戦場の花土煙と噎せ返る焼けた肉と血の匂い、そういった戦場の匂いが好きだ。
死と隣合わせの空間、唯一生を実感できる場所
死ねないけれど
それでも肉が裂け血が出れば痛みを感じる、それで俺は生きている事を実感できた…
大きく息を吸い込み竜騎士特有の跳躍力で一気に最前線へ向かう、道中帝国の砲撃を受けるも身軽に躱し魔道アーマーの乗員目掛けて槍を振り下ろす…その一瞬に見る帝国兵の恐怖に染まる顔、溢れ迸る鮮血と匂い…昂る胸を抑えつつ敵軍を惑わせるように遊撃を開始する。
「甘いっ…クソがってめぇらにはこの程度しかいないのか」
生ぬるい返り血に塗れながら、敵将を睨み槍で突き殺せば陣は蜘蛛の子を散らすように散っていった。
もっともっと俺を滾らせ昂らせるモノは居ないのだろうか
そう考えながら空を見上げる
(ゼノスが死んで…何もかもつまらなくなってしまったな…)
あの時、あの空中庭園で言われた言葉を何度も何度も頭の中で繰り返す。
(お前は、俺と同類だよ…)
(今頭の中を占めているのは最後の戦いがどの様な愉しみをもたらすのかだけ…早く戦いたくて疼いているのだろう?)
あの時、俺は自分の中で戦いを殺し合いを楽しんでいる自分がいるのに気づいた。だが…それは救いでもあった、戦場では何もかもが平等だ殺すか殺されるか…限りある命あるモノの特権とも呼べる命の奪い合い、建前の正義や政治などどうでもいいのだ死ねないモノだから命の削り合いの場戦場こそ唯一生の実感を得られる。そう物思いにふけっていると空に紅い流れ星が通った…
(紅い流れ星…か…否、違う…なんだあれ)
よく目を凝らして見れば何やら見たことの無い紅い大きなモノが此方に近付いてくる、紅い巨体は土煙をあげ轟音と共にセリウスの目の前に着地した…
そして一瞬の静寂の後機械音とともに女性の声が響き渡る
[エオルゼアの英雄を捕捉、速やかに排除します]
排除の言葉が聞こえる前に、セリウスはイルーシブジャンプで後退した後すぐさまハイジャンプ、スパインジャンプを繰り出し得体の知れない巨体を空から翻弄する。速く連続した攻撃を受けるまま紅い巨体は揺れ体勢を崩し、中に居る女性は狼狽えている。が
[ルビーの爪を甘く見ないでっ]
その一声でルビーと言われた紅い巨体は、瞬時に手の部位から爪のようなものを伸ばし地面へと突き刺す。セリウスはなにか来ると後退しようと足を踏み締めた途端、辺りの地面が泥のように柔らかくなりセリウスの脚を捉えた
「っっ不味い…ッ」
咄嗟に槍を軸に地面に埋まった脚を力づくで抜き、思いっきりのジャンプで後退する。しかし相手は即座に埋まっていない方の腕から爪を伸ばしセリウスの脇腹を抉り刺し地面へと落とす。
(ぁ…やっちまった…戦況的に撤退したい所なのに、)
肉が裂け燃えるような痛みを伴いながら血を流し地面へ叩きつけられるも、痛みを堪えて次の一手が来る前に全力で撤退する溢れ出る血を抑えつつ作戦本部に転がり込み意識を落とした。
激痛で目が覚めれば目の前の治療師と思わしき青年と目が合う。信じられないと言う目をすれば駆け寄ってきて
「君っ…生きてる?わかる意識は大丈夫?…??」
頭に激痛が走るも、片手を上げてちゃんと意識がある事を示せば青年は驚きながらもホッと胸を撫で下ろしていた。
「良かった…本当に良かった、生きてるのが不思議なぐらいの怪我だったけど…良かった」
ぽろぽろと涙を流しぎゅうと、手を握ってきてセリウスは目を丸くした。
また何人かの怪我人が運ばれたらしく、涙を拭って名前を聞く前にバタバタと部屋を出てしまった彼を見送り静かに天井を見上げた。
何も知らないとはいえ致命傷を受けていた自分に治療を施し治癒魔法をかけ続けていた青年…普通なら致命傷を受けている者は見限りまだ間に合う者を優先するはず、何度死体置き場で目を覚ましたか覚えていないぐらいなのに、彼は少しの息だけで諦めずに治療し続けてくれたのだ。
(だがこれは…また提督に怒られるなぁ)
そう思いながら微睡みに沈もうかと思えば、所属する黒渦団の治療師と隊員が様子を見に来れば、あと小一時間後にセリウスと暁の面々を交えた戦況報告と作戦会議があるので出来たら出席して欲しいとの事で了承した。
そして戦況報告を各自終え、今は撤退しているが新たな驚異となる紅い巨体の魔道兵器の情報収集、突然と意識を失い昏睡状態になってしまった暁のメンバーの対応諸々を終え、ラウバーンやアイメリクに一度休めと何度も念を押され報告も兼ねて一度リムサに帰ることになった。
帰港するなりリムサに残っていた黒渦団の隊員にすぐ提督の元へ来るように伝達が来て、戦々恐々としながらメルウィブ提督の元へ向かった。
「…で、また常人なら死ぬ程の無茶をしたそうだね。全く原因も理由も不明な上検査をしても特に異常はないとは言え、無茶は禁物だ、貴公はエオルゼアの英雄である前に我々黒渦団の隊員なのだからな気をつけたまえよ。」
「はいはい、次は気をつけますよ提督。」
困ったように笑い、肩をすくめてから礼をし部屋を後にする。
あぁそうだ…あの時治療師の青年名前くらい聞いておけばよかった。あんな必死に俺の手を握ってきて心配そうに覗いて来たのに、礼のひとつも言えなかった、またいつか出逢えるだろうかその時はちゃんと礼を伝えられればなと思いつつ、リムサの青い空を見上げながら宿に向かった。