覗き見る先小南が荷物をまとめて帰り支度をしていると、ドアを挟んだ向こう側からガタガタとなにかを動かすような物音がし始めた。今は使われていない部屋のほうだ。気になって見に行ってみれば、迅が積み上げられた段ボールの山をかき分けている。
「なにしてんのよ」
「探してんの」
「何を?」
「あれだよ、昔のさ……おっ、あったあった」
しゃがみ込んで奥底のなにかを探していたらしい迅は、細長い箱に手を伸ばした。上に積もった埃を払い、梱包材をどかすと、長らく姿を見ていなかった白い鏡筒が露わになる。
「それ、そこにあったのね」
「うん。まさか、また使う日が来るとは思わなかった。こんなことなら、こまめに手入れしてやってればよかったなあ」
忘れてたわけじゃないんだけど、と付け加えられた言葉を最後に、部屋にやわらかな沈黙が落ちる。
あれこれとレンズの調子を確認している迅を横目に、小南は寄りかかっていた部屋のドアから身を離した。
「……じゃ、あたしは帰るわね。手入れがんばんなさい」
「写真でも送ってやろうか」
「いいわよ、べつに。それより、どうせ玉狛(うち)の屋上使うんなら、余り物片付けていってよね」
「了解」
冷蔵庫にカレーの残りが入っていることを伝えると、迅は遠足前のこどもみたいに笑った。