火照る体温で「寒い」と寂しがる君が「寒い」
自分の布団と客用の布団を分けて並べていたのに、木村はそう言ってもぞもぞと俺の方に入ってきた。寒いという割に高い体温の足が布団の中で絡められる。
眠りかけていた意識が覚めてしまい、体を横向きにして木村を抱き寄せた。
「なぁ鷹城」
「ん…」
「最近してなくない?」
何をしてないかと問われれば、真っ先に思い付いたのはセックスだった。多分木村も同じことを考えていると思う。
「…翼さんが忙しいからしょうがないだろ」
三週間ほど前に映画の撮影が始まり、それからゆっくり会うことが出来なくなった。そろそろ終わる頃だとは思うが、詳しいスケジュールはよく分からない。こういう時ユニットが違うことをもどかしく思う。
「そうだけど…」
目蓋を伏せる木村の額に唇をくっつけると、ぱちりと大きな瞳に見上げられた。早く翼さんに会いたいのは俺も同じだったが、二人の恋人として木村に寂しい顔をさせたくない気持ちもあった。
「二人でするか?」
「…する」
キスをしながら互いの服の間に手を入れて体を弄った。上顎や歯列、舌先を吸い上げると吐息の中に喘ぎ声が混じる。お互い口内が弱いのは十分理解している。口端から唾液が溢れて「あ」と小さく零すと、木村をそれを舐めてくれた。
「木村、後ろ? 前?」
「どっちも」
「分かった」
木村はどっちも一緒に触って貰うのが好きだった。下着とズボンを一緒に脱がせて布団の外に放り投げると、木村も俺に同じことをした。布団の中で露わになった下半身に手を伸ばして、勃起している性器を握った。
「木村、後ろは自分で触って」
「え、鷹城は…? ぁっ、」
「あとでいい」
「でも…ん、そうだ、待っ…て」
木村は体を上にズラして、ローションやコンドームが入っている箱に手を伸ばした。戻って来た手には淡いピンク色のローターが二つ。
「これ…前一回使ったきりだったよな」
目の前でスイッチが入れられると低い振動音が空気を揺らした。木村が布団の中に戻ってくると、それで唇をなぞられる。目線で訴えられた通り舌を差し出してから口に含んだ。濡らすように口の中で転がしていると、また振動音が聞こえた。
「んぅ…、んー、ンン…っ」
「はは、やらしー顔してる」
口内を微弱な振動で刺激されて変な気持ちになった。緩く首を振るとごつごつとした指で取り出してくれた。木村は二つを片手のひらに乗せて唾液を落とした。プラスチックと水音がぶつかる。
「はい、鷹城は俺のスイッチ持って」
「えっ」
「ナカ入れるよ」
「んぁ…!」
二人の間で動いた木村の手が俺の後孔に伸び、ぬるぬるとした楕円が一気に入ってきた。異物感に肩を震わせながら木村に縋りついた。
「俺のも入れてよ」
指先で受け取ったもう一つのローターを木村の後孔に押し当てる。片手にあったスイッチを入れてみると木村が声を上げた。ナカには入れずに振動で襞をなぞっていると、自分のナカに入ってるものも震えた。
「やだ、入れろ…て…鷹城…、」
「ん、ほら……はぁ、…っ」
「――ッ、あ!」
全開にしたスイッチを布団の上に置いて俺は木村の性器を、木村は俺の乳首を愛撫した。互いの声や唾液を飲み込むように口づけては背中を甘く震わせる。
(気持ちいい…けど、…)
前立腺を掠めてくる無機物に翻弄されながらも、その奥が疼いているのを無視できなかった。もっと深い場所に触れて欲しい。
「…たかじょ、う、奥…ほしい」
気持ちがいい場所も何を考えてるかも知り尽くしている恋人は、目に涙を溜めながら鼻を啜った。大分前にお互いの性器を入れたことはあるが、それをやると翼さんがちょっと拗ねる。言わなければバレないし、いまの状況なら仕方ないとも思うけど…。
「それは俺もだけど…次、翼さんに会う時まで取っておきたくないか?」
「う…」
「翼さんも褒めてくれると思う」
「…分かった」
頭を撫でてから勃っている性器を擦り合わせる。手のひらで亀頭を刺激すると蜜が溢れ出た。体液で湿ったモノを両手で扱くと同じタイミングで情けない声を出してしまった。
「はぁ、鷹城の手、きもち…っ…」
「俺も…木村が入れてくれたローター、…いい…」
このまま出してしまおうと手を早めると玄関の方から鍵の開く音がした。咄嗟に肩まで布団に潜り、木村と額を突き合わせた。聞き慣れたキーケースの音や足音は翼さんのものだった。そもそも合鍵を渡しているのは翼さんと木村だけだ。
頭の上で止まった足音がその場にしゃがんで言葉を発した。
「二人とも起きてるでしょう」
「……」
「なんでズボン脱いでるの?」
肩を開いて翼さんを見上げる。木村が先に「おかえりなさい」と言った。
「一応メッセージは入れたんだけど、やっぱりもう布団入ってたんだね」
「翼さん撮影は…?」
「今日前倒しでクランクアップになったんだ。だからちょっと驚かそうと思って来たんだけど…」
翼さんの指が枕元に置いてあったローターのスイッチを撫でた。振動が止む。
「仲間外れにされるとちょっと寂しいな」
「ご、ごめん…翼さん」
木村が謝りながら上半身を起こすと、そのまま翼さんに唇を奪われた。唇の隙間で舌が絡められるのを眺めていると、自分の喉が勝手に鳴った。
「ね、オレも入れて」
エメラルドグリーンの視線がこちらに向いて、俺は自ら手を伸ばした。唇を割って熱い舌が入って来ると胸がいっぱいになった。微かに木村の味がする。
***
「あァ…! ふか、ぃ…もっと、もっと…う、!」
「龍くん、ローター気持ち良かった?」
「や、翼さんが、良い…つばさ、さんのちんこ、…ひ、ぁ…」
バックから突かれている木村の横で、俺は仰向けに寝転がっていた。二つのローターが入った後孔を翼さんに晒しながら、全身をビクビクを揺らした。スイッチを持つ翼さんの左手を見つめても、いつ強弱を切り替えられるのか予測出来ない。
「翼さん、俺も…もっと奥まで入れてほし…」
浅い位置で振動する球体がもどかしくて身を捩った。しかもペニスを触るのを禁じられてしまい、小さく立ち上がった自分の乳首を必死で捏ねた。
「恭二くんは焦らされるのが好きだから、まだダメ」
「あああっ…!」
二つが明らかに強く振動して、思わず腰を浮かしてしまった。恥を感じる暇がなく、足をより大きく開いた。異物を入れられながら勃起している自分の性器から蜜が垂れる。
「んっ、龍くん…ナカに出していい?」
「は、い…はいっ、さんしゅうかんぶん、の…ザー、メ…っ、ぁあ、ン!」
四つん這いだった木村の体が崩れて尻だけを高く掲げた。メモリを最大に回されたままのスイッチが布団の上に放置され、その手で木村の腰を掴んだ。翼さんが少し乱暴に腰を打ち付けると喘ぎ声が激しくなった。
「――! ひっ、ん…――っ、っ!」
その声に隠す様に俺は一人で中イキした。中イキがすっかり癖になってしまい、自分でも上手くコントロール出来ない。ピントが外れたような視界の端で、翼さんが達したのが分かった。首を緩く横に倒すと、木村は褒めるような甘いキスを受けていた。
動き続けるローターに息が上がる。
「恭二くん、いま取ってあげるね」
スイッチを入れられたまま紐を引っ張られると、入り口のところで球体が一度止まった。排泄感に堪えながら二つを取り出してもらう頃には、内壁が期待するように痙攣していて怖いくらいだった。
一度射精したとは思えないほど大きい翼さんのペニスが襞に触れる。
「つ、ばささ…待って、おれ…」
「恭二くん、何回かイってたよね?」
呂律が上手く回らない。
「ホントにナカ好きだね」
「ごめ、我慢できなくて…ごめんなさい」
「いいよ、その変わりちゃんとオレのでも気持ちよくなって」
「ん…がんばる…」
木村が横にくっついてきて乳首を舐めてくれた。まだ達してなかったのか自分の性器を扱いて、先走りを俺の肌に塗りつけて来た。強く突起を吸われて息を吐くと、狙ったように翼さんに一気に突き上げられた。
「あ”、ァ…! あっ、あ、ソコ、ぉ…だめだめ、…やぁ、――!」
「溜まってたからかな…いつもより奥に届いてる」
届いてる、というより届いてはいけない場所を突かれて眩暈がした。
「翼さん…俺もあとでもう一回…」
強請る木村の熱い吐息が掛かり、胸の突起がピンと痛いくらいに張った。ナカも外も気持ちが良くて、俺は何度も意識を飛ばしそうになった。
ーEnd.