Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    minaduki_comcom

    @minaduki_comcom

    @minaduki_comcom

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 27

    minaduki_comcom

    ☆quiet follow

    ウツハン♀お題botさんより
    お題【時間よ止まれ】

    ※実在の武器・武器重ね着の機能を捏造しています。実名は出してませんがご注意ください

    時間よ止まれ 弁解させてほしい。私は決して狩猟を舐めていたわけではないのだ。確かに最近調子に乗っていたのは認める。たとえ里の英雄猛き炎、王国の救世主の二つ名を戴いても、狩場では何が起こるか分からないのだから油断慢心生兵法は生死を分けるよと師からも耳にタコが繁殖するほど言い聞かされていた。でもね?まさか今更狩猟中一般通過ファンゴに轢き逃げされるとは思わないじゃん?

     ファンゴに轢かれる前段階としてに色々あった。あれはミレーネさんから預かった、試作の狩猟笛の試し切り(???)に密林を訪れたときのこと。なんでも遺跡より発掘された古代の遺産を再利用した…とかで、部品がプカプカ宙に浮いて、要所が光る不思議な意匠のこの狩猟笛。どんな原理で動いているのかは想像もつかないけれど、その音色は如何ほどか…とワクワク振り回してみる。しかし音色というほどのものはなく虫の羽音のように低くブゥン…ブゥン…と弦(だと思う多分)が唸り、一定の光量で光るだけ。3音演奏もあまり変わらず。なんだこれ笛だよね?遥か古代には音楽すら無かったとでもいうのか。連れてきたオトモアイルー2匹はビームサーベルだにゃ!いいやライトセイバーにゃ!ファンネル起動だにゃ!って騒いでたけど、私はあんまりピンと来なかった。だってせっかく見た目が派手なんだもの、もっとこう、格好良くピカピカ光とか音とか鳴ってもよくない?鉄蟲糸技を出すタイミングで『(てれれってれーれー)スライドビート!(打撃音)』とか鳴ったらヒーローみたいで面白いよね!(なお、このことを後に教官に相談したら「ただでさえ狩猟笛は目立ってターゲットになりやすいのに悠長に技名叫んで手の内気付かせてどうするの」ってほっぺた抓られた。解せぬ)帰ったらミレーネさんに報告しなきゃ。演奏できない笛なんて旋律効果も怪しいですよっと。
    そんな感じでオトモたちとキャッキャと楽しく遊んでいたので気付かなかった。まったく油断していたのだ。生い茂る名も知れぬシダ植物の陰で、一匹の小柄なラージャンがすやすやお昼寝していた事を。
     今回の試作狩猟笛、見た目こそ軽やかだが、やはりその手応えはずっしりと重い。でなければ打撃武器としては使えないし。私は狩猟笛を振り回して回転し、自重と狩猟笛の重さをしっかり乗せた渾身の踵でその尻尾を踏みつけた。
    それからは…推して知るべし。

     ラージャンなど何度も狩っている。しかも草葉の陰に隠れるほどの小柄な個体だ。落ち着いて事に当たれば大丈夫…常時ならそう言えたかもしれない。しかし今回は完全に奇襲であり、いつもされるよりする方だった私は対処が遅れた。激怒したラージャンに殴り飛ばされ私はさっそく回復薬を頭からかぶる。ごん太ラージャンビームを警戒しつつ確実に一撃入れて離脱…ううんこのラージャン素早いなあ、打撃が狙った位置から逸れてしまう。しかもおかしい、どんなに響打を入れても音珠を撒いても一撃が軽い…あ〜これ試作だから属性付けてないってミレーネさん言ってた〜旋律効果も発動してる実感ないぞこれ〜属性攻撃入らない、自己バフも危ういソロ笛なんてただのヨワヨワハンマーじゃないですかやだー〜
     半泣きで武器を振るう。『準備不足で会敵したらまず逃げて体勢を立て直そう!』はい教官、そうしたいのは山々ですがこのラージャン速いよ〜!逃げるスキが無いし今日のオトモはコレクト特化アイルー2匹!だって試着のレポート手伝って欲しかったしついでに採取もしたかったんだもん!走ってもスタミナ切れて追いつかれるし慌てて糸技打ちすぎて翔蟲足りない!!
     そうして、混乱していた戦場で私は興奮したファンゴの後方からのひき逃げアタックに気付かず吹っ飛ばされ、膝を付いたところで頭上からラージャンの分からせパンチが降ってくる。…ここでようやく冒頭に戻る訳なんだけど、んん〜絶体絶命。一瞬で駆ける走馬灯。油断、慢心、してたなぁ、いつまでたっても駄目弟子でごめんなさい教官。
    けれど
    『文字通り、命が絶たれるその瞬間まで生存を諦めてはいけないよ!』
    意地汚くも常に生に貪欲であれ。
    その教えだけはいつだって、絶対に、守る!!
    少しでも拳の衝撃を殺そうと狩猟笛を頭上に大きく振りかぶった、その時。

    『コード(…ザッ…ザザッ)カクニン(…ザッザー…)…起動 ピピッ』

     それまでとは違う、雑音混じりの音色が鳴って、なにやらガチャガチャと変形しだした狩猟笛から放たれた強い光に目を焼かれた。
    そこで私の意識は暫し途絶えたのだった。

     
    暗転

     
    「…一乙!ドンマイ!」
     いつもの掛け声で跳ね起きる。まずは状況把握…意識が戻ったってことはネコタクが間に合ったってことだ。オッケーならばリベンジだ、休む暇など与えるものか!装備変更にテントへ走ろうとして気づいた。
     あれ?テント、無い。というかここメインキャンプじゃない?開けた視線の先には走り去る轢き逃げファンゴ。振り返ると変な格好で固まるオトモアイルー。そして頭上には、拳を振りかぶってピクリともしないラージャン。おぅふ。
    「えぇ…何これぇ」
     ここ、さっきの戦場だ!まだ乙ってネコタク送りになったわけではないらしい。
     反転して拳の下から抜け出してあたりを見回す。なんだかおかしな空気だ。風もなく、音もなく、私が動いても周りの景色は止まったまま。なんなら戦闘で凪払われた草葉すらも空中で停止している。なんだこれ???とにかくオトモたちを連れてここを離れよう。一匹抱えあげようとして、指が虚しく空を切った。何だこれ!!!?オトモ達に触れられない。それどころか、舞い散る草花にも、元凶のファンゴにも、ラージャンにも触れないしパチリともしない。今この空間で動いているのは私だけ。そんな事ってある???
     いや、あれも動いてんのかな。なんだか団扇みたいに変形した例の試作狩猟笛が、やたらギラギラ光って空に浮いている。時折バチッと火花が走ってよくわかんない音色が鳴ってますけど?確かに光れ鳴れとは言いましたけど??というか音色というより、あれは古代語???喋る笛だったの????
     なんだよう怖い。私は学者や調査員じゃない、英雄と渾名されたただの一般ハンターだ。原因究明とか対策とかそんなものはどうでもいい。私にとって未知なるものはただ怖い。自分の理解が及ばない不思議なことが起きたとき、いつだって思うのはシンプルに一つである。ええ、ええ、すいませんねえいつまでも甘ったれで!

    「助けて教官!もうおうち帰りたい!!」

    『…ピピッ 受諾』



    暗転。



     気が付けば私は朱塗りの橋の真ん中に立っていた。たもとには傘屋のヒナミさんが商品を広げて腰掛けている。あれ?カムラだ、よくわからんがカムラに帰ってきた!知っている場所で知っている人に会えた、その安心感から私は無防備に彼女に駆け寄って…しかし。
    「ただいま、ヒナミさん!」
    …ヒナミさんは、いつものように朗らかにおかえり、とは言ってくれなかった。遠くを見つめたまま、ちょっとも動いてくれなかったのだった。

     私はべそかきながらタタラ場前を練り歩く。お前もかカムラ!!!信じていたのにカムラ!!!!
     イヌカイさんちのゴウカに抱きついても、コミツちゃんのほっぺを突っついても、この手は虚しくすり抜けるばかり。そのくせ建物や樹はすり抜けず、タタラ場の扉はビクともしないし錬金ツボを蹴り飛ばそうとしたら足の指から鳴っちゃいけない音がした。もう踏んだり蹴ったりだ。これって元から自力で動かないものは動かせないって事なのかな。
     団子屋の呼び込みの声もない。祓え桜の花弁は落ちることなく漂っている。大通りには見知った顔が皆いるのに、こんなに寂しいカムラは初めてだ。それになんだか皆、表情すらも暗い気がする。ハモンさんの眉間の皺が凄いことになっている。里長、そんな顔でフクズク撫でたら怖がっちゃいますよ。ヒノエさんは里クエ受付カウンターにはおらず、珍しくミノトさんと茶屋に居た。おやおや二人して昼間からおサボりですかな?…俯いたミノトさんにお団子を勧めるヒノエさんとか、なかなかレアなのでは?ヨモギちゃんはいつもの溌剌営業スマイルだけど目元が薄っすらと腫れている。
     皆、皆、なんでそんなに悲しそうなんだろう。百竜夜行を退け、前途洋々のカムラの里を覆うこの陰鬱な空気はなんだろう。答えを探して集会場の屋根を見ても、師の姿はどこにも無かった。

     私の太陽。私の強走剤。私の安心毛布。

     どこを探してもウツシ教官が見つからない。
     集会場(ミノトさんの代打かな?ゴコク様がカウンターに座っていた。狭そうだった)、
     自宅(教官の家はもぬけの殻、私の家ではミハバとツリキが話し込んでいた。こらこら仕事サボって何やってんの)、
     修練場(この状態では当然だが翔蟲も使えない。気炎万丈して自力で崖を踏破したが空振りだった。ちくしょう)、
     オトモ広場(あ、私のオトモ達がイオリ君に慰められてる!良かったあの子達もカムラに帰ってこられたんだ)。
     里中を探しても教官はどこにも居ない。
     嘘でしょこんな時に。

     私のお団子。私の灯火。私の道標。

     いよいよもって涙腺決壊である。きっと今日は里外のお仕事の日なんだ。なんでこのタイミングなの教官の馬鹿!たらし!すけこまし!うまなみ!えーとあとなんだっけ!?頼れる姉御アヤメさんが喧嘩したときに使ってみなと教えてくれた罵倒語をここぞとばかりに使ってやる!意味など知らんし意味分かったら最後、使えない予感がひしひしとする。
     だって教官が居ないのが悪い。居ても他の人みたいに触ることもできないんだろうけど、とにかく顔を見て安心したかったのに。
     とぼとぼと戻ってきたタタラ場前。里中走り回ったのに、お日様の位置はそのまんま。たたら場前のいつメンも、ちょっとも動かずそのまんま。うわぁ徒労感で崩れ落ちそう。
     ふとカゲロウさんの店の前に、福引き器が置いてあるのが目に付いた。可愛い回転式フクズク型抽選器。これが出してあるってことは、セール中だったんだね。ゼンチ先生の賑やかしの鐘が聞こえないから気が付かなかった。
    …ん?セール中なのにゼンチ先生が居ない?

     お医者のゼンチ先生は頑固で義理堅い。そして頑固ゆえ一度決めたルーティンはなかなか覆さない老アイルーだ。その先生が手伝うと決めているセール中に手伝えないと言うことは、診療所に急患が入ったということじゃなかろうか。誰だろう、まさか教官!?

     診療所の入り口は閉ざされており、今の私では開けられない為仕方がないので二階の窓から失礼する。翔蟲は使えないのでここもやはり気炎万丈、なんとか腕力のみで屋根によじ登った。これが英雄の底力というものよ!
     窓から桜吹雪の吹き込む診療所の二階は入院患者用の部屋になっていて、やはり敷かれた布団に誰かが寝ていた。しかしそれはウツシ教官ではなく、彼はその傍らにいた。明るいところで見ると桜の葉色にも見えるつんつん髪、雷狼竜を模した装備は腰のニ刀と共に部屋の隅に積まれている。教官が自宅以外で腰のものを外すなんて珍しい。しかし散々探し回ったのにこんな目と鼻の先にいたなんて。こちらからは背中しか見えないが、どうやら教官が怪我をしたわけでは無いらしいと安堵して、しかし次にはその体勢がおかしいことに気がついた。
     …やや盛り上がった布団に上から覆いかぶさるように、教官は身を寄せている。布団の中身に負担を掛けないよう傍らに両手をついて、長い前髪が触れあって…いや近い近い近い、顔の位置近い近くない!?あれちょうど枕の上あたり、誰か寝ていたとしたら頭が乗っかってる位置じゃない?『小さな声を聞き取ろうと耳を寄せたところだよ!』って説明できそうな、いやいや顔の向き弁明できなくない??真っ昼間からはははこやつめ、ってこれは!!!!

    私のツワモノ。私の雷狼竜。わたしの。

    「私の教官の浮気現場現行犯発見突撃即確保ーーー!!!!!」



    『ピッ 警告 生体ユニット の 満充電を 確認 生命維持に 問題なし 速やかに 接続をーーー』



       ガツン!!!!


    「うぇあ!?!?」
     布団から跳ね起きた寝起きの私を襲ったおでこへの衝撃たるや!いったい!割れた!今確実におでこ割れたよ!!額を抑えて呻いていると、傍らで同じように顔を抑えてのたうち回っている人物に気が付いた。あれ?教官?
     ん?なんで教官がここに居るの?というかここは何処?私確か今、夢で許されざる大罪人の後頭部に怒りの893キックを入れようと―――
     あれ?夢?見てたんだっけ?
     ファンゴ、ラージャン、寂しいカムラ。ふと頭を過ぎった夢の残滓、その尻尾を掴む瞬間、耳元で炸裂した音爆弾Gがその全てをぶっ飛ばした。
    「っっっまなでし!!!!!!!!!!」
     ……あのね、教官のムキムキで全力で抱っこされちゃうとね、いくら愛弟子でも、潰れますからね。穴という穴から色々出ちゃうから。病み上がりなんだから、かげん、して…



    再度暗転。




     弁解させて欲しい。私は決して狩猟を舐めていたわけではないのだ。ないのだけれど、結果として準備不足からラージャンにボコられて一週間、意識不明で生死の境を彷徨っていたらしいのだから笑えない。らしい、というのは、ラージャンの分からせパンチを受けたあたりから記憶が飛んでいるからなのだけど。なんでも打ちどころが悪く、ネコタクがメインキャンプどころか観測拠点へ直行するほどだったらしい。言われてみればなんだか長くて酷い夢を見たような気がするけれど、どうにも霞かかかったように思い出せない。まあ悪い夢なんて早々に忘れるに限る。教官もそうだそうだと言っている。
     自分の未熟からカムラは元よりエルガド方面にも多大な迷惑と大きな心配をかけたということで、カムラで反省会と言う名のお説教をたっぷり受けたあと、謝罪とお礼行脚で訪れた観測拠点で、私は現在懲罰を受けている。

     罰。では罪とはいかなるものか。
     貴重な古代遺産を使った試作笛をぶっ壊した罪(やはり壊れたらしいあの笛、もったいないから今度ミレーネさんが重ね着に打ち直す予定らしい。変な音してたもんなあ)
     現在騎士団へ出向しているにも関わらず、勝手に観測拠点を離れた罪(なんか私が寝ている間教官がゴネて勝手にカムラに連れ帰った事を指しているらしい。理不尽では?)
     そして何より王族であるチッチェ姫に多大な心労をおかけした罪(チッチェたんは目の下に濃い隈を作っていた。これは本当にごめんね)
     …一部納得し難い説明もあったけれど、フィオレーネさん曰く、英雄に一時の休養を与えるために無理に理由をこじつけただけだから気にせず休め、とのこと。書類上、こういった形式が必要なんだそうな。書類って面倒くさいなあ。提督も(目で)そうだそうだと言っている。

     エルガドの空は今日も快晴。海風を受けながらアズキさんの茶屋で、監督責任がどうのこうのと理由をつけて引っ付いてきた教官と並んで団子を食べる。狩猟に出るわけではないので味はシンプルに三色団子だ。よりにもよって黄な粉を選んだ教官は、鼻の絆創膏に付かないよう四苦八苦している。そう、あのイケ面の真ん中にでっかい絆創膏。私の渾身の寝起きヘッドバッドで割れたのは私のおでこではなく教官の鼻骨であったらしい。壊れた蛇口のごとく鼻血を流しながら私を抱きしめて離さない教官はもはや何某かの怪異であったと、駆けつけたお医者は語る。
    「まあ、悪いことは出来ないって事だよね」
     遠い目をした教官はたとえ顔面絆創膏だとしてもイケメンであった。
    「悪いことしてたんですか。じゃあ教官も懲罰を受けなくちゃ」
    「俺は未遂だからね。もう罰はうけてるし、これ以上の罪には問えないよ!」
    「なぜドヤ顔。問えますよ?婦女子の寝込みを襲った重罪です」
    「み!す!い!!だから!!!」
     問いますとも。そうして教官にも一緒に罰を受けてもらうのだ。具体的には今日一日英雄のオトモとして、エルガドの露天を冷やかしたあと荷物持ちにこき使い、あと拠点の皆に振る舞う新作料理の下ごしらえを手伝ってもらって、実験台として一番に食べてもらうのだから!
     里長の許可はちゃんと取った。今日一日、その絆創膏面は私の専属なのだ。
     指差し胸張って宣言すると、教官は差された指を握って「それ、罰にならないよ!」と破顔した。

     エルガドの空は今日も快晴
     世はすべて事もなし。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤💜❤❤💜❤💜❤💜❤💙❤❤💜
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works