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    asamade_jmkl

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    やったね!われうた弐!
    プランツド➰ル(観用少■)パロディ🧸🥛🍬

    ▶︎プランツド➰ルのことが何となく分かるようになる落書き・小ネタまとめ
    https://poipiku.com/2052893/7304292.html
    ▶︎おまけ「ミルクに加える素敵なスパイス」
    ▶︎読了後の閲覧がお勧めです
    https://poipiku.com/2052893/7305899.html

    #ジャミカリ
    jami-kari

    TIÁMあたたかなミルク
    週に一度の砂糖菓子
    金の刺繍に絹のドレス
    キラキラ輝く装飾品
    そして大好きな人からのたっぷりの愛情

    注いでくれる人を待っている


    TIÁM(ティアム)
    ペルシア語。はじめて”そのひと”に出逢ったとき瞳におどる輝きのこと。



    雲ひとつなく晴れた空の下、どこからか小鳥のさえずりが聞こえる。ジャミルの憂うつな気分とは正反対の穏やかな朝だ。昨晩は、担当教授が笑顔で出した解かせるつもりが無い課題に四苦八苦し、ほとんど眠ることが出来なかった。苦労はしたがその分評価点は期待出来るだろう。
    大通りから一本外れたこの脇道はアパートから大学へ向かう近道だ。今日は月曜、楽しい楽しい一週間の始まりだ。
    花屋の前を通り過ぎ、眠気覚ましにカフェでコーヒーをテイクアウトする。舌先で苦味を転がし心を無にして歩いていると、裏道には到底相応しくない派手な店の前に差し掛かり、うっそりと目を細めた。

    Sam's Mystery and Doll Shop

    看板には仰々しい書体でそう書かれている。
    名前から察するに人形を取り扱う店らしいが、全体に輝石の国の装飾があしらわれ、何とも派手だ。寝不足の目には眩しすぎる。
    大きなショーウィンドウの中もまた煌びやかだ。たっぷりしたビロードや織物、無造作に転がされた宝飾品に囲まれ、金色の椅子に人形が座っている。普段なら迷うことなく素通りするが、目の端に映った人形に興味を惹かれ覗き込んだ。
    人形は飴色の肌をしたうつくしい少年の姿をしていた。深紅のオーガンジーに金糸で複雑な紋様が所狭しと刺繍されたターバンを頭に巻き、更に宝石がたっぷり下がった金冠を被っている。つんと上を向いた鼻と子供らしくふっくらした頬が何とも愛らしい。小さな唇は穏やかな弧を描き、行儀よく結ばれている。眼窩は伏せられ、まつ毛が濃い影を落とす。まぶたを彩るアイシャドウは、一日の終わりに太陽がとろける一瞬を切り抜いたかのような豊かなグラデーションで、瞳の不在を語った。まるで生きているかのように生き生きとした面差しで、彼はこんこんと眠っていた。
    熟練の職人が卓越した技術を注ぎ、どれほどの愛情と手間暇をかけて世に生み出したのか。静かに眠っていても尚引き込まれるような魅力のある美しい人形だ。
    ジャミルは彼の身につけた意匠に馴染みがあった。この地方では滅多に見かけることのない、熱砂の国の意匠。ガラス越しに懐かしいスパイスの香りが漂うようで、ひととき郷愁が胸を駆ける。熱砂の国では甘いものでリラックスするときにも、辛いもので活力を得るときにも、心身への効果を倍増させる芳しいスパイスが欠かせない。まるで寝物語に聞かされたおとぎ話の姫君でも見ているようだった。
    ジャミルの生まれ故郷である熱砂の国は交易で栄える豊かな国だが、国土の多くを不毛な砂漠が占めている。大陸との交易のため、水を求め旅するために、人々は稼いだ財産を宝飾品に変え身につける習慣があった。彼はよほど高貴な身分なのだろう。この店のショーウィンドウにはいつも一目で高級品と分かる煌びやかな商品が飾られているが、この人形は輪をかけて高価に違いない。
    物思いから覚め、改めて値踏みするべく見下ろすと、人形の赤い瞳と目があった。
    いや、人形だ。目が合うはずなどない。あり得ない。しかし、件の人形は瞳をぱっちりと開き、自分を見るジャミルの顔を不思議そうに見つめている。
    「……は?」
    象をあしらった縁起の良い立派な椅子を飛び降り、飾り布に足をもつれさせながらジャミルの目の前までよちよちとやってくる。人形は小さな手のひらをガラスにぺったりとつけて花開くようににっこりと微笑った。
    真紅の瞳が誘うようにチカチカと瞬く。
    人形が動いているように見えるが、寝不足が祟り、幻覚でも見ているのかもしれない。せっかく完璧なレポートを完成させたのに、あのいけすかない教授が面食らう顔を拝む前に倒れるわけにはいかない。ジャミルはコーヒーを口に含むと、愛らしい幻に背を向けキャンパスへ急いだ。

    だが翌日の火曜も、水曜も、人形はジャミルが通りかかるたびに目を覚まし、嬉しそうに駆け寄ってきた。
    思えば、この店で飾られる人形達はいつも眠り顔だった。もちろんお上品に眠ったままで、こいつのように動き回ることはない。
    目覚めた人形は、まろやかな深い褐色の肌に、真珠に落ちる影のように輝く淡いグレーの髪色と、溶け落ちてしまいそうなほど紅く紅く煌めく瞳の色彩のコントラストが苛烈でいっそう美しい。そんな美しい貌に、ジャミルの前では命が宿る。いつも機嫌良くにこにこと笑い、人懐っこくショーウィンドウに張り付く。もし獣人なら尻尾が忙しく揺れていただろう。これほど精巧に動く人形が機械仕掛けや魔法仕掛けとは思えないのだが、人形は人形のはずだ。念のため自分の額に手をあててみるが、熱もないし不調は何もない。
    途方に暮れつつショーウィンドウの前でしゃがみ込むと、人形が心配するかのように屈み、小さな額をコツンとガラスに合わせた。真っ赤な瞳がきらりと光を含み、間近にジャミルを見上げている。
    「まるで柘榴石(ガーネット)だな」
    幼子らしく無邪気な仕草にふっと口の端がゆるんでしまう。ガラス越しに目元を擦ってやるふりをすれば、うっそりと眼を細める。ジャミルはしばし人形と見つめ合った。


    「それはプランツドールですね」
    このキャンパスで最も行け好かない同級生、アズールは、ジャミルの話を聞くとそう言い切った。こいつは何かとジャミルに付き纏い鬱陶しいことこの上ない腹黒だが、恐ろしく顔の広い青年実業家であり、事情通だ。今日も食堂で腹を満たしていると「おやジャミルさん、偶然ですね!」などとわざとらしく宣い隣に座ってきたため、友人との雑談の体で人形の件について探りを入れてみたのだ。
    ジャミルは由緒正しき中流家庭に生まれ、何不自由なく生きてきた。運動神経も察しも人当たりも良く、生まれてこの方勉強を難しいと思ったことがない。顔も悪くない方だ。ジャミルの人生はまさに順風満帆で、神経を患うようなかげりは何もない。やはり人形の方に原因があると見て、手がかりを探すことにした。決して興味があるわけではないが、このまま放っておくのも目覚めが悪い。
    「プランツ…? 魔法仕掛けの人形か?」
    「いいえ、ドールは生きているんですよ。人肌のミルクを日に三回と砂糖菓子を与えて管理するそうです」
    アズールはこともなげに言うと、ほぼ草で構成されたランチプレートを上品に頬張る。やはりこいつとは気が合いそうにない。
    「プランツドールは大変デリケートで、ミルクはもちろんやティーカップやドレスなど…ドールの生活に関わるものはすべて最上級品でないといけないとか。ご機嫌を損ねると品質が落ち、最悪の場合枯れてしまうそうですよ」
    「はあ、つまり暇と金を持て余した上流階級の道楽品か…。ドール本体もさぞ高級なんだろうな?」
    「それはもちろん! 僕の知り合いの知り合いは半年間通い詰めた上、ーーーーーーーーマドルで購入したそうです!」
    自分が購入したわけでもないのに何故かドヤ顔で胸を張るアズールを尻目に、俺は想像を遥かに超えた金額に頭を抱えた。
    (〜〜〜〜〜〜〜〜マドルだと!?ほとんど天文学的な金額じゃないか!慎ましやかに暮らせば成長期の子供を抱えた四人家族でも数十年は生活できるぞ!)
    頭の中で小さな妹がミドルスクールに入学し大学を出て家を巣立ち、両親が第二の人生を楽しむ様子が駆け巡る。巨大な天秤が登場し、馬鹿みたいににこにこしたあの人形が皿に乗ると、もう片側の皿に乗っていた幸せな四人家族は重量負けして彼方へ吹っ飛んでいった。
    「とはいえドールは全て職人による一点ものなので決まった値段があるわけじゃないんですけどね。それに金品を積めば購入出来る代物でもなく…ジャミルさん聞いてます?」
    聞いていない。頭痛がするから少し黙っていてくれないか。


    学生であるジャミルは今日も勉学に励むべく大学へと向かう。他意はなくとも必然的に例の店の前を通ることになる。決して他意はない。
    遠目から静かに眠っていることを確認して足早に通り過ぎる。すれ違いざまにチラリと確認すると、いつの間に起きたのか人形がガラスにへばりついている。尚も無視して歩くが、ショーウィンドウの中でじたばたし、必死に追いかけてくる。端っこにへばりついてこちらを伺う様子は駅のホームの端まで走り旅立つ恋人を見送るヒロインのようだ。
    何か期待しているのか、何が気に入ったのか分からないが、ジャミルを一心に見つめる人形は幸せそうでキラキラと煌めく音が聞こえるようだ。
    (そんなに見つめられても、うちにお前を迎える余裕はないんだ)
    翌日も人形はジャミルに付いてくる。
    (お人形遊びなんてガラじゃないし、第一馬鹿げてる)
    そのまた次の日も、目を擦りながら立ち上がり、宝箱から溢れた宝石につまずきつつもこちらを見上げる。目から宝石が落っこちるぞ。
    (俺は一分一秒でも勉強してどいつもこいつも出し抜いて出世する予定なんだ。時間も資金も赤字だ。お前に構ってたら計画が全部パァだ!)
    ジャミルには自分が優秀な人間であるという自負がある。生まれながらに持つアドバンテージに加え、己を律し努力することも出来る。それらを活かせば必ず大きな成果を出せるだろう。世界中を巡り、華々しい成功を手にし、大手を振って熱砂の国の故郷へ帰ってみせる。
    そのために泥水のようなカフェインを啜り、寝る間も惜しんで励んでいるのに、人形が喜ぶ高級なミルクやら衣装やらを手に入れるために奔走して一生を終わらせるなんてジャミルの人生にあってはならないことだ。

    肩を怒らせて歩くジャミルの後ろ姿を、ぽつんと立ち尽くしたドールがじっと見ていた。
    やがてとろとろと瞼を落とし、黄金の椅子に腰掛ける。それは生き物の香りなど微塵もない、完璧に誂えられたうつくしいドールそのものだった。


    今日はどうやってあいつをかわそうかと考えながら店の前までやって来たのに、ショーウィンドウには熱砂の装飾品が並ぶばかりで人形は飾られていなかった。夕方は主人を失った椅子などの諸々すら撤去され、翌朝には輝石の国の色とりどりのドレスを身に纏ったドール達が品よく並べられていた。
    「ついにどこかの金持ちの好事家に買われたか…」
    そもそもあんなに美しく愛らしい人形が何日も飾られていたこと自体、あり得ない状況だったのだろう。どんなに高価でも、欲しがる者はいくらでもいるに違いない。
    ジャミルの脳裏に、足を踏み入れたこともないような豪邸が浮かぶ。金持ちの皺皺の手に抱えられ、小さな手がそっと主人の指を握る。そしてあのルビーの瞳を細めて、幸せだと語るように笑うのだ。ジャミルがその笑顔を見ることはもう二度とない。
    それでいい。それがいいのだ。人形のことは忘れ、学業に邁進し、きっとジャミルは成功した大人になる。それが最も正しく効率的な正解の道だ。
    そう思うのに、何故だろう。ジャミルの足は動かなかった。

    (最悪の場合枯れてしまうそうですよ)

    アズールの言葉がリフレインする。
    ジャミルには関係のないことだ。ジャミルは彼の主人ではないのだから…。



    「やっと来てくれたね、小鬼ちゃん。王子様がずっとお待ちかねだったんだよ」
    気がついた時にはもう、あんなにも遠く感じていた店の扉を開いていた。奇抜なファッションの店員が何やら訳知り顔で話しかけてくるが、全て通り抜けていく。心臓の音がうるさい。
    足を踏み入れた瞬間に察したが、あいつはまだこの店にいた。山のように重ねられたクッションに埋もれ、ぐったりと横たわっている。ジャミルが目の前にいるというのに、ぴくりとも動かない。
    「こいつは…大丈夫なんですか?」
    声が、震えてしまいそうになる。
    「いや、危険な状態だよ。このままだと彼は…」
    自分の血の気がひく音が聞こえるようだった。その続きを早く知りたいのに、耳を塞いでしまいたくなる。
    「プランツドールは人の愛で生きてるんだ。注がれなければ枯れてしまう」
    店員は神妙に話しつつ、椅子の背を引いて見せる。ここに座れということだろう。ジャミルには彼がなぜこんなにも落ち着いていられるのか理解出来ない。まるで自分まで人形になってしまったかのように、勧められるままぎこちなく腰掛けた。
    人形の亜麻色の肌は変わらず匂い立つように滑らかで美しいが、今は生を感じない。まるで木を丹念に削ってやすりをかけ磨いたかのようだ。それが当たり前のはずなのに、とても許せそうにない。
    「彼は千夜一夜一度も目覚めず、遠い砂漠の国からここまでやって来たんだ。そして君と出会った。この子は君と会えることを知っていて、待っていたのかもね」
    店員は手仕事を止め、ほのかな湯気を立てるティーカップを俺に渡した。
    「さあ、このミルクをあげて」
    「いや、俺は…」
    この期に及んで尚、叶えるべき夢と、守るべき未来がミルクにけぶり揺蕩っていた。
    幸せそうに紅くとろける瞳が浮かぶ。言葉もないのに雄弁に愛を語るあの瞳。このままではあのガーネットも目蓋に隠されたまま、枯れてしまう。
    決意を込めて、ずっとつかえていたわだかまりごと、音を立てて呑み込んだ。代わりに、鞄から常備している小瓶を取り出す。
    「僕の故郷ではあたたかい飲み物に香辛料を混ぜるんです。心と身体の調和の為に。このミルクに加えても構いませんか?」
    「もちろん!センキュー小鬼ちゃん!」
    スパイスを香る程度ほんの少し加えて丁寧に撹拌する。あいつに背を向けた俺から、ただの人形に戻ってしまったあいつに、飲んでもらえるだろうか。不安を抑えながらカップを近付けると、伏せられていたまつ毛がピクリと動いた。ゆっくりと、しかし確実に、まぶたが持ち上がっていく。隠されていた紅色が弓張型に覗き、息を飲んだ。
    ちいさな唇をカップにくちづけ、こくこくと嚥下する。頼りない指先が自分を頼り、カップを差し出す指をぎゅっと握りしめる。ジャミルは、得も言われぬあたたかいものが自分の胸を満たしていくのを確かに感じた。
    飲み終わってほうっとため息をつくドールの口元についたミルクを拭ってやると、そのまま手を捕まえられてしまった。ジャミルの手のひらにこてんと頬を預け、安心しきった大きな瞳でこちらを見上げて来る。
    こいつはジャミルを見ると微笑まずにはいられないらしい。太陽のように煌めく笑顔はあまりに眩しく、ジャミルの不安を一瞬で溶かしてしまう。どんな不幸や計算違いにぶつかっても、もう恐れることはない。心からそう思える。その代わり、もう二度とこいつを手放すことは出来ないだろう。
    いつの間にかジャミルもまた笑っていた。

    こうなることをまるで知っていたかのように満足げに頷く店主サムは、ニ人の経緯を見守ると、領収書に「Pay me back when you’ve made it  (出世払い)」と記入し引き出しに仕舞った。愛する者を見つけた彼なら、きっと何倍にも膨らませて成し遂げるだろう。



    ミルクは熱いと感じる少し手前
    たまに香辛料、たまに花の蒸留水を数滴
    砂糖菓子は週末に作り立てを
    銀もいいがこいつには金がよく似合う

    もうお決まりになったミルクの時間。小指の先で温度を確かめると、ガラスに描かれた深紅と金色が美しい熱砂のカップにミルクを注ぐ。今日はそこにカルダモンと蜂蜜をほんの少し。
    「カリム、ほら。こぼすなよ」
    なんて言いつつ、そそっかしいこいつの唇を拭うのは嫌いじゃない。カリムはカリムで俺に構われるのがよほど嬉しいらしく、名前を呼ぶだけで微笑み、触れるたび幸福そうに甘えるのだ。
    こいつと出会って、俺の人生は変わってしまった。思い掛けず駆け回る存在は、まるでミルクに何か特別なスパイスを落っことしたかのようだ。毎日が芳しく、不思議と楽しくて仕方がない。優秀な俺ならこいつを不自由なく養うくらい何てことないさ。

    俺のミルクで目覚めるガーネットが俺を見つめている。まあきっと、悪い結末じゃないだろう。


    END
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    TIÁMあたたかなミルク
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    金の刺繍に絹のドレス
    キラキラ輝く装飾品
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