて無いということか?」
    「使いこなせて無いっつうか…… 宗一郎。お前、今日の戦闘で強化した能力を実感したか?」
     問い返され、宗一郎は考え込んだ。候補生時代よりも動けたしヒーローとしての力も感じた。
     だが、候補生からレギュラーヒーローになったことで、変身するためのアイテムもリンクチップからリンクユニットへと変わり、地球とより強くリンク出来る様になったのだから、能力が上がるのは考えてみれば当然だ。
    「…………」
     答える事が出来ない宗一郎の様子を観察していた浅桐は、タブレット端末の画面を宗一郎へ向けた。
    「戦闘中の稼働データは0だ。つまり、使いこなす以前の問題だな。お前は今日、強化ユニットを取り付けただけの生身の心臓で戦ってたって事だ」
     浅桐の視線はじっと宗一郎を観察するように見ている。
    「ま、お前が強化部位を使いこなせる様に訓練を組むのも強化技師(オレ)の仕事ってヤツだわな」
    「すまん。頼む」
     自分から頼み込んだ人体強化を戦闘で全く生かせていないという事実は、少なからず宗一郎を動揺させていた。思わず起き上がりそうになり、安静にしていろと浅桐に叱られてしまう。
    「で、こっからはヒーローとしての意見だが…… お前は今日、三度オレの銃口を遮った。そもそも重式のお前が前衛で、術式のオレが後衛で戦ってんだから、お前がオレの銃口の前をうろちょろすんのは必然だ。そんなものをいちいち数えちゃいねぇ。オレが言う三度ってのはイーターを倒すチャンスだった三度だ。気づいてっか?」
    「! すまん。気づかなかった……」
     浅桐に指摘されるまで、宗一郎はそのことに全く気づいていなかった。気を配る事が多く慣れない初戦で余裕が無かったのは確かだが、仲間の邪魔をしてしまって気付かないとは流石に不甲斐ない。
    「オレの邪魔をしたってのは当然許しがたいが、それよりも問題なのは、オレがイーターを倒すチャンスだと考えた時、お前はそう思って無かったって事の方だ……」
     浅桐の指が端末の縁を叩く。
     確かに、その認識がズレたままでは今後も同じ事を繰り返す事になるだろう。だが、何度思い返してみても浅桐の言っているのがどの場面なのかが宗一郎には解らなかった。
    「なんっつうか、全体的にお前の戦い方は白星臭ぇんだよ。白星の候補生時代に培った戦い方が悪いとは言わねぇが、白星の戦い方は白星っていう、余所じゃ即レギュラー級の血性値の高いヒーローが余ってるくらいの集団でこそ機能するもんだ。崖縁の戦い方じゃねぇ」
    「……崖縁の 戦い方」
     浅桐の指先が、またタブレットの縁を叩く。
    「……宗一郎。お前はオレに『崖縁でヒーローになりたい』ってぇ言ったよなぁ。なんで崖縁なんだ?」
     改めて問われ、宗一郎は何度も口にした理由を答える。
    「崖縁に以前の様な活気を取り戻したい」
    「そりゃ『ヒーローになってやりたいこと』だろうが、崖縁に活気を取り戻すだけならヒーローである必要もねぇ。オレが聞いてんのはお前が『崖縁』でヒーローになりたかった理由だ」
     思いがけない浅桐の指摘に宗一郎は目を瞬いた。
     幼い頃、慕っていた叔父に聞いた話とは違い、ずいぶんと寂れてしまった崖縁にかつてのように活気を取り戻したい。それが自分が崖縁でヒーローになる理由だと宗一郎は思っていた。だが、それは違うと浅桐は言う。そして、その指摘にこの時の宗一郎はなぜか反論出来なかった。
     タブレットを置いて立ち上がった浅桐が、宗一郎の胸元へ取り付けた電極を外していく。
    「崖縁でなきゃならない理由ってヤツを良~く考えるんだな。強化部位の使いこなしも、オレとの認識の差も、お前が『崖縁のヒーロー』になりゃ簡単に解決する程度の問題だ。今のまま白星の補欠の枠を抜けられねぇなら、お前のこの新しい心臓は動かねぇよ」

    《つづく》
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