山のおうち 険しい深山の道なき道を、飛ぶように行く。
冬枯れの木立にしがみつくように残る葉が寒々しく、吐く息は視界を奪うほどに白い。
寒さが足の裏から身体の芯に凍み入ってくる冬の山奥で、インナーにタートルネックのニットを着てはいるが、中綿すら入っていない裾と袖の長い綿の交領衫に簡素な綿の帯を結び、足下もまた綿の褲子に半長靴、荷物すら持たない軽装だ。その上にも、膝まで届く長い藍い髪に白皙の美貌。登山者に行き会おうものなら、相手は無限を人外と見て逃げ出すだろう。
「ねー、師父。こんな山の中だし飛んじゃえば」
胸元からひょっこりと顔を出した黒い仔猫が、そう言って顔を顰める。
「駄目だ。規則だからな。それにもうすぐ着く」
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