「…キラー」
隣で幼なじみが囁いた。
「なんだ?」
大方、飽きた、とかこの長々しい話はいつ終わるんだ、とかそんなことだろう。我が国の式典は(主に宰相の)話が長いことで有名だ。卒業式の学長の話くらい長い。…なんならもっと長い。
この場にいる殆どが飽きて別のことを考えているであろう長話を、キッドが─しかも正装で─これだけ耐えたのだからむしろいいほうだ。
「飽きた」
「だろうな。むしろこの場に飽きてないやつのが少ないだろう。あと十分もすれば終わるんじゃないか?」
宰相はもう既に三十分程喋り倒しているので妥当な数字だろう。
「式典終わってもその後戦勝記念とか言ってパーティーやるだろ…いちいちめんどくせェんだよ…」
この国では何かと社交界やら○○記念パーティーやらが多い。もちろん戦勝記念のパーティーは国王主催で王宮で行われる為、一軍人などお呼びでないが、陸軍のトップとして名を馳せているキッドと副官のキラーには国王直々に声がかかるのだ。
なんでも、2人が参加するのとしないのとでは、女性たちの気合いが違うのだとか。要はモテるのだ。当の本人は自分に媚びてくる女性たちに辟易しているが故の「いちいちめんどくせェ」である。
「ファッファッファッ…!モテる男は違うな」
「モテてんのはおれじゃなくておれの肩書きだろ」
純粋に地位や権力を求めて群がっている女性の方が少ないようにキラーは思うのだがキッドから見ると違うらしい。…キッドに想いを寄せている女性たちに心の底から同情した。バレンタインの贈り物が山脈を成していても、誕生日の祝いの品が万里の長城のように積み上げられていても、その想いは全く伝わっていないのだ。パーティーの後には副官であるキラーが出征前の生還祈願と今も着々と届いているであろう生還祝いを仕分けるという地獄のような作業が待っている。
「モテてるのがキッドの肩書きだったらおれは幾らか楽だっただろうな…」
「?」
いっその事さっさと所帯を持ってくれ…とキラーは常々思っている。
今日もきっとキッドに想いを寄せる彼女らの想いは伝わらない…。