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    現パロ 犬の教官が愛弟子と出会うまで

    U^ェ^U‹愛弟子♥ 人間は子供を孕んで産み落とすのに犬の4倍の月日が掛かるんだ。信じられないだろう?そんなに長い時間人間の女性は、君の御主人様は、胎に子供を抱えてゆっくり育てるんだよ。俺の子だよ、凄いだろう?まだ性別は分からないけれど、きっと男の子女の子、どちらでも珠のように可愛らしいと思うんだ。
     ただその間、母親はとてもしんどい思いをするんだって。そこは君達も変わらないとは思うけど、4倍長くお腹に入れている分、やっぱりしんどさも4倍以上なんじゃないかと。まあ俺達、想像する事しか出来ないんだけどね。
     ねえ、だから君、お願いだ。とつきとおか…いや実際にはもう230日くらいって言ってたっけ?8ヶ月後くらいかあ…お腹の中の子が無事に育って産まれてくる、そのあいだ、俺たちひとまず停戦しないか。ふたりで協力して、君の御主人様と、御主人様の子供を護ろう。あの子が安心して過ごせるように。俺達、今日から盟友になろう。

     …いつもの時間、いつもの散歩道、違うのはリードを引く手の力強さ。
     抵抗する俺をなかば引き摺ってここまで連れてきたそいつは、丈夫なイチョウの木の幹に紐を結んで、歯をむき出して唸る四つ足の俺の前に膝をついた。俺が小さな仔犬の頃から使っている赤いリード。当然ながら年季が入って、紐は細いし、所々解れている。あの頃の何倍も大きくなった俺が今までこのリードに繋がれていたのは、ひとえに俺が思い出の詰まったこの細い紐と柔くて脆い御主人様の身体を損ねる事を恐れたからだ。その事をこの雄は分かっていて、こうして紐の長さギリギリの場所で手を差し伸べている。
     こいつめ、善良朴訥な振りをして、こうして計算高いところが嫌いなんだ。それでもこの雄は大事な御主人様の選んだ番だ。彼女の身体を労りたいというその申し出を断る理由は、特にない。盟友の誘いを断る理由も……ない。残念ながら、俺にだってそれが御主人様の望みなのだと分かるから。
     了承の意を伝える為差し出された指先をペロリと舐めてやると、雄…御主人様の番は奇声を発して飛び上がって喜んで、そのまま抱きついてきたので、そこはしっかり噛み付いておいた。上下関係は分からせておかないとね。

    🦴🦴🦴🦴🦴

     とつきとおか…いや230日は夢のように過ぎ去った。御主人様の腹はゆっくりと膨らみ、いろんな匂いが混ざりはじめ、出来ないことが増えていく。身体がしんどいのなら横になっていれば良いのに、それでも体を動かすことが肝要だというのだからままならない。初めての身体の変化に戸惑い、番の男との諍いも増えた。それと同じくらいふたりで寄り添う時間も増えた。
     俺はというと、出来るだけ二人の時間を邪魔しないよう寝床に控えていようとしたのだけど、初めての大仕事に不安がった御主人様が頻繁に呼ぶものだから、その足元に侍って番のグルーミングを間近に見せつけられている。面白くない。番の男を追い払いたい衝動をぐっと噛み殺して、御主人様に耳を擽られる日々だ。

     御主人様は俺を側に置きたがるが、身体の大きな俺は彼女の身体を無闇に押さないように常に気を張っている。その様子を気にしてか、番の男の都合が付けば3人で車で繰り出すようにもなった。丁度御主人様の身体の具合も安定して、寝込むことが少なくなった頃だ。
     …それにしても悔しいがこの男、ものを投げるのが上手いのだ。ボールにフリスビー、音の鳴るおもちゃ、いい感じの木の枝…その無駄に発達した強肩でなんでもかんでもいい感じに遠くまで投げてくる為、俺も全力で追いかける事ができる。場所のチョイスも、人里から離れすぎず、それでいて遮蔽物も人気も少ない山などどこで見つけてくるんだ。取ってきたおもちゃを加えて、車のそばに設えた簡易的な巣で寛いでいた御主人様に走り寄ると、弾けるような笑い声と番の男の悔しそうな大声が静かな山に木霊した。ふふん、俺が「取ってこい」するのは御主人様だけだもんね。
     俺たちが全力で遊び回る傍ら、それを眺める御主人様も外の空気を満喫できる。良いことづくめだ。また皆で遊びに来よう。

    🦴🦴🦴🦴🦴

     230日は夢のように過ぎていく。

     ご主人様の腹がお気に入りのボールのように膨らむ頃、その中からぽこぽこと音がしはじめた。御主人様の膝に大人しく頭を載せている俺のほうが、番の男より先にその音に気付けたのが誇らしい。
    耳をピンと立てて音を聴いていると、御主人様が笑って頭を撫でてくれた。

     ねえ、聞こえる?凄く元気な子だね。もうすぐ産まれてくるんだよ。私達四人家族になるの。あの人ともうまくやれたあなただから、心配ないとは思うんだけど、どうかこの子とも仲良くしてね。

     それはもちろん。俺は御主人様の願いに応えるように、もちろん手加減してその腹に顔を擦り付けた。
     こらこら君、元気が一番だけれど、必要以上に御主人様の身体に負担をかけてはいけないよ。無駄に丈夫な君の父親とは違って、お母さんは柔らかくてたいへん脆いんだから。御主人様の身体は今の君の大事な巣なんだから、損ねちゃいけないよ。これは先達の俺が、力加減や巣での過ごし方なんかを教えてあげなくちゃいけないね。

     それからというもの、俺は出来る限り腹の仔に話しかけた。腹の仔が内側から遠慮なくぽこぽこ叩くたびに、いけないよ、もっと優しくするんだよ、と。番の男はそのたびに、まるでお返事してるみたいだね、と笑う。そのとおり、俺の言葉にちゃんとお返事してくれる、とっても優秀な弟子なんだ。
     ねえ君、今日はいい天気だよ。鳥の声、雨に濡れた緑の匂い、ご飯のカリカリを噛み砕く感触、君の父親のでっかい手、君のお母さんの優しい歌声。君に教えてあげたいことがたくさんあるんだ。早く出ておいで。きっと丈夫な、強い子に成って出ておいで。いや、弱い子でも大丈夫。俺が守って、きっと強く育て上げてみせるから。
     早く君に会いたいよ。

    🦴🦴🦴🦴🦴

     とつきとおか、230日は夢のように過ぎ去った。

     産気づいた御主人様を病院に運んでから、番の男は慌ただしく巣から出たり入ったりを繰り返す。必要なもの全部まとめた入院用カバンはあっち、いざというとき持ち出せるように準備したじゃないか。職場に連絡して、印鑑印鑑、保険証、車の鍵!でかい図体でドタバタウロウロ。まったく見られたもんじゃない。最後に俺のカリカリと水を用意して、男はぎゅっとしがみついた。
     …心配はいらないさ、御主人様もあの子も、きっと大丈夫。俺はヒトの病院にはついて行けないから、お前にしっかりして貰わないと困るんだ。ねえ、今は震えていても良いけれど、病院ではきっと御主人様の力になれるような、頼り甲斐のある雄を演じておくれよ。盟友の俺の分まで。
     暫くそうした後、男は立ち上がって、強い声で「キエンバンジョウ!!」と吠えた。鼓舞するように俺も吠えた。屋根のあるところでは吠えてはいけないというルールも、このときばかりは無視した。ルールを破る事も時には必要で、今がその時だ。君に教えたいことがまた増えちゃったな。
     盟友が出ていった巣の出入り口が金臭い音を立てて閉まるのを確認して、俺は目を閉じる。起きたときにはきっと君に会えるんだ。楽しみだな。

     …しかし現実はそうそう甘くなく、俺が寝て起きてご飯を食べても戻ってきたのはやたら興奮して上機嫌な番の男ただ一人だけ。おい、なんでお前だけ御主人様やあの子と会えてるの?不満気な俺に気が付いたのか、慌てた男が言うことには、人間は産後そう簡単に病院から出られず、安静が必要とのこと。ううん、犬の4倍の期間腹で仔を育てるから、お産で4倍ダメージを受けるって事?ヒトは難儀だなあ、ひとりしか産んでないのに。番の男はいかに御主人様が頑張ったか、あの子が小さくて可愛いか、身振り手振りを交えて話すのだけど、知るか!お前ばっかりずるいぞ!俺も御主人様とあの子に会いたい!!
     その日、俺たちは実に230日ぶりにケンカをした。しかし俺が唸ろうと吠えようと、頭の中が春爛漫な男にはなんのダメージも与えられないのだった。あぁ、もう!!!!

    🦴🦴🦴🦴🦴

     その日のことはいつまでも鮮明に覚えていて、きっと俺が事切れるその時まで忘れることはないだろう。



     番の男は朝から部屋中に掃除機をかけ、リビングには背の高い木製の檻が置かれた。

     これはあの子のベッドだから、イタズラしないでね。

     誰にものを言っているんだいと鼻を鳴らすと、男は雑巾片手に慌ただしく次の部屋へ。元気の良い仔だから、巣から逃げ出さないように檻に入れるのかな。新品の木の匂い。あの仔のものならと俺の匂いを付けるのはやめておく。
     俺も朝イチで風呂に入れられて念入りに洗われた。産まれたての仔というものは本当に弱いから、清潔に、柔らかい巣材で包むようにしてやりたいと、俺達の意見は一致している。だから俺も男も爪にヤスリをかけ、きちんと歯を磨き、鋭利なものや角張ったもの、口に入りそうな小さなものを全て片付け、埃を拭き取り、こうして掃除に勤しんでいるというわけだ。
     ……後に御主人様にはやりすぎだって笑われたけど。

     時間になると男はまた慌ただしく出掛けていく。

     今度は、今度こそ3人で帰ってくるからね。そうしたら俺達、四人家族になっちゃうぞ!

     いいから早く行ってこいと追い立てて、俺はあの仔の為の檻の下にお気に入りの巣材を敷いた。これからはここが俺の寝床だ。なにものからも君を守ってあげるからね。
     早く君に会いたいよ。

     目を閉じて、開ければ今度こそ覚えのある自動車の振動、賑やかな二人分の足音、そして。


    U^ェ^U‹会いたかったよ、俺の愛弟子!


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