貫通おめでとうカラ松の風変わりな友人が訪ねてきたのは、蒸し暑い夜のことである。月替わりで仕事も落ち着いている(当社比)時期で、珍しく風呂まで沸かして入りさあ寝ようかという段階で突然鳴ったチャイムにカラ松は飛び上がった。まず、宅配便でも集金でも人が来る時間では無い。恐る恐るドアスコープをのぞき込むと、着崩した白ジャケットにボサボサ頭が見えた。手に白いビニール袋を持っている。
「一松!?どうしたんだこんな時間に」
「よおアモーレ、ちょっと近くまで来たもんでな。顔見に来た」
教えた覚えのない自宅の場所を把握されているのはまあ良い。いや良くないが、この友人にはなんだか怖くて聞けない。とりあえず寝るばかりだった煎餅布団を隅に押しやり友人を部屋に通すと、一松はその場にどっかと腰を下ろした。
もともと口数の少ない男ではあるが、今夜はますますその傾向が強い。泣く子も引き付けを起こしそうな顰め面して背を丸める一松。とりあえず客にコーヒーを出しながらカラ松はどうしたものかと考える。何せ男の一人暮らしだ、この部屋には座布団なんぞ無いしカップも茶碗も一人分しか置いていない。一松にコーヒーカップを譲り、自分の分は湯呑で淹れて、砂糖と牛乳と一緒にちゃぶ台の上に置いた。
腰を落ち着けてもう一度先ほどの質問を繰り返す。一松はコーヒーに口をつけ、次いで砂糖をドボドボ足しながら
「あんま時間が無いから長居はしない。あんたに頼みたいことがあって来た」
落ち着かなさそうに視線を逸らす。珍しい。この常に無駄に自信満々が男が躊躇するなんて。
一松はコーヒーカップを見て、万年床を見て、それからカラ松の顔を見て、意を決したように持っていたビニール袋をひっくり返した。酒かツマミかと思われていた中からは、予想に反して小さな白い長方形の器具が二つ、ころりと転げ落ちた。
「なんだコレ」
「穿孔機」
せんこうき。それは耳慣れない名称だがカラ松は思い出した。これピアッサーだ。カッコつけていた学生時代、買おうか買うまいか散々悩んだ挙句、体に異物を埋める恐怖に負けてしまったアレだ。結局臆病者のカラ松は磁気ピアスやシールでお茶を濁してしまったが、何故これがここに。
「なんだ一松、ピアスを開けるのか?俺に開けてほしいとか?」
「うん、あんたに開けてほしいんだけど、二重の意味で。ダメ?」
一松は神妙な顔でこちらを見る。二重の意味とは。
「部下の黒服の人じゃダメなのか?俺は素人だし、こういうのは慎重に開けないと危ないんだろ」
何せ体に傷をつけ異物を埋め込むるのだ。白い糸は都市伝説としても、化膿したり、金属アレルギーを患ったという話も聞いたことがある。本当なら病院で適切な処置をして欲しいところなのだが。
「あんたが良い。あんたに開けてほしい」
一松はしっかりとこちらを見つめて言った。
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時間切れ。この後カラピは左耳にアメジストのピアスを入れて会社の人にヒソヒソされます。