Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ばったもん

    ワヒロと浅桐さんと戸浅が好きです。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 41

    ばったもん

    ☆quiet follow

    【始まりの春】第二話
    (2021.04.11)

    #ワヒロ##戸浅##始まりの春

    モルタルを丁寧に重ね、ブロックを積み鉄筋を横に組んでまたモルタルを重ねてブロックを積む。
     宗一郎としてはあまり器用ではないという自覚はあるので、できるだけ丁寧な仕事を心がけるしかない。
     家主である品の良い老婦人に見守られ、宗一郎が老婦人宅の壊れたブロック塀を補修しているのは、登校途中に出会った浅桐に、ヒーロー活動へ行くとそのまま連れてこられたからだ。
     昨日戦闘のあった地区では、住民達がイーターに壊された塀や庭、道路などの復旧作業をしていたが、驚いたことに作業をしている大半が職人では無く近隣住民だった。しかも作業に出ている住民はご高齢で瓦礫を除けるだけでも難儀している様だった。
    「職人が足りねぇんだよ。毎日の様にどっかしらイーターが壊しちまうからな。どうしてもライフラインや主要施設優先で個人宅ってのは後回しになるもんだ」
     浅桐にしっかり働けよと背を押され、住民の皆さんに若い労働力と大歓迎されたのが一時間ほど前の事。そして宗一郎は今、浅桐が「チヨ婆ぁ」と呼ぶ老婦人宅の庭で新しいブロック塀を積んでいる。
     こうして黙々とブロックを積んでいると、どうしても頭の隅に昨日浅桐に言われたことが浮かんでくる。

     崖縁でなければならない理由……

     中学に上がる前、ほとんどの児童が受ける血性検査で、自分が水準よりも高い値を持つと知った時、宗一郎は単純に嬉しかったと思う。自分にはヒーローになる為の資質があり、望めばヒーローになれる。
     検査の結果を見せてヒーローになりたいと両親へ伝えた時、父母はなんとも複雑な顔をしたのを覚えている。
    「……宗一郎。私はお前の様に血性値が高くは無かったから、ヒーローとして戦うことの苦労は解らない」
     ややあってそんな風に口を開いた父はヒーローではなかったが、その弟であり宗一郎が慕っていた叔父は元ヒーローだった。
    「ヒーローはとても危険な仕事だ。大怪我や命の危険も有る。イーター出現の警報が鳴るたび、家族はこの世界の事よりも、ヒーローとして戦う者が無事に戻ってきてくれる事を願うものだ。お前は母さんや奈々子達に、お前が戻ってこないかもしれないと怖い思いをさせてしまうことを解っているかい?」
     そう問われ「みんなが心配しなくても良いくらい強くなるよ」と無邪気に応えた幼い宗一郎の頭を撫でる父の大きな温かい手を覚えている。
     思えばこのときの宗一郎は、父の言葉も父母の複雑な戸惑いも理解出来てはいなかった。それを理解するにはまだ知らない感情の方が多かったのだと思う。
     だが今は……

     最後のブロックを丁寧に積み上げ、宗一郎は一つ息をついた。
     足下にはブロックが崩れた時に押しつぶされた花が無残に散らばっている。
     塀が崩れてこなければきっと美しい花壇だったに違いない。ブロックの崩落を免れた一角には家主の老婦人が丹精込めて育てた花が美しく咲いている。潰れてしまった花は取り返せないが、宗一郎は来年また美しい花を咲かせてくれるようにと、根と葉が残っているものを整えて押し固められた土を柔らかくほぐした。
    「ほ~お。土いじり出来んのか」
     不意に背後から声をかけられ驚いて振り向くと、先ほどまで姿の見えなかった浅桐が宗一郎を見てニヤリと笑った。

    「いやぁ。ありがとうねぇ。年寄りじゃどうにも出来なくってよぉ」
     五十はあろうかという盆栽の鉢を家主の指示通りの場所へ丁寧に置いていく。あの後、浅桐にまた別の家へと連れてこられた宗一郎は、今度はイーターに壊されたという盆栽の植え替えを頼まれた。
     今度の家主は浅桐に「松浦のジジィ」と呼ばれている小柄で年配の男性で、子供達が独立したので奥さんと二人で暮らしているという。
     土の入った陶器の鉢はそれなりの重さで、ヒーローとして鍛えてきた宗一郎といえども結構な重労働だ。
    「助かったよ。戸上くんだっけ? うちの母ちゃんが茶ぁ淹れてくれたから一服していきな」
     家主の松浦さんの声に振り向くと、奥さんが縁側にお茶とお茶菓子を用意してくれていた。
    「ありがとうございます。いただきます」
     せっかく用意してくれたのだからとありがたく心遣いを受け、お茶とお菓子をいただくと渇いた喉と疲れた身体に染みるように美味しかった。
     そうやって整った盆栽を眺めているとなんとも長閑な気分になるのだが、イーター被害の復旧を手伝いに来ているのだからのんびりとはしていられない。
     いただいたお茶のお礼を言って、また別の家へ手伝いへ行こうと立ち上がった時、そういえば宗一郎をここへ連れてきた浅桐の姿がまたいつの間にか見えない事に気付いた。
    「すみません。浅桐を知りませんか?」
    「真大くんかい? 大原のじいさんのところで強化利用者のみんなを看てくれてるよ。じいさんとこはすぐそこの大きな家だからすぐ解るさ」
     と教えてくれた家主も世間的にはおじいさんと呼ばれる年齢だろうと思われるので「大原のじいさん」というのはさらにご高齢なのだろう。
     改めて家主に礼を言って教えられた家へ向かうと、迷うことも無くすぐに解った。ひときわ大きな屋敷の門前にご老人が数人列を作っている。
     宗一郎が中をのぞき込んで見ると、特徴的な錫色の髪が見えた。
    「……っし、動いて良いぜ」
    「ありがとよ。やっぱ、真大ちゃんがメンテしてくれると調子が良いねぇ」
     小柄な小父さんが子供の様に嬉しそうにぴょんぴょんと庭を飛び回っている。どうやら脚をメンテナンスして貰ったようだ。
    「もう少しマメにメンテすりゃぁ調子悪くなんかならねぇよ」
     不本意そうにこぼす浅桐の小言は聞かないふりで、小父さんは調子の良くなった脚でうきうきと帰って行った。その小父さんの背にさらに小言を言おうとした浅桐が宗一郎に気付く。
    「そっちは終わった見てぇだな」
    「あぁ。外に手伝う事は無いか」
    「こっちもさっきのジジィで終わりだ」
     浅桐が立ち上がって縁側から庭に降りると、集まっていたご老人方が名残惜しそうに声をかけてくれるが、浅桐は「またな」とさっさと門から出て行ってしまう。
    「……浅桐は顔が広いんだな」
     追いかけて浅桐の隣へ並んで歩き、宗一郎が感心していると浅桐はチラリと宗一郎を見て笑った。
    「ヒッヒッ。すぐにお前の顔も広くなるぜ。崖縁のヒーローとしてな」
     少し意地悪く言って、浅桐はまた笑う。
     宗一郎は無意識にシャツの胸元を握った。この中に収まっている強化パーツを自分は昨日の戦闘で使う事が出来なかった。
     崖縁工業へ通って崖縁工業の戦闘服を着てヒーローとして戦っているのだから、周囲は間違いなく宗一郎を崖縁のヒーローだと思うだろう。それが当然だ。
     宗一郎自身も崖縁のヒーローとして戦っている。強化部位を使いこなせない等という事は言い訳や泣き言でしかない。
     今回は庭や敷地を囲う塀が壊されたが、死人も怪我人も無かった。被害としては小さい部類なのだろう。
     実際、宗一郎は昨日の報告書に『被害小』と書いた。それは、報告書に書き入れる時の基準に則った書き方ではあったのだが、そう書き入れるのにはどこか抵抗があった。
     思えば白星にいた頃は戦闘区域になった地区の被害状況の調査をして報告するのは候補生の仕事だった。候補生はチェック項目を頭にたたき込んで戦闘後の被害状況を確認し、報告する。
    『Dエリア、被害小です』
     宗一郎も何度もそんな報告をした。そのたびに心のどこかに小さな棘を感じながら。
     家の塀は防犯の為にあるもので、庭は家主がコツコツ整えたものだ。書類上で分類するための基準で小さいと分類されたとしても、被害が有れば誰かが苦しむ。
     現実としてイーターが出現すれば、被害をゼロにすることは難しい。
     それでも、宗一郎が強化部位を使いこなす事が出来ていれば、もっと早くイーターを討伐することが可能だった。少しでも早くイーターを倒す事が出来ていたら、チヨさんの花壇は損なわれる事が無かったかもしれない……


     浅桐は隣を歩く宗一郎を観察していた。
     宗一郎が強化部位を使えなかった事は浅桐にとって誤算というより意外だった。
     まだ雪がちらつく頃だ。
     受験の為の願書を提出に来た宗一郎は、その脚でラボへやってきた。強化の為に必要な資料一式を抱えて……

     扉を開けたまま突っ立っている男を見て、浅桐は訝しげに眉を寄せた。この顔は知っている。少し前まで合同訓練に参加しないかとわりとしつこく誘いに来たヤツだ。それがなぜここに居て、浅桐を見て驚いた顔をしているのか。
    「……なんか用か? 用が有るなら入って扉閉めろ。無ぇなら扉閉めて帰れ」
     時候の挨拶では新春と言うが、天候的には真冬だ。扉を開けたまま突っ立っていられたら、吹き込んでくる冷気に暖房で温めたラボの空気が駆逐されてしまう。浅桐は冬の冷気が嫌いでは無いが、寒く無い訳では無いし、室内に居るのだから扉を開けたまま突っ立っているヤツの様に厚着もしていない。いつまでも扉を開けたままで居られたら凍えてしまうだろう。
    「すまない。……崖縁登録技師の浅桐さんに……」
     言いかけてそいつは目を丸くした。言葉の途中で気付いたのだろう。ここには登録技師が居るはずで、聞いてきた名前を持つ人物が一人だけ居る。その答えは簡単だ。
    「そりゃ、オレだよ」
     ダメ押しにそう教えてやると、そいつは外の凡夫共とは違う反応をした。強化技師を訪ねてきた凡愚どもが浅桐を見ると、冗談だと決めつけて「大人の人は?」と聞いてくる。そして、浅桐の免許が本物と知ると引きつった笑みを顔に張り付かせてそそくさと帰って行く。
     だが、そいつはまるで知っている人で良かったと言うように嬉しそうに破顔した。

    「戸上宗一郎だ」
    「……あぁ。知ってるよ。白星の候補生だろ」
     ようやく扉を閉めてラボへ入ってきた宗一郎は浅桐に丁寧に頭を下げた。浅桐が視線で作業台の側にある椅子を示すと、宗一郎は自分で運んできて腰を下ろし、大事に抱えていた書類の袋を浅桐に差し出した。
    「人体強化をして欲しい」
    「お前にか? 強化したら白星のヒーローに成れねぇだろ」
     ヒーローの名門白星第一高校は『純粋なる血性』を重んじる。レギュラーヒーローの条件は血性値の高さ。人体強化などで底上げした力は論外だ。受け取った資料の中身を自分専用の作業台に広げて見聞してみると、宗一郎の血性値は申し分無く高いし、身体能力についても何も問題は無い。すべての項目が健康優良児と示している。
     一つ欠けている要素があるとすれば、白星の創設者『星乃』の血筋では無いと言うことくらいか。同じ血性値の高さなら星乃の血筋がレギュラーを取る。あそこはそういう所だ。
    「崖縁のヒーローになりたい。受験の願書は今出してきた」
     浅桐はじっと宗一郎を観察する。多少緊張しているが、悲壮感は無い。声に決意は感じられるが、卑屈な色も無い。
    「まさか、白星でレギュラーとれそうにねぇから鞍替えって訳じゃねぇだろうな」
     安い挑発だ。この程度で激高して帰るくらいなら、その程度の腹だろう。
    「……そう思われても仕方が無いと思っている。俺は言葉が足りないと白星の後輩にも叱られた」
     宗一郎の声は静かだった。奥底に揺れる感情があるのは解るが、それを上回る決意を感じる。
    「崖縁のヒーローになりたい」
     宗一郎はまっすぐに浅桐を見て同じ事を言った。生真面目すぎる決意が輝くその瞳の奥に、見え隠れしているモノを見つけて浅桐はニヤリと笑った。
     もう一度、こんどはそのつもりで宗一郎が持ってきた資料に目を通す。
     高い血性値に身体能力のスペックも高い。そして白星の候補生として良く鍛えられた筋肉は柔らかさを備えていた。柔らかさを備えた筋肉は怪我をしにくい。その柔性が衝撃を吸収するからだ。それは宗一郎自身の遺伝子が持った特性。そして先ほどあの瞳の奥に見た適正(モノ)。
     浅桐の頭脳がフル回転を始める。これからチームが必要とする能力の優先度と試したい技術、被術者の資質と適正。脳内にストックされた無数のアイデアの中から最適解がはじき出され、悪魔の笑みが深くなる。
    「心臓だ。強化したいなら心臓をよこせ」


     あの日、浅桐の予想通り宗一郎は即決で頷いた。
     面白いヤツが来たものだと楽しみにしていたのだが、昨日の戦闘は期待に反してまったく面白く無かった。
     後衛から宗一郎の戦いを初めてじっくりと見たが、なぜこうもつまらない戦いが出来るのかといっそ感心したほどだ。
     浅桐には宗一郎が強化部位を使えない理由がもう解っている。解ってはいるが浅桐が宗一郎に使えない理由を伝えていないのは、宗一郎に含むところがある訳では無く、伝えたからと言って動く様になるわけでは無いからだ。教えたとして、言葉の意味は理解出来ても本質で理解出来なければ、動かす事は出来ないだろう。結局は宗一郎が自分で答えを見つけるしかない。むしろ宗一郎の性格を考えれば安易に聞いてしまった方が余計に動かすのが難しくなるかもしれない。
    (クソ真面目が悪い方に出てんだよなぁ……)
     浅桐は心中で独りごちる。
     宗一郎の生真面目な性格は、候補生時代に叩き込まれた白星の規律とは馴染みが良かったのだろう。未だに規律という窮屈な枠に縛られて動いている事に気付いていないし、その事にさほどストレスを感じてはいない様に見える。
     そもそも高い血性値と身体能力で、強化無しでも戦えてしまうのも宗一郎が今まで通りの枠から抜けられない要因だろう。
     それほどに高い血性値と身体能力を見込んでの強化部位だ。技師としての浅桐はその効果を早く見たいのが本音ではあるが、同じ学校のエンブレムを背負って戦う仲間としては、目の前で殻を破って見せるというドラマを楽しみにしている。
     今日は試しに宗一郎に復旧作業の手伝いをさせてみた。器用とは言い難いが丁寧で誠実な仕事ぶりや誰に対しても思いやりのある柔らかな態度は地域住民の好感度を上げていたし、なにより無心に取り組む姿は宗一郎本人が楽しそうだった。
     崖縁に活気を取り戻したいという目標を掲げる宗一郎だ。地域の活性化もやりがいがあるのだろう。
     色々とマイペースな宗一郎は、崖縁工業という新たな学校生活にも日に日に馴染んでいる。そう遠くない未来に現状の不具合からの脱出というドラマを見せてくれるに違いない。
     浅桐は宗一郎に気付かれない程微かに微笑む。
     まだ入学して数日だ。校庭の桜だって葉桜にもなっていない。天才の浅桐ならだましも、凡夫が悟るにはもう少し時間が必要だろう。楽しみは少し待たされるくらいの方がドラマチックというものだ。


     ◇ ◇ ◇


    「……ゼロだな」
     いっそ面白がっている様な浅桐の宣告に、宗一郎はもう何度目かと肩を落とした。
     イーターの出現は毎日では無かったが、それでも頻繁にという言葉が当てはまる程出現した。宗一郎と浅桐も当然出動し、戦闘して討伐してきたが、宗一郎の期待に反して強化部位の稼働データはゼロ。
     校庭の桜は散り落ちて、すべて葉桜へと変わった。だが、宗一郎は未だに強化部位を使う事が出来ていない。
     浅桐が宗一郎の為に考えた訓練方法はユニークで面白かった。つい楽しんでしまいそうになり、これは訓練なのだからと気を引き締める方が大変だった程だ。
     次々に課せられる訓練を宗一郎は一つずつ真面目にこなしていったが、どの訓練もなんの効果を狙っての内容なのか、宗一郎にはさっぱり解らなかった。その為か、訓練の成果が出ているとは言えない結果が続いている。
     使いこなす以前に使えていないという事実には、流石の宗一郎も焦りを感じ始めていた。
     

     丸太の様なイーターの尾が風を巻いて迫り、強引に割り裂かれた空気が悲鳴を上げ、風圧が身体を叩く。
     宗一郎が強化部位を使えようが使えていなかろうが、イーターは今日もまた現れる。
     雄叫びを上げ、宗一郎は渾身の力で打ち付けられた尾を自らの大槍で受け止めた。
     完全に静止したかと思えたが、じりじりと宗一郎の足が下がり始める。宗一郎も全身に力を込めて押し返そうと踏ん張るが、その力を支えるには足下が脆弱過ぎた。
     足場にしていた瓦礫が二つの力を支えきれずに倒壊し、押し負けた宗一郎が弾き飛ばされる。
    「まだっ!」
     受け身を取って素早く起き上がり、宗一郎はがむしゃらに槍を振るった。
     前へ、もっと前へ。
     戦闘ではいつも全力で戦ってきた。だが心臓の強化パーツは動かない。
     何かが足りないのだろうか? だが、何が?
     解らない。だが、己で選んだ道だ。解らないと投げ出す訳にはいかない。
     全力で足りないなら、もっと、もっと振り絞る。


     イーター出現の警報と避難を促すアナウンスがけたたましく鳴り響く。近くのシェルターへと足早に向かう人波の中で、一人の青年が脚を止めた。その視線の先、遠くに深緑のスカーフを翻したヒーローの陰が二つ通り過ぎる。
     嬉しそうに笑みを浮かべてヒーローの戦いを見ていた青年の表情が徐々に険しくなっていった。
    「アイツ。何やってんだ?」
    「恭平っ!」
     声と同時に恭平と呼ばれた青年は軽々と担ぎ上げられた。担いだのは同じ年頃の青年。平均的な体躯の恭平とは違い、こちらは誰もが仰ぎ見る程の体格だ。
    「勅使河原(てしがわら)。あれ見て見ろよ。あれっ!」
     担ぎ上げられた肩の上で、恭平はペシペシと大きな背を叩く。いつもの事なのだろう。勅使河原は恭平を担いだまま彼が示す先へ目を向けた。
    「崖縁のヒーローか…… 浅桐はやはりヒーローになったんだな」
     感慨深い勅使河原の感想に、恭平はそっちじゃないとまた背を叩く。
    「違ぇよ。もう一人の方だよ! あいつ動きが変だろ? あぁ、まただ。そこは突っ込むとこじゃねぇよ 真大の邪魔だろうがっ!!」
     どうやら恭平は後輩達の戦いぶりを見てエキサイトしていた様だ。
    「恭平。観戦したいなら、せめて戦闘区域の外まで下がれ。僕達が怪我でもすれば後輩達の評価が下がる」
     気持ちは解らなくは無いが、彼らはもうヒーローではないのだから、イーターに襲われればひとたまりも無い。死傷する様な事があっては何より命がけで頑張っている後輩達の評価を下げてしまう。
    「そこは突っ込むとこだよ! 引くなっ!」
     勅使河原は恭平を抱えたまま人一人を抱えているとは思えない速度で戦闘区域の外へと走る。肩の上ではエキサイトした恭平が暴れているが、いつものことだ。
    「そこは真大のサポートするとこだぁぁぁ」
     恭平の叫びはドップラー効果と共に勅使河原に運ばれていった。

    《つづく》
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤👍👍👏👏👏💵
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works