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    futomomo13

    @futomomo13

    どうも、クラサチ(ツイッター名は大腿二頭筋)です。
    たまに漫画や絵を描いてます。
    最近はbnal(吉菊中心)です。

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    futomomo13

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    吉菊SS/ワンライ(ではない)/お題『よしかわの着物の袂にお菓子やらなんやら詰め込んでご機嫌のきくち』
    ワンライのはずが合計4時間かかったぜ!!!!
    なんかこうすぐにググるのは違うんだよなって思う時あるじゃない?って類の話です、たぶん。
    せっかくだから小説機能使ってみます。
    6月にいただいたお題でした(遅くなってすみません)、ありがとうございました!
    2022.10.20(4時間13分)

    ##吉菊
    ##リクエスト

    秘密主義領域 ペンを取ろうと着物の袂に手を入れたらカサッと何かが指に当たる音がする。吉川は掌に十分収まるこぶりなそれを握ってから指先でペンを探しあて、それらを同時に取り出した。ベンチに腰掛けノートにペンを走らせながら袂から出てきた饅頭を齧る。書くのに夢中になっているうちに饅頭は腹の中に消えていた。
    「食べてしまった……」
     包み紙を小さく畳んで袂に仕舞う。ついでに中を探ってみるも、何も無い。実はこの饅頭は数時間前に菊池から貰ったもので、もしやもう一個入ってはいまいかという僅かな期待は外れたのだった。
     近頃、菊池が吉川の袂に物を入れることが日常化していた。菓子だの香だの本だの時にはここに書くのは憚れるような物を入れられることもあった。以前から何かと物を与える気質の菊池ではある。しかし此度はあげるとも言わず会話のすきにスッと入れてくるのがおかしなところで、最近は慣れてきたのか吉川の気づかぬうちやられていることもしばしば。その度に吉川はまるでスリにあったかのような、それでいてなんだか嬉しいという不思議な心地になった。
     今日の饅頭は袂菓子(と吉川は呼んでいる)の中でも特にお気に入りの物だ。しっとりとしたカステラっぽい生地に包まれた漉餡は程良い甘さで舌に残らない。小ぶり故にもう一つ食べたくなるのだが、入れられているのは決まって一つ。だから吉川はこの饅頭を貰った翌日には菊池に礼を言いがてら必ず「どこの店のだ?」と問うものの、菊池はフフッと笑みを浮かべて「また今度な」とだけ返す。こんなやり取りをもう両手では足りない程には繰り返していた。

     数日後。吉川が街で用事を終え周辺をぶらついていた時、ふと路地にある小さな看板が目に入った。一歩、二歩、足を進めて看板のロゴマークをはっきり視認した瞬間にづかづかと大股速歩きで狭い路地を突き進む。間違いない、あの印は菊池がくれるあのうまい饅頭!
     暖簾をくぐると店内はこじんまりとしていて、所狭しと十種ほどの菓子折りが並んでいる。その中で一際目立つ位置に鎮座しているものこそ、吉川が探し求めていたあの饅頭だった。
    「おお! やはり!」
     吉川は喜びの声を漏らし他の商品には目もくれず、饅頭の箱を三つ手に取るとすぐ横のレジカウンターに置いた。
     勘定を済ませ礼を言って去ろうとした間際、店員が話しかけてきた。
    「お客様、当店は初めてですよね?」
     そうだと返すと店員はさらに質問してくる。
    「こちらのお饅頭は食べたことがおありですか?」
    「ええ、友人がよくくれるんです。とても美味しくていつももっと食べたいと思っていたら、たまたま看板を見つけたので」
     紙袋を少し持ち上げて軽く会釈する。店員はそれに応えるようにお辞儀をして
    「それは誠にありがとうございます。いっぱい食べてください!」
    頭を上げると笑顔が咲いていた。

     鼻歌交じりに図書館に戻った吉川にエントランスで遭遇した直木は目ざとく手元の紙袋に気づいた。
    「お、O屋の饅頭だな! ヒロシの遣いか?」
    「そうだが……遣いではない、我が買ってきたのだ」
     そうかそうかと言って直木は手を差し出して吉川から紙袋を受け取ると、足取り軽やかに談話室に向かう。吉川は後ろを歩きながら徐々に遠くなる黒い背中に声をかけた。
    「皆で食べるのだぞ!」

     着替えて談話室に行くと既に開かれた菓子折りを数名の文豪が囲んでいた。
    「今日はエイジからだぞ」
     その中心で直木がひょいひょいと集まってくる連中に饅頭を手渡している。
    「おう、エイジ。サンキューな!」
     吉川に気づいた直木が礼を言いながら、ソファで少し横にずれて座り直す。座るとテーブル周辺のみならず談話室のいたるところから礼の言葉が飛んできた。その場でそれぞれに合図し終えてから一息ついて吉川も饅頭を頬張る。うまい。まだ口の中にあるうちから新しい饅頭を手に取った。
     もぐもぐ口を動かしている間、自然と耳に周りの会話が入ってくる。「O屋の饅頭は美味しい」「菊池くんに教えてもらってすっかりファンで」「あ、O屋さんのおまんじゅうだ!」「これ好きなんですよ」……こんなにうまい饅頭だから皆も好きなのは納得しつつも、吉川は皆がこの饅頭の正体を知っているのが解せなかった。

     五個目を飲み込んだ時、談話室に菊池が入ってきた。菊池は迷うことなくこちらにやってきて一人掛けのソファに座るなり
    「おう、いいもんがあるじゃないか」
    一つ貰うぞと吉川の目の前に手が伸びてくる。その手が饅頭を握り戻っていくのを目で追うと、最後に本人と目が合った。しかし菊池の視線はすぐに手元に落とされて、包みを開き一口齧ると
    「うまい!」
    と言って目は細く弧を描いた。
     見ているこちらまで美味しくなるような笑みを絶やさぬまま饅頭を平らげた菊池。どれもう一つと手を伸ばしてきたから、吉川はその指が饅頭に触れる直前で手首を掴んだ。少し驚いたように目を丸くしてこちらを見た菊池を軽く睨めつける。
    「なぜ教えてくれなかったのだ?」
     ぱちぱちと瞬きしたあと僅かな間を挟んで菊池が答える。
    「誰に聞いた?」
    「誰にも。たまたま店を見つけたから」
     再び僅かな間を置いて軽く口角を上げた菊池は
    「そっか、ならいいや」
    とはじめの質問には答えぬままするりと吉川の手を解き、サッと饅頭を一つ掬いその流れのまま立ち去ってしまった。
    「おい、菊池!」
     吉川も慌てて立ち上がり菊池を追って談話室をあとにした。

     行き着いた先は菊池の部屋。吉川が躊躇いなく足を踏み入れたのはドアが開けっ放しだったからだ。部屋の中を見ると菊池がソファの座面をポンポンと叩き隣に座れと合図している。後ろ手にドアを閉め促されるまま菊池の隣に座るやいなや、まともに顔を覗き込まれる。
    「特別かわいいからさ」
    「は? かわいい……?」
     何の前置きもなく発せられた言葉は、菊池が饅頭の店を教えなかった理由だと吉川も察したが、理由の意味がわからずにオウム返しするしかなかった。しかし、吉川の疑問はまたも取り合って貰えず、菊池は己の言葉を続ける。
    「でもよ、誰かに聞けばすぐにわかるのに」
     吉川の頭の中では疑問符が増える一方だった。そして気がつけば吉川の手は菊池に優しく握られており、真っ直ぐに向けられた勝ち気な瞳の奥でゆらゆらと鈍い赤が揺れた気がして視線までもが囚われてしまう。
    「聞かなかったアンタも大概だぜ」
    そう言って菊池の手から吉川の袂に饅頭が落とされた。
    「それは我……我が買ってきたものだぞ!」
    「ははっ! ふふふふっ」
     言い返した途端に菊池が破顔して吉川の真っ赤になった頬は両手で挟まれた。そのせいで吉川の顔はさらに赤く染まる。それを見た菊池は可愛がるように吉川の頬をむにむにと揉んでけらけら笑いが止まらない。
     我にだけくれていると思っていたから誰にも聞かなかった、という理由を知られるのは悔しい気がして、しばらくはされるがままでだんまりを決め込む吉川だった。

                                    おわり
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    futomomo13

    TRAINING吉菊SS/ワンライ(ではない)/お題『よしかわの着物の袂にお菓子やらなんやら詰め込んでご機嫌のきくち』
    ワンライのはずが合計4時間かかったぜ!!!!
    なんかこうすぐにググるのは違うんだよなって思う時あるじゃない?って類の話です、たぶん。
    せっかくだから小説機能使ってみます。
    6月にいただいたお題でした(遅くなってすみません)、ありがとうございました!
    2022.10.20(4時間13分)
    秘密主義領域 ペンを取ろうと着物の袂に手を入れたらカサッと何かが指に当たる音がする。吉川は掌に十分収まるこぶりなそれを握ってから指先でペンを探しあて、それらを同時に取り出した。ベンチに腰掛けノートにペンを走らせながら袂から出てきた饅頭を齧る。書くのに夢中になっているうちに饅頭は腹の中に消えていた。
    「食べてしまった……」
     包み紙を小さく畳んで袂に仕舞う。ついでに中を探ってみるも、何も無い。実はこの饅頭は数時間前に菊池から貰ったもので、もしやもう一個入ってはいまいかという僅かな期待は外れたのだった。
     近頃、菊池が吉川の袂に物を入れることが日常化していた。菓子だの香だの本だの時にはここに書くのは憚れるような物を入れられることもあった。以前から何かと物を与える気質の菊池ではある。しかし此度はあげるとも言わず会話のすきにスッと入れてくるのがおかしなところで、最近は慣れてきたのか吉川の気づかぬうちやられていることもしばしば。その度に吉川はまるでスリにあったかのような、それでいてなんだか嬉しいという不思議な心地になった。
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