『月が満ちるまで』冒頭サンプル(?)満たされない――。
私はずっと、『何かが足りない』という空しさに支配されて生きてきた。
それはとにかく切実な感情で、何かにつけ私を苛立たせる。
足りない『何か』を求めて、がむしゃらに努力した。
勉強も、運動も、家事も――
でも、どれもこれもポッカリと心に空いた穴は埋められない。埋めてくれない。
焦燥感に駆り立てられ、走って、走って――けれど、足りない『何か』が何なのかさえわからないまま、私は十三回目の夏を迎えた。
「それじゃあ、お母さんはそろそろ仕事に行くから」
「はぁい、いってらっしゃい!」
空が白むのは季節がら早いが、山間にあるこの村に朝日が射し込むまでには、もう少し時間がいる。
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