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    教官が集会場で吊るされていたその頃、たけほのちゃんは惰眠を貪っていたのだった、という話。
    やたら長くなっていたので分けました。

    作中、教官が狩猟前に情報伝達を怠るという有り得ないミスをしていますが、奴も思いっきり動揺していたということで許してください。

    ##それゆけ僕らの因習村

    猛き炎の嫁取り物語 激闘編 ヒノエさんとミノトさんのおうちは、この里で二番目に安全な場所だ。私が何をしても、何があっても味方で居てくれる稀有な人たち。一番は言わずもがな、なんだけど、今朝方その場所を放り出して来てしまった私は戻る事もできず、客間の布団で丸くなっている。

     どうしたら良かったんだろう。いや黙ってあの人を受け入れられたらそれが一番だったはずなのだ。知らないものにパニックになる悪い癖が出ないよう、事前に丹念に予習と復習を重ねていたというのに、私を組み敷いたあの人は……よそう。やはり絵巻物を借りた際ミハバかツリキに実物を見せてもらうのだった。泣いて勘弁してくれ死にたくないと拝まれたので断念したが、無理にでもひん剥いてやれば良かった。男性にも個人差があるから参考にはならないと言っていたがやはり絵と実物は違うだろう。全然違ったと言うかまともに見ることも出来なかったんだけど激おこフルフルもかくやというのは……いや、やめやめ!どうしても思考がそっちに行ってしまうため、どうにも布団から出られない。いやだいやだ、昼間から布団かぶって閨事を反芻してるだなんて、まるで私が、え、えっちな子みたいじゃないか!違うもんえっちな子じゃないもん、昨夜だって全然よくわかんなかったし、ただ教官が、手が大きくて熱くて、あああああああああもう!

     いやこれ、朝ごはんも食べずに布団に籠もってるせいじゃないのかな!思考が不健全に寄るのはお日様の光を浴びていないからだ、きっとそうだ。気炎万丈、いい加減布団から這い出てミノトさんが用意してくれた美味しい朝ごはんを頂きに厨へ行こう。
     日は既に高く、ヒノエさんとミノトさんはとっくに仕事へ向かっている。こんな時間まで布団に籠城する怠け者にも、ミノトさんはきっちり朝食を用意してくれていた。うん、今日も輝かんばかりの完璧な一汁三菜プラスαだ。山盛りご飯、味噌汁、焼き魚、作り置きの煮物や膾、香の物が数種類。ヒノエさんの為に日夜腕を磨くミノトさんの膳は質も量も申し分ない。受付嬢の仕事をこなしつつこれを朝晩。さすが私の食の師匠だ。
     ご飯が進むよう出汁を利かせた味噌汁を啜ってほっと息をつく。自分のお腹がくちくなると、他の人のお腹を気にする余裕が生まれるものだ……教官、朝ご飯食べたかなあ。狩りの基本は食事と睡眠、しかしあの人にとって食事とは「腹に溜まって栄養価のあるもの」全般を指す。放って置くと三食携帯食料で済ませかねないひとなのだ。やっぱり今からでもこっそり食事の用意を……

     だが立ち上がろうと正座を崩したところで、甲高いフクズクの鳴き声が耳に飛び込んできた。

     そういえば、ヒノエさんが出掛けに「万事お任せください」とサムズアップしていったけど、あれ何だったんだろうね?



     里長のフクズクに呼び出されたタタラ場には、難しい顔をした里長と、昨夜ぶりの教官が待っていた。お仕事の話なんだろうから、斥候として下見を済ませて来たんだろう教官がいるのは当然である。当然ではあるが、咄嗟に目をそらす。うひゃ〜顔見辛いな〜、師匠と弟子件新婚夫婦とか嬉し恥ずかしですな〜ぐへへ。なんて俯いて、里長への挨拶も御座なりに内心身悶えていると、どうも頭に刺さる教官の視線が鋭いような。お仕事モードでもない、里長のお話ちゃんと聞きなさい!とかのお説教モードでもない、強い眼光。
     あ、あれ?おこでいらっしゃる?

     あ、そう言えば。
     この人からしてみれば、初夜で伴侶に拒否られて、次の日の朝イチで実家に帰られた事になるんじゃないか?教官の寝息を確認して、夜明けを待ってヒノエさんとミノトさんのおうちに駆け込んだから、早起きな里の住民には目撃されていたかもしれない。なんてことだ、今気づいたけど男のプライド丸潰れじゃないか?うれし恥ずかし以前に。
     どうしよう、優しい教官も、とうとう怒っているのかな。ちらりと覗き見ると、この世の終わりのようなすごい顔でこっち見てる。だから里長はさっきから教官の襟巻きをひっ掴んでいるのかな。前のめりの教官の顔がどんどん赤黒くなってるんだけど、あれ締まってないのかな。里長の浅黒い二の腕にぶっとい血管が浮き出ている。ガチだ。むしろなんで襟巻き破れないの?加工屋脅威の新技術なの?
    「………ッッ猛き炎よ、そういう訳だからとりあえず大社跡で、の、狩猟を、頼む…!」
    「待って、ま、な、で、し……話、を!」
     流石に苦しかったのか、教官が振り向きざま苦無を閃かせ己の襟巻きを裂いた。ちょっと、いくら里長相手でもそんな至近距離で刃物は危ないですったら!人に刃物を向けちゃいけませんて教官に習わなかったの?あ、教官本人だった!しかし相手は里長、読まれていたかその腕を逆に取られ、関節を極めた里長が腰を沈める。投げ飛ばすんですかこの石畳の上に!?踏ん張れば関節を傷めるだけでは済まないと、教官は勢いを殺さずくるりと一回転、受け身を取ると拘束を解き距離を取ろうと後ろに下がる。「焚き付けたのはそっちでしょう、今更邪魔しないでください!」「今は落ち着けと言っておるのだ!」だがそこは問屋が卸さないとばかりにサポートに入るは頼れるガルク・カエンちゃん!目の前の里長に気を取られた教官はカエンちゃんの横からの突進を避けきれず、袴の裾を取られた……裾を、咥えてるだけだよね?噛み付いてないよね?ついには里長の3羽のフクズクまで攻撃に加勢し始め、頭上からの聞き慣れた羽音に教官が怯んだ隙に、里長が足を払う。いや払うなんてもんじゃない粉砕せよとばかりの膝への速く重い一撃に堪らず体制を崩したところで里長が教官を引き倒し、その背に乗り上げた。
    「さあ行け、猛き炎よ!俺に構うな、疾く狩猟を成し遂げるのだ!」
     え、あ、ハイそうですね!?とにかく狩猟ですね!!?
     里長の勢いに背を圧された私はその勢いでたたら場の階段を駆け下りて、アイテムボックスから汎用武器を引っ張り出すと慌てて船着き場まで走る。視界の端で教官が気炎万丈、里長を跳ね飛ばすのが見えたんだけど、あれ?なんであの人たち里の真ん中で全開バトルしてるんだっけ?分からない何も。





     久々に訪れた大社跡は随分と様変わりしていた。岩壁に張り付くよくわからない環境生物(?)、河原に蠢く大きなヤドカリ(?)。肩身が狭そうに泳ぐガライーバに目をやりながら、フクズクを頼りにモンスターを探す。断片的に聞いていた里長の説明では、今まで大社跡では見かけなかった大型モンスターだとのこと。そういうのでワクワクできる質ならどんなに良かった事か。
     そう言えばあの騒動で聞きそびれていたけれど、偵察には教官が行ったんだから、その正体を知っていたのでは?あんなに険しい顔をしていたからには相当強いんだろうか。
     ガルクで沢を登り滝を駆け上がる。フクズクが示すモンスターとの接敵まで、あと僅か。



     今まで対峙してきたモンスターは、少なくとも表情があった。喜怒哀楽が見て取れた。しかしアレはなんだ。牙獣種にも他の竜種にも無いまったくの無表情。いや表情が動くような生き物ではないのだ。水源の溜まりに陣取っていたのは、なんてったってカニだ。やたらデカいカニ。そして動きがまったくカラクリじみている。直線から直線、カクカクと振り上げられた鋏には遊びというものがなく、まるで誰かが紐で吊りあげているかのよう。
     落ち着いてみればこれはこれで愛嬌があると思えたのは随分あとの話で、このときの私は未知のモンスターに対していつもの悪い癖が発動しており、すなわち、識らないものには対応できない!
     振り回される鋭利なハサミがスパスパと空を、私の防具を皮膚を裂いてゆく。刃物傷、これも今までのモンスターには無かったものだ。なんとか距離を取ろうと跳び回るが、長い脚をカサカサと動かして瞬く間に接近される。早い早いキモイキモイ!
     今まさに振り落ろさんとされた大きなハサミ。その接合部にガチンと固く音を立ててクナイが突き刺さった。

    「落ち着いて愛弟子、ちゃんと攻撃を見るんだ!!!」

     夜の河原に場違いな大声が響く。遅いよ、教官の馬鹿!

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