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    ちみにぃ

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    ちみにぃ

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    10年前、友人に依頼されて書いたヴィジュアルノベル用の文章の冒頭だけちょろっと公開。
    純粋な小説ではなく、タップ進行型サウンドノベル用に合わせて書いてるので、変な改行や空白など、小説とは違う体裁になってますが、その辺はあまり気にしないでいただければ……。

    『月が満ちるまで』冒頭サンプル(?)満たされない――。

    私はずっと、『何かが足りない』という空しさに支配されて生きてきた。
    それはとにかく切実な感情で、何かにつけ私を苛立たせる。
    足りない『何か』を求めて、がむしゃらに努力した。
    勉強も、運動も、家事も――
    でも、どれもこれもポッカリと心に空いた穴は埋められない。埋めてくれない。
    焦燥感に駆り立てられ、走って、走って――けれど、足りない『何か』が何なのかさえわからないまま、私は十三回目の夏を迎えた。



    「それじゃあ、お母さんはそろそろ仕事に行くから」
    「はぁい、いってらっしゃい!」
    空がしらむのは季節がら早いが、山間やまあいにあるこの村に朝日が射し込むまでには、もう少し時間がいる。

    そんな、朝と言うよりはまだ早朝という方がふさわしい、この時間。
    朝早くから夜遅くまで、車で山道を二時間行った街にある職場へ働きに出る母を、玄関先でこうして見送るのが私の日課のひとつだ。

    朝靄を含んだ瑞々しい空気。水に濡れた緑の香り――。
    それらを深く深く吸い込むと、じんわりと体に染み込み、全身を巡って内側から浄化してくれるような気がした。

    「遅刻しないように学校に行くのよ。
    今日は天気いいみたいだから、お洗濯もお願いね。あと、ガスを使った後はちゃんと元栓を――」
    「わかってるってば!」
    母の言葉を途中でさえぎって、大げさに頬を膨らませてみせてから、破顔する。

    「もう中学生なんだから、いつまでも子ども扱いしないでチョーダイ!」
    「ふふ、そうね、ごめんなさい月夜つくよ
    あなたはとてもしっかりしているもの、大丈夫よね」
    そう言ってから、私の肩越しに家の中を見やり、

    「――太陽たいようも、少しでいいから見習ってほしいわ。双子なのになんでこんなに違うのかしら」
    大きくため息をつく。

    「お母さんったら、もう、またそんなこと言って。
    あの子にはあの子のいいところがあるんだから、あんまりそんなこと言わないであげてよ」
    「……あなたは本当にいい子ね。お母さん鼻が高いわ」
    母の温かい手が、弟をかばう私の頭を優しくなでた。

    「じゃあ、いってきます」
    「いってらっしゃい! 気をつけてね!」
    母は車に乗り込むと一度運転席から手を振り、ゆっくり発進した。


    家の前の道まで出て、遠ざかっていく母の車を手を振りながら見送り――車が村道から国道に入って見えなくなったことを確認して、対大人用の“いいこ”の笑顔を脱ぎ捨てる。



    『あなたは、本当にいい子ね』

    『太陽も少し見習ってほしいわ』

    太陽。月夜わたしの双子の弟。
    姉とは違い、何をしても冴えない出来の悪い弟。

    それが、大人たち――
    いや、太陽本人さえも含めた全ての人の評価だ。


    『あの子にはあの子のいいところがあるんだから』

    ――なんて、そんなことは微塵たりとも思ってない。
    太陽アイツにいいところなんて、ない。


    母の前で、大人たちの前で、私はいつも太陽をかばう。
    私が太陽をかばうふりをすることで私の評価はあがり、太陽の評価は反比例する。
    わたしが輝けば輝くほどに、太陽あのこは色褪せていく。
    そう、私は太陽を貶めることを楽しんでいる。


    双子なのに。いや、双子だからこそ。


    ――だからこそ、許さない。
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