餅は焼いても揚げても良い ぼり、ぼり、ぼりぼり、ざ、ざっ、がりん、ざく、ざく。辺りが静かなためか、ひどく大きく響く音に、福沢諭吉は悩ましい表情を浮かべた。隠し刀との勉強会も大詰めを迎え、早く切り上げて少し休もうかと外に出た先に、煎餅屋の屋台が待ち構えていたのが運の尽きである。膝上に揚げ餅の包、傍らに麦酒。見渡す限りの青い海。ちょうど夕陽が傾きかけた頃で、情人との雰囲気作りは完璧なはずだった。悔しさを滲ませて、しばし過去を振り返るとしよう。
横浜貴賓館を出るなり、感覚の優れた隠し刀はすぐさま異変に気が付いた。否、彼でなくとも誰でもわかっただろう。
「諭吉、あの香ばしい匂いがするものを食べても良いか?」
「揚げ餅ですね。ええ、食べましょう。僕も久々です」
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