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    雨宮さくら

    @sakura_craft_BB

    20↑↑/お絵描き作文練習中/迅悠一の安寧と祝福を祈る女

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    雨宮さくら

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    眠くて燃料を求めてたら通りすがりのろくろ売りさんが売ってくれたんで有難く回したやつ
    なんか長くなったし愛着もわいた(?)ので記念に

    『予知能力で不治の病の人が苦しむ前に殺す完全犯罪者とそれを追う刑事』消灯後の個室の病室、7〜8歳の少年がベッドの上で半身を起こしてぼーっとしている。そこに現れる黒い帽子に黒のロングコート、黒のスラックスに黒の靴という黒づくめの男。
    「辛いかい?君が望むなら、おれが痛みも苦しみもない世界に連れてってあげる」ゆっくりと男の方に視線を向ける少年「…だれ?」「見てわからない?死神だよ」「そっか。行きたくないって言ったらこのままここにいられるの?」「うん。君が本当にそれを望むならね」「ぼくはもう治らないんだ。でも、お母さんが頑張ってって言うから……」「辛くて苦しいのは君自身なんだ、君の意思が優先されるべきだよ。おれと一緒に来るなら自殺にはならない。君は何も悪くない」「…………じゃあ、」

    コーヒーを飲みながら新聞から顔を上げる黒髪の美丈夫、嵐山。がやがやと賑やかな警察署。デスクの上にはサンドイッチ、昼休みの様子。
    「また病院で殺しか…。今度はまだ幼い少年だそうだ」向かいの席の同じ年頃の青年「同一犯っすかね」「決め付けてかかるのは危険だが、その可能性は高いだろうな」「不治の病を患う人間だけを殺して回るってすごいっすよね。しかもこんな短期間で何人も。どうやって知ったんでしょうね」「さてな。その手段さえわかれば待ち伏せて捕まえることもできるかもしれないが…」「まーそのへんは頭脳労働派の人たちに任せましょ。俺たち肉体派はこの後どうします?その子の家族と病院の人に聞き込み?」「だな。成果があるとは思えないが、万が一があるからな」
    これで同じような事件はひと月で8件目。全て入念な聞き込みをしたが何の手がかりも得られていない。最後のサンドイッチを口に放り込んで席を立ち茶色のトレンチコートを羽織り鞄を持つ。話していた男も同じような動作で後を追った。

    ある雨の日の夜遅く。今日も何の成果もなかった嵐山が家に帰ろうと灯りの少なくなった街中の通りを歩いていると(昔のイギリス的世界観イメージ)、建物同士の隙間、細く暗い路地裏でぐったりしている男を発見する。雨の中傘もささず建物の壁に背を預けている青年を放っておけるわけもなく、慌てて駆け寄り声を掛ける嵐山。苦しそうに眉を寄せ、呼吸も辛そうだ。
    「大丈夫ですか!?」「……ぅ、はぁっ、だいじょ……」
    そう答えてなんとか視線を上げた青年は嵐山の顔を見てほんの一瞬、目を見開き驚いた顔をして固まった。それには気付かない嵐山。
    「返事ができるようで少し安心しました。この雨ですし、このままここにいたら悪化するばかりでしょう。動けないなら俺が背負ってご自宅か病院までお送りしますよ」「いや、もう少し、放っておけば、落ち着くから、本当に大丈夫……」「何言ってるんですか。じゃあ俺の家行きましょう、この近くなんで」
    そう言ってぐったりして抵抗できない男を本当に背負おうとした嵐山に、青年は慌てて声を上げる。
    「まっ…ちょっと待てって!」「いやこの状態の人間を放ってはおけませんよ」
    少し呼吸が落ち着いた青年は、しぶしぶ口を開く。
    「ふたつ先のブロック、角の喫茶店。そこまで連れてってもらえれば大丈夫。職場なんだ」「職場で休まりますか?」「大丈夫、よくあることだから向こうも慣れてる」
    それならば、と背負おうとしたら青年が物凄く嫌がったので肩を貸して歩く。傘をさしてはいたがびしょ濡れの男を支えていたし男二人でははみ出してしまい嵐山も濡れてしまった。よろよろと歩く青年を支えながらも数分で到着するが当然喫茶店は閉店してる時間でドアがあかない。必死で強くドアノッカーを叩くと中から壮年の眼鏡の男。
    「誰だ誰だ、もうとっくに閉店してんのは見りゃわかるでしょ…って迅!?」「ごめん店長(ボス)、ちょっと休まして…」「お前またか、少しでもやばいと思ったら無理せずさっさと来いって言ったろうが。兄ちゃん、こいつ連れてきてくれてありがとな。ついでに上まで連れてくの手伝ってもらっていいか?」「はい、もちろん」
    二階の部屋に連れてってびしょびしょの服を着替えさせて寝かせ、下に降りてコーヒーをすすめるもすぐ帰るんでって断られてしまう。
    「今更だけど兄ちゃん、名前は?」「嵐山です」「嵐山君ね。近くに来たら寄ってくれよ。大したものは出せないが礼をさせて欲しいからさ」「ありがとうございます」

    非番の昼、早速珈琲屋に行く嵐山。カウンターの奥にいたのは店長ではなく迅。
    「よ、来てくれたんだ」「今日は元気そうで何よりです」安心して微笑む嵐山。迅はカウンターに案内して水とメニューを出す。
    「こないだはほんと助かったよ。ごめんな手間掛けて、ありがとな」「気にしないで下さい、困った時はお互い様ですから」「敬語はいいよ、同じくらいの年頃だろ。苦手なんだそういうの」「そうか?じゃあお言葉に甘えて」「今日は奢るから好きなの頼んで」
    そんなつもりじゃ、と断る嵐山へ押し切ってオススメコーヒーとケーキを出す迅。おいしい、と感動してる嵐山ににっこり笑う。料理は奥でレイジさんがやってる、コーヒー入れるのは店長の林藤さんが上手くてそれを教わった、職場って言ったけど家みたいなもんだしスタッフは家族みたいなもん、みたいな話を世間話テンションでする。
    「倒れてたのは持病かなんかなのか?迅も林藤さんも慣れてる様子だったから」「んー…まあ、持病っちゃ持病だけど。たまにしか発作出ないし、普段は早めにどっかで休むんだけどね。こないだはちょっと見誤ったんだ」「病院で検査してもらったりは…」「してない。まあ原因に予想はついてるし、薬で治るようなもんでもないからさ。それより嵐山のことも聞かせてよ」
    露骨な話題転換に聞かれたくないのだと判断し自分の仕事の話や可愛い弟妹のことを話す。これをきっかけに仲良くなり、この店の常連になる。二人きりの時にちょっと仕事(今追ってる連続殺人…)の愚痴を言ったりしちゃう。それに時に軽く時に真剣に相槌打ったり、迅も日常の面白エピソード話したりして、お互い良い奴だな、って好感度どんどん上がっていく。

    止まらない殺人。周囲の話から、本人が(口にしてなくても)もう生き続けたくなかったであろうこと、遺族の深い悲しみ、犯人に対する怨恨、騒ぎ立てる無関係な人間、世間では犯人へのヘイトが溜まっていく一方で本人にとっては逆に良かったと思うよとこぼす擁護派も一定数存在していたことを知り、事件と犯人について考えが揺れる嵐山とその部下。
    「俺の立場でこんなこと言っちゃダメなのはわかってますけど。……本人としては救われたのかもしれませんね、犯人に」
    「…………犯罪は犯罪だ。俺達の仕事は、法を侵す人間を捕まえる事だよ」

    長い追いかけっこの末、やっと遠目に犯人の姿を見る事ができた嵐山。だが深く被った帽子のせいで顔が見えない。
    「どんな考えでこんな事をしているかは知らないが、人間の命を奪っていることには変わりないんだ!絶対、捕まえてやるからな!!」
    その言葉を聞いた犯人の口元が歪んだ気がした。

    その日から何度目かの、犯人との遠目の邂逅。嵐山はその中で、犯人と迅に共通した癖を見つける。ちょっとした仕草だが、犯人と迅くらいしか今まで見たことのないような仕草。まさかな?とは思うが、振り返ってみるとちょっとした心当たりがなくもない。その日を境に喫茶店に行く目的が、友人とのひとときを過ごすため、だけではなくなっていた。

    そしてまた何度目かの犯人との接触。とうとう姿が見え、やはり迅だと判明する。
    「あはは、とうとうバレちゃったか。でもおまえ、もうおれのこと疑ってたもんな」「……わかってたのか」「そりゃね。嵐山、腹の探り合いには向いてないと思うよ」「迅、お前どうしてこんな事をしたんだ」「んー、でももう理由はわかってるだろ。それで合って──おっと、こんな作戦でおれを捕まえられると思った?」
    じりじりと姿を隠し近づいていた精鋭たちがぴたりと足を止める。
    「万が一があるかもしれないだろ?逃げ隠れがどんなに上手でも迅だって人間だ」
    その言葉にふ、と嬉しそうに笑う迅。
    「だといいけどね。んじゃまたね、刑事さんたち」「あっ待て!話は終わって──っっ、全力で追え!!!」
    ひらりと姿を消す迅、周りに潜んでた仲間たちと追おうとする嵐山。だがあっという間に夜闇に紛れて消えてしまった。

    次の日に喫茶店に行くと、案の定姿は見えない。カウンターにいる林藤に迅はどうしたのか可能な限り平静を装って尋ねると一言、「辞めたよ」と返ってくる。思わず出てくる溜息、俯き強く握りしめた拳。「迅っ──……」

    それからまた何度目かの対峙。雨の夜、今は使われていない古い線路を駆ける迅と、それを追う嵐山。他の追手は既に振り切られた。行く手にあらわれた蔦や茂みに覆われた廃駅。軽やかに屋根まで登った迅は、まだ距離のある嵐山へと振り返る。
    「追いかけっこはここまでだよ、嵐山」「逃がすか!」
    駅舎の向こうに姿を消そうとする迅にとうとう発砲する嵐山。足を撃たれてバランスを崩し倒れる迅。そっちかぁ、という小さな呟きは雨の音にかき消された。
    「悪い、大丈夫か!?」「あはは、大量殺人の重犯罪者に刑事がかける言葉じゃないでしょ…。めちゃくちゃ痛いけど大丈夫だよ」
    苦笑しながら迅は座り込んだまま嵐山に向けて腕を広げる。
    「おめでと。おまえの勝ちだよ、あらしやま」「迅……」
    ふらふらと吸い寄せられるように近付き、ぎゅっとその背を抱き締める嵐山。
    「馬鹿、おれじゃなかったら今頃殺されてるぞ。もっと警戒しろって」「迅だからに決まってるだろ」「……ばかだなあ」
    嵐山には見えないその表情は、眉を下げ笑みの形を作っているのに泣きそうに見える。
    「……そろそろ行こ、いくらおまえでも風邪ひくよ。あ、おれ歩けないから背負ってってね」
    いつも通りの軽い調子の台詞と、手首を合わせて差し出された両手。嵐山は辛そうに表情を歪めながらも、躊躇いなく手錠を掛けた。

    雨の中、迅を背負って署に向け歩く嵐山。まだ人里までは遠い。今のうちにと、背に向け話しかける。
    「なあ、どうして突然こんなことを始めたんだ?」「んー……ま、嵐山ならいいか。おれどうせ死刑だろうし」「──っ、少しでも罪が軽くなるように、俺も頑張るから」「あはは、ありがと」
    秘密にしてくれたら嬉しいけどね、恥ずかしいから。と軽い調子で動機を語り出す迅。
    「おれにはね、未来が視えるんだ」
    数年前に親同然の人が不治の病にかかり余命残り少なくなった頃、この先ひたすらに苦しんで死んでいくのが確定で視えてしまったこと。苦しみだけになってしまう前に終わらせようとした自分に、その人が『俺はギリギリまで生きてお前を見守っていたいし、お前の手も目もそんなことに使ってほしくない』と怒ってくれたこと。視えた通りに何日も何日もひどい苦しみの中で死んでしまったこと。その様子を見ているのが本当に辛かったこと。悲しみの中、自分の目は苦しむ人を救うためにあるのかもしれない、と思い立ち、毎日見舞いで訪れていた病室に同時期入院していた人がそろそろ危なそうだったことを思い出し様子を見に行くと、やはり同じように苦しみ続けて亡くなるのが視えた。本人は身寄りもないしもう終わりたいと会話の中で匂わせる。その晩はじめての犯行に至ったのだ。
    「それでも生きたいっていう相手には勿論何もしないよ。色んな病院みて回ってね、辛い死を迎える人だけに声掛けてる。知らない相手に事前に意向を聞くのは難しいから、聞くのは殺す直前になっちゃうけど」
    やはり優しい奴なんだな、どこで考え方がズレてしまったんだろう、と思う嵐山。そして人里まで降りてきたふたり。部下たちが駆け寄ってきて、迅は連行されていく。複雑な顔でそれを見送る嵐山。



    ある晴れた日の商店街。ご機嫌な嵐山がニコニコとたくさんの食材を買い込んでいる。そのすぐ後ろから呆れた声がする。
    「そんなに買い込んでどーすんの…二人じゃ食べきれないでしょ。しかも調理すんのおれだし」「迅の食が細すぎるんだ!もっと食べて体を鍛えないと俺と一緒に働けないだろ」「やだよおれ頭脳派なんだよ、アクションじゃなくてサスペンスとかミステリーで活躍するタイプ」「?」「おまえはアクション作品っぽいから一緒の仕事は遠慮したいって話」「遠慮しなくていいんだぞ?」「真意を汲んで!?」
    仲良く買い物する二人。
    あの後当然のように死刑判決が出たが、持てる限りの金とコネを使って裏ルートで取引をし、迅から目を離さないという条件で釈放してもらったのだ(裏に強い林藤や喫茶店常連の唐沢などもめちゃくちゃ協力してくれた)。世間的には死んだことになっている。嵐山が仕事で外に出ている間は(未来視を使うと便利な仕事とかには)ついていくこともあるし、署で見張られながら事務仕事をして働いたりしている(嵐山の部下とは結構仲が良くてよく隣同士で仕事してたりする)。未来視が必要なお偉いさんたちの仕事についていったりもする(勿論迅への警戒も完全にとけてないから別に護衛もつく)。迅にはこの未来もわずかに視えてはいたが、自分の精神状態が異常である自覚はあったので自身の願望からくる幻覚だろうと思っていた。
    この後なんかでかい事件とかを二人で解決したりして常時監視が解ける+戸籍的なのを新たに用意してもらい普通に生きていけるようになるが、それでも一緒に過ごすのが心地よかった二人はそのまま仲良く二人で暮らしましたとさ!

    〜𝓗𝓪𝓹𝓹𝔂 𝓔𝓷𝓭〜
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