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    @nonokonono05

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    前からぶつぶつと呟いていた一次創作の化け猫と犬神のやつ。
    化け猫が月さん。犬神がシロ(四郎)さん。
    月さんの元の姿は黒猫で、シロさんの元の姿は白い犬です。

    ##一次創作

    いつのことか思い出せないが、俺は遊郭の庭の茂みで生まれた――と母から聞いた。
    名を呼ばれれば「にゃあ」と愛想良く答え、身体を撫でさせてやる母を、人間たちは「おとら」と呼んで可愛がった。艶のある美しい虎毛が名の由来なのだと、私たちの毛繕いをしながら母は誇らしげに教えてくれた。身嗜みは大切なのだと。
    そんな人慣れした母も、俺たちに乳を含ませている時だけは近づく人間に毛を逆立てて牙をむく。俺たちを抱えこむ前脚にギッと力がこもり、指先から鋭い爪の先がのぞいていた。
    母の爪が閃く前に「今は気が立ってるからやめな」「乳をやってるとこへちょっかいだすんじゃないよ」などと、もののわかる人間が口をだして、母の手は元のふくふくとした柔らかな手に戻るのだ。俺は――他の兄弟姉妹も――この手にしがみついてじゃれるのが好きだった。
    皆でじゃれあい、腹がすいたら乳を吸って、眠くなれば母にくっついて眠る、そんな日をいくつ過ごしたか。乳離れをむかえた兄弟姉妹はすんなりと行き先が決まり、一匹一匹と去っていった。けれど母は俺ともう一匹の兄弟――一緒に生まれたものだから兄だか弟だかわからない――をなかなか手放そうとしなかった。
    「お前たちはもう少しそばにおいて、よく見ておかないといけない」「もう少し母ちゃんのそばにいておくれ、寂しくなるから」そう言って笑ったあと、かならず真剣な顔で続けるのを、俺たちは話半分に聞いていた。「人間の前で喋ってはいけない」「立ち上がって歩くのもいけない」「人間に見つかれば、皮をはがれて三味線にされてしまう」と。
    それから――。







    「――ある時ね、兄弟が言ったんだ、廊下を通って座敷へ運ばれていく台の物を見て。うっかりさ」
    「あれ、美味そうだ」と。その瞬間、いっせいにこちらを見た人間たちの強ばった顔。
    「化け猫」と叫ぶ人間の声と、自分の失態に驚いたのか動くのが遅れてとっ捕まった兄弟の鳴き声。咄嗟に兄弟を掴んだ人間の腕にとりついてガブリと噛んだけれど、すぐに振り払われてしまった。
    「シロさんみたいな口なら、もっとしっかり喰いつけたかもしれない」
    猪口の中の酒から、俺の話を黙って聞いてくれているシロさんに視線をうつす。
    シロさんの口は大きい。怒ると毛が逆だって獅子みたいになる。妖力が足りないときの白いふわふわした毛玉みたいな子犬の姿――子犬の時分に犬神になったせいだと聞いた――も愛らしいが、あの獅子みたいな姿は堪らない。
    俺があれくらい強かったら。――いやでもシロさんだって最初はふわふわの子犬か。
    自分の考えの定まらなさに、ふっふっふと笑うと酒臭い息が漏れる。ここは遊郭の庭じゃない。あの廊下でもない。狭い棟割り長屋の一室だ。
    そして自分は酔っ払っている。
    ここまでくると先が読めてしまったのか、シロさんは顰めっ面で猪口にそそいだ酒を飲み干すと慰めるように俺の頭を撫でた。
    「俺はすっ飛んできた母さんに助けられて――結局、誰も三味線の皮にはならなかったんだよ」
    兄弟は若いけれどオスで黒猫だったし、母はメスだけど年を重ねて子も産んでいる。どちらも三味線にはむかなかった。
    おまけに子が化け猫なら親も化け猫かもしれないということで、遊郭の庭の庭木に囲まれた――お客から見えにくい――場所に、祟らぬよう小さな墓が建てられた。なので随分前に一度だけ人間のする墓参りというやつもしてみた。
    「でもあそこには誰の気配もなかったから、無事にあの世へ行ったんだと思う。ちょろちょろして迷わないように、母さんが兄弟の首根っこくわえて連れてったのかもしれない」
    「まったくもう!」と怒る母と、しょぼくれたままひきずられていく兄弟が目に浮かぶ。
    他の兄弟姉妹はどうなったろう。急に一匹になって雨風しのげる住処もなくなったものだから、しばらくの間それどころではなくて確かめられなかった。
    「探してみたらよかったかな――」
    「お月さん、そろそろ休んだほうが」
    ずっと黙っていたシロさんが口を開いた。焦げ茶色の瞳が心配そうに覗きこんでくる。
    「飲みすぎた?」
    「いつもと同じくらいです」
    「――なら喋りすぎたか。明日、もし俺が頭を抱えて唸りながら忘れてくれって言ったら、シロさんは優しいから忘れてくれるだろうね」
    頭を抱えて唸る自分がありありと想像できる。なんだか笑いがこみあげてきた。シロさんの総髪に指を差し入れて、括っていた紐を解いてしまっても、シロさんは物言いたげな表情をしただけで怒らない。
    「明日、結ってあげるからね」
    「私より早く起きられたらお願いします」
    俺がごろりと転がって、胡座をかいた膝に頭をのせてもそのままだ。いつもなら近所の猫たちから俺が犬くさくなったと苦情がくる――とかなんとか言ってよけられるのに。
    「――悲しい話じゃないよ」
    「わかっています」
    自分の部屋へ帰れとも言わない。
    シロさんの大きな手が瞼をおおって、目の前が真っ暗になった。
    「大事な話なのもわかっています」
    ただただ静かな声が降ってくる。
    そうだ、大事な昔の話なんだと声に出して答えられただろうか。酒の酔いとシロさんの手のひらの温かさであっという間に眠い。人の姿に化けようと猫は猫、眠るのは大得意だ。
    「なので忘れるのは無理ですが、忘れたふりなら――」
    おや、と小さな呟きが振ってきて、それからすぐに何かがばさりと身体にかけられた。おそらくシロさんが羽織かなにかをかけてくれたのだ。
    あぁ、もういけない。もう眠い。温かい。シロさんの匂いがする。
    「……明日はきっと苦情の嵐です」
    シロさんが小さく笑う気配がする。なにか答えたいが今は言葉がまとまらない。明日にしよう――と思いながら俺は意識を手放した。
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