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    タン塩レモン乳業

    表に置くのはちょっと恥ずかしい絵を置いています。

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    POIPOI 16

    1/21
    AIと一緒に描いた命望(実家時代)小説 ラスト寸前まですれ違ってて泣く これがおれの性癖だ
    文章書く→繋ぎをAIに書いてもらう って感じで書いた セリフは自分で書くようにした 私:AI=8:2ぐらい だと思う 嘘をつくな本当は4:6ぐらいだろ!! 結構前に書き終えたから覚えてないw

    命の布団に潜り込む望「おはようございます、命兄さん」
    「ん、おはよ」
    まただ。また、目を合わせてくれなかった。

    最近、ボクは命兄さんに避けられている……ような気がする。
    話しかけても無視される訳では無いし、冷たくされる訳でもない。
    ただ、なんとなく、今までには無かった薄いバリアを感じるのだ。

    他の兄妹たちに命兄さんがボクのことで何か言っていなかったか訊ねても「特に何も」無し。
    避けられている、と告げると、「そんな風には見えないけど」と意外そうな顔をされた。
    確かにそうなのだ。表面上は、以前と同じように、優しく……時にはいじわるに接してくれている。でも、ほんのちょっぴりだけ、当の本人であるボクにしか分からないくらいの違いがあるのだ。
    例えば、目が合うとすぐに逸らされるとか。
    例えば、会話の途中でふっと黙ってしまうとか。
    例えば、ちょっとしたボディタッチをしただけでびくりとされるとか。
    例えば、一緒にいる時にそわそわしだすとか。
    例えば、例えば……。
    思い返せばきりがないほど、些細な違いだった。
    そして、それは日に日に大きくなっているように思えた。
    だから、今日こそはちゃんと話し合おう。真実を聞くのは怖いけれど、このままモヤモヤしつづけるのも嫌だ。もしかしたら、ボクの勘違い、思い込みかもしれない。僅かな希望を抱き、眼鏡の締め付けによる微かな痛みを堪えながら、部屋を訪れたのだが……

    (いない)

    扉越しに声をかけるも、返事がない。
    今日も図書館へ勉強だろうか。
    ドアノブに手をかけると、鍵はかかっていなかった。
    中を覗くと、やはり留守だった。
    ここ最近、兄はよく出掛けている。まるでボクと同じ空間にいるのを避けるみたいに。

    「命ならさっき図書館へ出掛けたぞ。夕飯までには帰ってくるだろう」
    本館の居間に居た縁兄さんに命兄さんの所在を聞くと、やはり図書館へ行ったようだ。今は13:20分。帰ってくるのはまだまだ先だ。

    「……はぁ」
    離れへ戻り、とぼとぼと自分の部屋へ向かって歩く。こっちの建物にはボクの部屋と命兄さんの部屋がある。
    「命兄……」
    いつの間にか、兄さんの部屋に向かって足を進めていた。

    「…………」

    魔が差した、とは、この様な状況を指すのだろう。
    周りに誰もいないことを念入りに確認してから、ボクはそっとドアを開け、部屋の中に侵入した。音が出ないようにドアを静かに閉める。
    「失礼します……」
    カーテン越しの柔らかな太陽光が部屋の中を照らしている。数ヶ月ぶり、いや、もっとかな。久しぶりに入った兄の部屋は、相変わらず整理整頓がされていて綺麗だった。ただ違うのは、部屋の主である兄が、今ここに、隣に、居ないこと。
    「………………」
    部屋の中は兄の匂いがした。大好きな、兄の匂い。
    部屋の隅に置かれているベッドに視線が行く。ゴクリと生唾を飲み込み、そろりそろりと近付き、そしてベッドに腰掛けた。

    ここに、毎晩命兄さんが…………

    「っ!」
    ぶわり、と全身の血液が沸騰するような感覚に襲われる。
    心臓が激しく脈打ち始めた。顔どころか耳まで熱い。何故自分はこんなに興奮しているのだろうか。

    「兄さん……」
    今では味わえない兄の匂いを、温もりを感じたくて。そのまま枕へ向かって倒れ込んだ。ぼふん、と寝具に受け止められる。
    俯きになり枕に顔を押し付けながら深呼吸をした。変態じみた行為をした自分に絶望しつつも、胸いっぱいに広がる幸福感に浸っていた。
    「んぅ……」
    全身をベッドの上に乗せる。
    少しだけ、もう少しだけ、と欲張って、今度は布団の中に入り込んだ。まるで、兄さんに優しく抱きしめてもらっているかのような気分になる。
    暗闇の中で目を閉じ、ぼんやりと考える。

    どうして、あんな態度を取るようになったんだろう。
    ボク、何かしたかな。
    もしかして、最初からボクは嫌われていたのかな。
    自分と兄は仲が良いと思っていたけど、実はそんなことなくて、糸色命は糸色望の兄であるが故に、兄らしい振る舞いをしていただけだったり──?

    考えれば考えるほど、悪い方へ思考が傾いていく。
    「うー……」
    もう、何が何だか分からなかった。
    「みこと…にいさん……」
    もう、昔のように自分の名前を呼んではくれないのだろうか。
    笑顔を向けてはくれないのだろうか。

    ぐすんっ……

    兄の世界から切り離された未来を想像していたら、情けないことに涙が出てきた。枕を濡らしてはいけないと、止めようとすればするほど溢れ出てくる。
    (兄さん……どうして……?)
    やがて涙は止まった。しかし気分は一向に晴れない。今もこうして兄の残り香にすがりついているが、ただ虚しさが積もる一方である。
    「はぁ……」
    ため息をついて、布団から顔を出す。
    仰向けになり天井を眺めている内に、ボクの意識はまどろみの中へと落ちていった。

    ***************************

    僕は、望のことが好きだ。弟として、家族として。そして、一人の人間として──。

    実の弟に対して沸き立つこの感情が、恋愛感情だとに気付いてしまったのは最近のことである。気付いたのが最近なだけで、多分、僕はずっと前から望のことを好きになっていたんだと思う。でも、この想いは絶対に悟られてはならない。だって、僕は望の兄だから。実の家族なのだから。弟なんかに恋をしちゃいけないんだ。
    それに、この関係を壊したくない。今まで通りの関係でいたい。良好な兄弟関係。なにより、望に嫌われたくはない。
    だから、僕はこの気持ちを隠し通すと決めたのだ。決して誰にも漏らしてはならない。僕だけの、秘密の気持ち。

    それでもつい、望の些細な仕草や言動に反応してしまう。
    目が合った時。
    名前を呼ばれた時。
    触れられた時。
    望と2人きりでいる時。
    胸が高鳴る度に、そんな自分に嫌気がさす。叶いもしない、叶えてはいけない恋に、端から希望なんてないのに。

    いっそのこと、嫌われてしまいたい。
    しかし、そんなことをしたら過程で望を傷付けてしまうことになる。
    僕たちは仲の良い兄弟だ。その兄に裏切られもしたら、望はひどく悲しむだろう。もしかしたら、嫌われた原因を探して自分自身を責めるかもしれない。
    だから僕は、感情を押し殺して今まで通りの兄を演じる他ないのだ。

    「はぁ……」
    今日も閉館時間ギリギリまで図書館で勉強をして、家に帰る。その予定だった。

    「そういえば今日、臨時休館だったな……」

    そう近くもない図書館への道中、気付けたのは幸いだった。
    自転車で颯爽と下った坂を、今度は自転車を押しながら上り、帰路へとつく。
    家を出てから30分足らずで、僕は帰宅した。

    「ただいま」
    「おかえり もう帰ってきたのか?」
    居間に行くと、縁兄さんが寛いでいた。時計の針は14時前を指している。
    図書館が休館だった旨を伝えると、
    兄さんは「そりゃ災難だったな」と笑った。

    自室へ戻ろうとすると、
    「そういえば、望がお前に用があるみたいだぞ」
    突然望の名前を出されて、一瞬ドキリとするが、平静を装う。
    僕に用事?何だろう?……上手く、話せるだろうか。
    縁兄さんによると、僕たちの部屋がある離れへ戻ったらしい。荷物を置いたら、望の部屋を訪ねてみるか。


    離れの玄関を開け、ただいま、と声を掛ける。
    靴を脱ぎ少し早足で自室に向かい、ドアを開けた。
    「!?!!?」
    声が出せない程驚いた。
    そこには僕のベッドの上で寝転ぶ望の姿があったからだ。

    何故……僕の部屋に……?それもベッドの上に……

    「望……?」
    そっと名前を呼ぶも、反応がない。どうやら眠っているようだ。
    起こさないように、荷物を静かに床に下ろす。
    そして僕は、恐る恐る望の方を見た。
    規則正しく上下する胸元。閉じたまぶた。半開きの唇。
    ……可愛い。ずっと見ていたいぐらいだ。
    もっと近くで見たくて、ベッドの端に座り、望の頭を撫でる。
    「眼鏡、歪むぞ」
    掛けっぱなしの眼鏡を外してやり、机に置く。
    よく見ると目元が濡れていた。……泣いて、いたのか?
    起きないのをいいことに、僕は覆い被さるように望の顔の横に手を着いた。
    親指で涙を拭い、そのまま頬へ手を寄せる。人差し指で唇をなぞると、少しカサついてた。

    ───キスしたい。
    心の内に渦巻く欲望を理性で押さえつける。
    心臓がうるさいぐらいに動いていた。

    でも、添い寝くらいなら許されるだろう。兄弟だし。

    こんな時ばかり兄弟であることを都合よく利用する自分が憎たらしい。
    望を壁へ押しやり、自分が寝そべられるスペースを確保する。そして望の隣に潜り込んだ。

    相変わらず望はすやすやと寝息を立てている。こんな無防備な姿を見せてくれるのは、僕が家族であるからか。
    柔らかな髪を梳くように撫でてやると、なんと、こちらに頬擦りするように身を寄せてきたではないか。すぐ目の前に、望の顔がある。突然の出来事に、思わず息を止めてしまった。
    静かに、そして大きく深呼吸しながら、望の観察を続けていると、なにやら口をもにょもにょと動かしている。夢の中で誰かと喋っているようだ。可愛いなぁ。

    「……すきです…」

    衝動的に、望の唇に自分のそれを重ねた。重ねてしまった。
    「んっ……」
    触れるだけのキス。
    一度離し、もう一度重ねる。
    今度は、もう少し長く。
    「は……っ、ぁ……ふ……」
    己の唇で挟むように、望を食む。柔らかくって、温かくて。目を閉じ、唇の感触を味わうことに神経を注ぐ。頭がクラクラするほど幸せだった。
    でも、これ以上はダメだ。
    名残惜しく思いながらも口を離す。瞼をあげると、薄ら開いている望の目と視線がぶつかった。

    ……え?

    世界が凍りつく音がした。
    先程までの興奮が、一瞬で消え去った。
    起きて、いたのか……?
    起こしてしまったのか?
    いつから目が覚めていたんだ?

    「……えへへ」
    眠気眼の望は、僕の顔を見ながらへにゃりと笑うと、再び目を閉じ、僕の胸元に顔を埋めた。
    「…………ッ」
    どうやら寝ぼけているようだ。じゃないとこんな好意的な反応はしない。
    先程の寝言から予想するに、僕を夢の中の”好きな人”と勘違いしているんだろう。
    複雑な気分だが、こんな状況──望から密着してくれることなんて、きっともう二度とない。
    僕は望を優しく抱きしめ、望が起きるまでのひとときを楽しむことにした。







    「……んぅ……?」
    腕の中にいる望が身じろぎをした。
    枕元の目覚まし時計は15時過ぎを指している。時間切れか。お昼寝は終いだ。
    それでも、まだ離れたくなくて。
    望を更に強く抱き寄せた。

    「…………?」
    「…………おはよう」
    こちらを見上げるように見てくる望に、起床の挨拶をおくる。
    「……命兄さん!?」
    目を見開き、勢いよく離れようとする望。しかし、それは叶わなかった。
    なぜなら、僕の腕が望の腰に回っていたからだ。
    「あ、あの、これは違くて! いや、違うっていうのは変な意味じゃなくって!」
    慌てる望。かわいいなぁ。
    「いいよ、そのままで。疲れてたんだろ?部屋を間違えた挙句、人のベッドで寝てしまうぐらいに」
    クス、と笑うと、望は意外そうな顔をした。「……怒ってないんですか?」
    「別に怒ってないさ。驚きはしたけどな」
    「……そうですか」
    ホッとした様子を見せる望を見て、罪悪感を覚える。
    僕は望を拘束していた腕を解き、上体を起こして、枕元の机に置いておいた望の眼鏡を手に取る。
    「ほら、眼鏡」
    上体を起こさせ、そのまま顔に掛けてやると、恥ずかしそうに少し俯いた。
    「あ……ありがとうございます……」
    レンズ越しに目が合う。目元が少し腫れていて、上目遣いの望と。
    「……っ」
    反射的に、逸らしてしまった。叶うならずっと見つめ合っていたいのに。
    胸のトキメキから逃避するために、僕は話題を振った。
    「そういえば、僕に何か用事があるんだって?縁兄さんから聞いたよ」
    「! いえ、大した用じゃありませんので!気にしないでくださ──」
    ぎこちない笑顔で、否定の意を込めて顔の前でブンブンと手を振る望。

    大した用じゃない、だなんて、そんなわけあるか。

    肩をそっと掴み、
    「どんな悩み事だ?泣くほど辛いんだろう?」
    今度は望の目をしっかりと見つめながら、訊ねる。
    望が自分を頼ってきてくれたのは、純粋に嬉しかった。今は兄として弟の悩み事解決の力になりたいのだ。そこに邪な気持ちなんて無い。
    望は一瞬目を見開き、瞳を揺らす。そして、寂しそうに笑った。
    「悩み事があるなんて、一言も言ってないのに。……兄さんはボクのこと、何でも分かるんですね」
    「当たり前だろう。何年お前の兄貴をやってると思ってんだ」
    気持ちを和らげようと茶化すようなことを言ったのが不味かったのだろうか。望の表情は僕の予想に反して、暗くなった。
    「…………ボクは……兄さんのことが、全然分かりません……」
    表情が見えなくなるほど深く俯く望。
    「……望?」
    もしや、望の悩みの種は、僕……?
    思い当たる節しかない。
    ───僕の気持ちが、バレたのか……?
    望の肩に載せている手を外す。
    このまま触れ続けるのが、許されないと思ったから。
    しかし、聞こえてきたのは予想を遥かに超える答えだった。

    「命兄さんはボクのことが嫌いなのに、何故こんなにも優しくしてくれるのですか」

    頭をガツンと殴られたような衝撃だった。
    ──僕が望のことを嫌っている、だと?ふざけるな。
    好きで好きでたまらなくて、それで困ってるぐらいなのに。
    嫌いになれるもんなら、なりたいぐらいだ。
    「誰がそんなこと言ってたんだ?」
    意に反して、声に怒りを含んでしまった。委縮させたくないのに。優しくしたいのに。
    「いえ、誰も……誰もそんなことは言ってません。でも、兄さんは最近いつも、ボクと距離を置いているじゃないですか……っ」
    訴えるように顔をキッと上げた望。最後の方は、声が震えていた。
    「それは……、っ!」
    言葉に詰まる。
    僕は僕の知らないうちに、望を傷つけてしまっていた。……最悪だ。
    自分の気持ちがバレないように、と、そのことばかり考えて、望のことを何も想ってやれてなかったのだ。
    望を傷付けたくないとか何とか言って、結局は望に嫌われて自分が傷つきたくなかっただけなのだ。
    「ボク、何かしたかな?ってずっと考えてるけど、何も思い当たらないんです」
    「お前は何もしていない。何も悪くない!」
    「じゃあやっぱり、最初からボクは嫌われてたんですね。兄さんは今まで我慢してただけなんだ」
    飛躍した発言に思わず絶句する。何故そうなる。

    高校に入学してからの望は、後ろ向きに考えてばかりだ。ことある事に絶望している。以前はポジティブに捉える子だったのに。この調子だと希望に満ちた世界に生きる望は、きっとこれからもたくさん絶望するのだろうか。希望がなければ絶望できないのだから。
    僕はその絶望を、少しでも取り除いてやりたい。時には分け合って共感したい。もちろん喜びも。

    「……違う!僕は望のことが好きだ!お前は生まれた時からずっと僕にとって大切な弟だ。嫌いになんてなるもんか!」
    勢いに任せて望を抱きしめ、そして、あやすように頭と背を撫でた。しかし、望は僕の胸を押し返し、離れていく。そのままのそのそと布団の中に潜り込み、僕に背を向けた。
    「……口だけなら何とでも言えます。兄さんは残酷な程に優しいから、ボクを傷付けないようにと嘘だって言えるんでしょう?」
    「嘘じゃない。本当だ。……好きなんだよ、望のことが」
    家族としても、一人の人としても。心の中で付け足す。 
    僕は後悔していた。今までと変わらない態度をとれていると思っていたのは、間違いだったことを。そのせいで望の心に深く傷をつけてしまったことを。
    「ごめんな、望。ごめん。……どうすれば嫌いじゃないって、信じてくれる?」
    もう、元の関係──純粋な兄弟関係にすら戻れないのだろうか?何を言っても望の心には届かないのだろうか?望の中では、僕への信頼は完全に失われてしまったのだろうか?

    しばらくお互いに黙り込んでいた。
    望の口が開かれる。紡がれた言葉は、思いもよらないものだった。

    「ボクのことが嫌いじゃないなら、今すぐキスしてください」


    *************

    夢を見た。
    命兄さんに、キスされる夢を。

    兄が留守の間に部屋に忍び込み、ボクはそのまま兄のベッドの中で眠ってしまった。
    そんな環境のせいだろうか、兄が夢に出てきたのは。2人で向かい合って抱きながら、布団の中に入っている。まるで恋人同士のようだ。
    『望は僕のこと、好き?』
    鼻と鼻の先が触れる距離で、聞いてきた。
    目の前に広がる温かな笑顔。ボクの大好きな、兄さんの笑顔。許されることなら、その表情をボク以外に見せないで欲しいぐらいだ。
    「……好きです。大好きです」
    そう答えると、兄は嬉しそうに笑い、さらに顔を近づけてきた。どちらともなく目を閉じる。唇を重ねられた。ボクはそれを当たり前のように受け入れる。目を開くと、夢の中の兄は幸せそうな顔で、夢中で僕の唇を啄んでいた。柔らかくて温かい唇の感触、吐息、体温。とても生々しい夢だった。

    ボクは命兄さんのことを恋愛対象として見たことはない。いくらここ数日兄のことばかり気にしているからって、こんな夢を見てしまったのは予想外だった。……兄弟同士でこんなことするなんて。
    しかし不思議と嫌悪感はなかった。むしろ、……気持ちよかった。そして嬉しかった。夢とはいえ、命兄さんに求められたことが。いや、夢だからこそ、か。もっと兄さんとキスがしたい。そんなことまで思ってしまった。
    顔を離し目を開けた兄は、そのままボクを見つめてきた。表情はボヤけてよく見えなかったけど……。きっと幸福感でいっぱいな表情をしてたんだと思う。だってこれはボクの夢の中なのだから。兄が嬉しそうにしている顔を、ボクは見たい。都合の良い夢の中なら、その願いも叶うだろう。
    もう少しこの夢を堪能したくて、ボクは兄の胸元へ身を寄せ、目を閉じる。そこで夢は終わり。ボクの意識は再び深く沈んでいった。

    再びまぶたを上げると、目の前に兄の顔があった。また会えて嬉しいなぁ。
    「…………おはよう」
    しかし、今度のは夢ではなかった。意識が段々とはっきりしてくる。
    状況が飲み込めなくてボクは飛び起きそうになるが、兄の腕がボクの腰に回っていて思うように身動き出来ない。
    絶望した。己の一連の行動が、兄にバレてしまったことに。
    嫌いなヤツが自分の留守中に部屋に勝手に入ってきて、しかも我が物顔で布団で寝てるなんて。兄さん、怒ってるだろうな。ボクは嫌われる決定打を自ら作り出してしまったのだ。
    しかし兄は怒らなかった。むしろ、ボクが疲れているのではないかと気遣いまでしてくれたのだ。
    兄の優しさに触れ、心が温かくなる。しかしすぐに現実を思い出し、ボクの心はまた鉛のように重くなっていく。兄はボクのことを嫌っているのだ。理由は分からないが、好きになるのに理由など要らないと言うように、嫌いになるのにだって理由なんて要らないのだろう。今のこの優しささえも、どうせ嘘なのだ。
    眼鏡を掛けられ、視界がクリアになり、兄と目が合った。すぐにそらされたけど。その兄の顔を見るのが怖くて、ついうつむいてしまった。
    部屋に来た理由を訊ねられ、正直に言える気が無くてボクは適当に誤魔化す。でも、すぐに見破られた。ずっとボクの兄をやってるから分かる、と兄さんは言うけれど、ボクは命兄さんのことが何も分からない。生まれてからずっと弟として傍にいるのに、何も分からない。そんなのだから、嫌われたのかな。深く俯き、自分の手をじっと見つめる。心の中がどんどん冷えていくのを感じる。
    肩に置かれた兄の手が、とても温かい。その温もりのせいで先程見た夢のことを思い出す。しかしその手も離れていって、余計に寂しく感じた。
    心配そうにボクの名を呼ぶ声がした。
    ああ、何故あなたはまだボクに優しくしてくれるのですか。……勘違い、してしまうじゃないですか。本当はボクは、兄さんに嫌われていないんじゃないかって。

    「命兄さんはボクのことが嫌いなのに、何故こんなにも優しくしてくれるのですか」

    そう言うと兄は少し怒ったように、情報元を聞いてきた。誰かに言われた訳じゃない。ボクは最近感じていることをありのままに話す。このまま俯いていたら涙がこぼれそうになったので勢いよく顔を上げると、困惑している様子の兄と目が合った。最近ボクと距離を置いているじゃないか、そう指摘しても、否定はしてくれなかった。

    はっきりと言って欲しい。ボクのことが嫌いだと。
    たくさん困らせて、途方に暮れさせて、そうすれば呆れたように「嫌い」と正直に言ってくれますか?

    しかしその考えに反して兄はひたすら「好きだ」「嫌ってない」と言ってくる。ボクが傷つかないための嘘だろう。ボクは兄さんの優しいところが好きだった。しかし今はその優しさがとても辛い。
    兄さんはボクのことが嫌いなんだ、と、駄々をこねる子供のように言い続けていたら抱きしめられた。撫でてくれる手が心地好い。いっそのこと、虚像でもいいからこの優しさに溺れた方が楽なのだろう。そんな考えも過ぎったが、それでは兄が幸せにならないと、ボクは兄の背中に回しかけた手で胸元を押し突っぱねる。兄は悲しそうな顔をしていた。その視線から逃げるように布団を被り、兄に背を向ける。

    「どうしたら信じてくれる?」
    縋るように訊ねられた。
    分からない。どうしてボクなんかにここまで構ってくれる理由が、分からない。
    もしかして兄の言っていることはすべて本当で、ボクは嫌われていると思い込んでいるだけ……?でも、それじゃあ最近の兄の態度の説明がつかない。ボクにとっては、”気のせい”の一言で済むような変化ではないのだ。
    頭の中がぐしゃぐしゃになる。兄を信じたい。ボクの考えを、全て打ち消して欲しい。

    沈黙が流れる。兄さんはボクの答えを待っているらしい。どうしたらいい、なんて、こっちが聞きたいくらいだ。どうしたらボクはボクの思い込みから脱却できる?

    先程見てしまった夢を思い出す。兄さんにキスされる夢。

    兄さんがボクを嫌いじゃないなら、今すぐキスしてください。
    そう言ったら、兄さんはどんな反応をするのだろうか?困ったように笑うのだろうか?冗談だと思って受け流すのだろうか?それとも、ふざけるなと怒るのだろうか?試すようなことを言ってごめんなさい。
    でも、ボクはもう限界です。

    寝返りを打ち、身体を兄の方へ向ける。そして布団から顔を出した。
    「……兄さん、ボクは兄さんを信じたいのです。お願いします。ボクに、キスして下さい」
    そう言うと、命兄は驚いたように目を見開いた。
    「…………いいのか?」
    なんですか、その言い方は。まるでボクとのキスを待ち望んでいたかのようじゃないですか。
    「はい。……この辺りに、お願いします」
    ボクは自分の左頬を指差す。 本当は唇が良かったけれど、流石に断られると思ったし、……恥ずかしかったから。今度はボクが兄から目を逸らした。何故か心臓の動きが早まっている。
    頬へのキスなんて、外国なら挨拶程度に家族間で交わされるから何も問題は無いもん。言い訳を並べた。
    「…………分かった」
    そう言って兄は布団を捲る。そして馬乗りになり、頬に手を寄せてきた。もう片方の手は僕の頭の横だ。顔の動きを固定され、見つめ合う形となる。段々と兄の顔が近づいてきた。緊張が募る。頬にキスしてもらうだけなのに、どうしてこんな……。

    「……嫌なら抵抗しろよ」
    兄のその言葉の意味を理解する前に、唇を重ねられた。
    「んっ……!?」
    驚きのあまり目を見開く。目の前には、兄さんの整った顔。柔らかな感触が、ボクの唇を支配する。鼓動が早まる。
    思わず兄の体を押し返そうになったが、先程の言葉を思い出し、手の平から力を抜く。嫌じゃなかったから。結果、ボクは兄さんの服を握り締めるだけとなった。
    それを抵抗と判断したのか、兄の唇は離れていった。時間にしては、ほんの一瞬の出来事だった。
    「……ごめん」
    困ったように微笑みながらボクの唇を指で拭う。違う。今のは嫌で押し返そうとした訳じゃなかったのに。
    「好きだよ、望。これで信じてくれるか?」
    とても優しい声音だった。兄の顔が離れていく。ボクはどうしても引き止めたくて。
    「ま、まだ、信用できません!」
    肩を掴み、そのまま引き寄せる。ボクの突然の行為に、兄は驚いた表情を見せた。
    「もう一度!もう一回だけ、お願い、します……っ」
    言ってる途中で恥ずかしくなり、声が小さくなる。恥ずかしさのあまり顔を背けた。自分は今、なんてことを───!?
    兄さんは少し考えた後、ボクの頭を撫でた。いつの間にか兄さんはボクの身体に覆い被さるように寝そべっていて、ボクたちは密着していた。足がそっと絡んできた。
    「……いいよ」
    兄さんはボクの頭に手を乗せたまま、顔を近づけてくる。ボクは目を閉じて、その時を待つ。
    ちゅ、と音が鳴った。
    唇を重ねるだけの軽い口付けだったが、それでも充分すぎるほど幸せを感じた。
    「……これでいいか?」
    「…………」
    名残惜しく感じながらもゆっくりと唇を離す。
    ──もっと。もっと、兄さんとキスしたい。
    「まだ足りません」
    今度はボクの方から顔を近づけた。
    「のぞ……、っ!?」
    尖らせた唇は、兄さんの唇の端に当たる。そのまま横へスライドさせ、兄の唇を楽しむ。
    「んっ、、んんっ」
    息をするのも忘れ、夢中で啄む。
    流石に苦しくなってきたので、一旦口を離し息を吸う。しかし、すかさず兄さんの唇に封じられて。開いた唇の間に、舌が割り込んできた。
    「ふ、ぁっ……!?んぅ……」
    初めての感触。ゾクゾクとした感覚が全身を駆け巡る。
    ボクは兄さんの背中に腕を回し、ぎゅっと抱きつく。兄さんはボクの後頭部に手を添え、優しく髪を撫でてくれた。快楽と息苦しさで頭がどうにかなりそうだった。
    「……はあ、はあっ」
    唇を離すと、お互いの唾液が糸を引く。
    「……大丈夫か?苦しかったろ」
    「いえ、そんなことないです」
    むしろ、嬉しかった。
    「……そうか」
    兄さんはボクの目尻に溜まった涙を親指で拭ってくれる。
    「……あの、もう1回、いいですか?」
    ボクの言葉を聞いて、兄さんは苦笑する。
    「……ああ、いいよ。お前が満足するまで、何度でも」
    兄さんの唇が降ってくる。ボクは目を閉じた。
    「……好き、好きです、兄さん」
    そうか。ボクは命兄さんのことが好きだったのか。嫌われた、と思った時、だからあんなにショックを受けたのか。
    「……僕も望のことが、好きだよ。…………愛してる」
    ボクの頭を撫でながら、優しい声で囁いてくれる。ボクはその言葉だけで満たされていた。
    「僕はその……こういう意味で望のことが好きなんだ。こんな気持ちバレちゃいけない。そう考えたら、お前のそばで過ごすのが怖くなって。おかしいよな、本当は隣で過ごしたいのに。ごめんな、寂しい思いをさせてしまって……。」
    「……まったくです。寂しかったんですから!」
    「うん、本当に悪かった」
    「……許します」
    「ありがとう」
    兄さんはボクの頬に手を添えて、またキスしてくれた。今度は触れるだけの軽いやつだ。
    「……兄さん、もっと」
    「……いいよ」
    兄さんの首の後ろに両手を回す。兄さんはボクの腰を抱き寄せ、さらに深く口づけた。
    兄さんとのキスは、とても甘くて、蕩けてしまいそうになる。

    夕飯の時間を過ぎても部屋を出て来ないボクらを景兄さんが呼びに来るまで、ボクたちはひたすら絡み合っていた。

    おわり
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    ☺💒
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