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    はうう_311

    小説です

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    はうう_311

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    ああ書きかけええええァァ

    2/152/14の夜

    こんな日に何の意味があるのか。自分は何を期待していたのか。小さくため息を吐いた。何も変わらない日曜日だった。それだけだった。
    6人部屋の俺の部屋。日付を超えた今、彼らの寝息だけが響く。真っ暗の部屋に目が慣れて、薄くぼやけた視界。壁側の枕の隅に置かれた小さな箱。巻かれた赤いリボンは、この暗さでは黒く形だけを残す。
    合宿所の空調設備は就寝中は使えない。普段腹立たしいだけのこのルールも、今日に限っては幸運だと思った。この季節の寒さなら朝まで溶けることはないだろう。それともこれは不幸だろうか。いっそのこと全て溶けて、捨てることができればいくらかは楽かもしれない。
    本来ならばココではない。204号室に在るべきだったこの箱。昨日夜な夜な作ったチョコは、小さな小さな一粒だけ。原因は、一つしか成功しなかったことと、誰かにみられるリスクを回避するためにキッチンに立つ時間は10分と決めていたから。完成したブツを見られないようにわざわざ縮地法で部屋まで戻っというのに。


    今朝のことだった。誰もが合宿所へ届く宅配便を心待ちにしているような、何だか浮ついた雰囲気が妙に居心地が悪かった。自分だって作っていたくせに。いや、違う。これは決してバレンタインとかじゃなくて、彼が甘党だからお菓子をあげる、ガムのお返し、それだけだ。
    「ほらよぃ!これ全部好きなだけ取っていっていいぜぃ!」
    レストランの真ん中の大きなテーブルに焼きたてのクッキーを皿に広げて振舞っている。少し粉の着いたエプロンをつけた彼。周りには朝食をすませても尚腹が満たない食べ盛り達が群がっていた。
    「わんが全部もらうさぁ!」
    「あーん?ミカエルのクッキーに勝てるのか?」
    「美味しそうだね。丸井、これはローズマリーかい?」
    「おう!天才的だろい?めっちゃうめぇの!隠し味当ててみろい」
    一瞬で消えたクッキー達、その取り合いに俺が参加する訳もなく。上機嫌で笑顔と共にクッキーを配る彼を横目に、小さくため息をついた俺は一足先に部屋へ戻った。

    「おかえりなさい。それ貰ってあげましょうね。」
    「えいしろーのふらぁ!」
    「かしましい。アナタ最近また太りましたね。筋肉でも無いのに体重を増やしては、ビックバンの威力も下がりますよ」

    そういって、田仁志クンから取り上げた丸井くんお手製クッキーも何となく食べる気がしなくて。だからと言って平子場クンや他の誰かに渡したい訳でも無い。自分は一体何がしたいのか。

    そうして。そのまま。14日は終わった。
    結局渡す事は出来ず、その箱に眠るチョコレートと眠れないままの俺が完成した。

    寝不足のまま迎えた15日の朝の目覚めは悪かった。無機質な機械放送に耳を塞ぐ。
    【朝の練習メニューについて連絡する。8時に全員コートに集合するように。】
    放送のアナウンスがかかる、時計を見ればもう7時半。ユニフォームに着替えコートへ向かう。テニスをしているときは余計なことを考える余裕はない。

    と思っていた。のに、目の隅にいる赤い髪を追ってしまう。ワンダーキャッスル、あの鉄壁の守備が完成してから、また一段とその精度をあげた。部長という立場柄、他人のプレイを観察するのは癖のようなものだ。でも、それだけを言い訳にできない事は、噛んでるガムの種類が変わったことや新たに頬に増えた小さな擦り傷に気づいてしまう時点で、もうわかきりきっていた。
    「おい!しっかりボールみろし」
    相手コートからかかる声に逸れた意識が呼び戻される。
    今はそんな事考えている暇はない。集中。集中してただひたすらにボールを返して。
    日も暮れた頃に集合の練習終了の号令がかかる。
    ロッカールームのドアを開けると、着替え途中が何人か。カラフルな色をしたボトルのシトラスの香が強い。楽しそうに話す彼らはまだシャツのまま。
    「お、えーしろー」
    「木手さんもロッカーっスか?」
    「キテレツ!」
    「…人数、キャパオーバーですね。また後にします」

    俺はすぐに開けたドアに手をかけた。

    いや、つい、後ろを向いてしまった。というのが正しい。
    俺より白い柔らかそうな肌にボディシートを滑らせる彼の身体は筋肉がついて分厚い。
    「おう!キテレツ!お前のロッカー」
    言いかけた彼の声を聞き終わることはなくドアはパタンと閉じられてしまった。
    メニュー外の走り込みを終えて、ライトに照らされたコート。もう一度ロッカールームへ向かうと部屋には誰も残っておらず、少しのシトラスだけが鼻を付いた。

    ロッカーに手をかけて着替えを取り出す。

    [コト…]

    音に釣られて動く視線が捉えたのは無機質な床に転がる赤い小さなキャンディだった。
    数秒のフリーズの後昼の出来事を思い出す。
    (丸井くん…、?)
    拾い上げて飴を開く、両側に捻れた可愛らしい飴は妹が食べていたのを見る以外に目にすることはなかった。
    薄い霞んだビー玉のような飴はつやつやと薄暗いロッカールームの小さな蛍光灯を反射する。口に放り込むと鼻に抜ける多少安っぽいりんごの香りが部屋に感じたシトラスを掻き消した。久々に食べたこの飴は少し甘すぎて。でも、疲れ切った体にスポーツドリンクの甘さが効くように、舌の上で小さくなるその甘さにじわりと安心感を感じながら俺はジャージを羽織った。この飴を忍ばせた人物の様子を想像しながら、綻ぶ頬を眼鏡をかけなおして制止した。
    ふと、左手に残った外のフィルムはカサカサと音を鳴らす。
    これは手作りなのだろうか。その赤い正方形には小さく0119の数字が書かれていた。木手はその数字に思いあたりがある。今まで1番見てきた数字でもあるがそういう意味ではなくて。もうひとつ、思い当たるのは合宿所一階の談話室前。ロッカーの鍵番号だった。
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