🗽 あっという間に日が沈むようになり、風もぐんと冷え、かさむエアコン代で懐まで寒くなっていたところに、御剣が海外出張から帰ってきた。
ドアを開けるとまず目に飛び込んできたのは、なんだか久しい友人の顔と、彼の腰くらいまである大きなスーツケースだった。再会の挨拶もそこそこに事務所内に招き入れる。少し疲れて見える御剣の頬は寒さのせいでうっすらと赤く染まっていた。ぼくは彼の脱いだ黒い厚手のコートを受け取り、来客用のハンガーラックに掛けながら、「アメリカよりも日本の方が寒いの?」と聞いた。「あちらの方が雪が多いが、まあ、寒さは同じくらいだな」と御剣は答えた。
「それにしても、でかいスーツケースだなあ」
言いながらソファを勧め、ふと思いついて「子どもなら、ひとりくらい中に入れるんじゃないかな」と呟くと、彼は「まさか」と少し笑った。
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