月まで連れてって美しい海だった。浸かった足の爪の色まではっきりと見えて、小さい砂が波で舞う。青い空の高いところに手のひらより大きな月が白く霞んでいて、あなたはそこにいると言う。
大きな背中の白いシャツに、いつ帰ってくるのかと聞くと、振り返った瞳は見たことのない微笑みで、あなたがもう還らないことを強く教えた。どおりで、どれだけ波を蹴ってもあなたに辿り着かない。
三十八万と四千四百の空白がここにあるとして、休むことなく歩いてもあなたの白いシャツに指が届くまで少なくとも十年は必要で、首を振ると笑ったあなたが休み休み来いと言う。ゆっくりでいいと言う。
その微笑みの目尻に触れたかった。傷痕の皺のかたさを、あなたのあたたかさを一度でいいから指先で知りたかった。そう、思ってやっと、あなたに抱きしめて欲しかったのだと気づく。
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