甘いやつと辛いやつ 目を覚ますと、頭にかかる重みが彼の手だと分かって嬉しくなった反面、頭を動かすタイミングを失ったことに気付いた。
彼は横になってる時に俺の頭をよく撫でる。そうじゃない時でもたまに撫でられるけれど、こうして微睡んでると、ここがラボの中だと忘れそうになる。
床に座ってベッドに俯せている俺と、ベッドに寝かされている彼。寝息が聞こえるので、彼はまだ寝ているようだ。
「ヨモツザカさん」
……返事はない。
「一緒にカレー作りませんか」
……返事はない。
「甘いやつと、辛いやつ」
……返事はない。
「ご飯も沢山炊いて」
……返事はない。
「今度家に行く日が楽しみだなぁ」
……返事はない。
でも、彼はきっとこの次一緒に帰るとき、スーパーに寄ってくれると俺は勝手に信じている。
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