薄紅の秋の実に異国の男女が互いを見つめ合い、体を密着させ、ゆらゆらと体を揺らしている。そのうち女性がくるりと回ると、金魚草の花弁のようなドレスの裾が広がった。
そんな仲睦まじい光景を、ここ横浜貴賓館の窓から隠し刀は眺めていた。
福沢に勉強を教わり始めてひと月くらい経つだろうか。夏特有の湿気を含んだ風が、徐々に涼し気な風に変わる秋。その間にこの西洋人が中庭の花畑でくるくると楽しそうに踊るのを何度か目にした。そして今日も踊っている。
「…今日はもう終わりにしますか。」
目線が机の上の書物でなく、外に向いているのに気付いた福沢はそう提案する。
「あ…いや、すまない。続けよう。」
書物に向き直るも、暫くすると再び上の空で外を見る。今日でもう三度目だ。
1961