はっぴー飯P「マジュニアくん好きです!付き合ってください!」
今日も悟飯は右手を差し出し、目の前に現れる。
「断る。」
今日も俺の答えは同じだ。
※ ※ ※ ※ ※
朝8時10分。一時間目の授業前。必ず孫悟飯は現れ、俺に告白をしてくる。それを俺はなんの感情もなく断る。
毎日毎日同じことの繰り返しでもういい加減辟易している。孫悟飯もあんなくだらない冗談を言い続けてよく飽きないものだ。
「そんなあ…今日もダメですかあ…」
孫悟飯は甘ったれた子犬のような面をして見つめてくる。
俺様はそんな顔になど屈することなく向こうを向いてやる。
「…フン…!」
「!あは…また明日もきますね!」
俺に断られたにも関わらず満足げな顔をして孫悟飯は去っていく。
これもまた毎日のことだ。しかし今日は違う。
「おい。孫悟飯。」
こんなくだらないやりとりをやめさせるために俺から声をかける。
すると孫悟飯は勢いよく振り返り、その顔はやっぱり甘ったれた子犬の顔だ。
「なっ!なななんですかっ!!マジュニアくん!」
俺から声をかけられるとは思っていなかったのだろう声は裏返り、近づく足音もでかい。
そんなことには構わず続ける。
「お前、もうこんなことはやめろ。」
「!こんな事って…?」
俺のイラつく雰囲気を感じ取ったのか、孫悟飯は顔を強ばらせながら答えた。
「こんなことと言ったらあれだろう!あの、毎朝やってる、あれだ!!」
『告白』と言うのは何となく恥ずかしいのではっきり言えなかったが、毎朝やってる事と言えばそれぐらいだ。さすがに孫悟飯も告白のことだとわかったようで、「そんなあ!」とでかい声を出し、落ち込んだ様子を見せる。
「あんまりですよマジュニアくん…僕の生きがいを…」
「は!?なっそんなにか!?」
生きがい!?あの告白はそこまで重要なものだったのか!?それは少し悪いことを…
「っていや!!馬鹿にするのもいい加減にしろ!!毎日毎日うんざりだなんだ!!もう関わるな!あっち行け!」
「あっち行けって…そんなかわいい…じゃない!ひっ酷いじゃないですか〜!僕寝込んじゃいますよ!」
「うっうるさい!!もう知らん!!とにかく明日からあれはやめろ!!俺にももう近づくなよ!!」
「えっえっマジュニアくうん!!」
泣き出しそうな子犬面を置いて、俺は足早に教室に入る。少しきつく言いすぎたかもしれないが、毎日してきた悪ふざけを止めるにはこれぐらいがちょうど良いだろう。
いや、むしろあの程度では、何度断られても毎日しつこくしてきた告白はやめないかもしれない。きっとやめないだろう。また明日も飽きもせずくだらない冗談を伝えに来るはずだ。
不思議なことにそんな孫悟飯を想像して笑みがこぼれた。
※ ※ ※ ※ ※
8時10分。孫悟飯はこない。
8時50分。授業が始まる。朝は結局来なかった。
12時40分。昼休みが始まる。孫悟飯は来ない。
13時35分。昼休みがおわった。孫悟飯は来なかった。
16時00分。下向時刻。結局、今日1日孫悟飯は来なかった。
いつもなら朝時間がなくて、俺の所へ来れなくても、昼休みには必ず俺の教室に押しかけて告白をしてきた。それが今日は朝も昼休みも来ていない。なぜだろうか…。
……いや、心当たりならある。昨日俺が言ったことだ。
そうか、なんだ、昨日俺が「もう関わるな。」「告白はやめろ。」と言ったから、孫悟飯はそれを聞き入れてやめただけだ。
「フン…なんだ…その程度が…」
1度やめろと言われただけで、すぐにやめてしまえるほどのものだったのか。
やめろと言ったのは俺自身なのに、孫悟飯が告白をやめたことが寂しく思える。
この不思議な感情を持て余しながら、帰りがけになんとなく孫悟飯の教室を覗いてみる。もし居たらひとこと言ってやろうと思った。
しかし、そこには女子生徒が数名いるだけで孫悟飯の姿はなかった。
またなんとなく寂しくなり、昇降口は向かって歩き出そうとすると、女子生徒の明るい超えが聞こえた。
「ねえ!悟飯くんのプリント届けるとき誰がチャイム鳴らす?」
「ええ〜!どうしよう!悟飯くんと話すチャンスだけど、恥ずかしいよね〜」
「いやいや、悟飯くん風邪で休んでるんだから、お母さんとかが出るでしょ!」
「っおい、その話本当か?」
「えっ…?」
『悟飯が風邪で休んでいる』そうわかった瞬間、思わず女子生徒に声をかけてしまった。
女子生徒は突然現れた凶悪な面をした男に驚いたようで固まってしまっている。悪いことをしたと思い、一応謝る。
「突然すまない…でも、悟飯が…」
「あっ、ううん!ぜんぜん大丈夫!そっかマジュニアくん悟飯くんと仲良いもんね。気になるよね」
女子生徒が明るく表情を変え、言い放った事が少し引っかかる。
「いや、そういう訳では無いが…」
「あはは、そうなのー?まあいいや!これ、マジュニアくんが悟飯がくんに届けに行ってよ」
「?なぜだ。お前らが届けに行くと言っていただろう。」
「いーよいーよ!マジュニアくんが届けた方が絶対悟飯くん喜ぶし!じゃあお願いね!」
「あっ!おい…!!」
女子生徒は数枚のプリント俺にも押し付け駆け出して行ってしまった。
「まったく…仕方ないな…」
※ ※ ※ ※ ※
「ああ〜〜〜!!一生の不覚!!」
僕は実に数年ぶりに風邪をひいていた。というのも毎日の日課、生きがいと言っても良いマジュニアくんの記録をとるのに夢中になっていたためだ。
僕のマジュニアくんの記録は朝から始まる。まずマジュニアくんが家を出る前に、マジュニアくんの家の塀に寄り添うようにしてカメラを構える。そしてマジュニアくんが家を出た瞬間激写!!!少し眠そうなマジュニアくんを手に入れて、その後も通学路にいる猫にこっそり話しかけるマジュニアくん。石ころをけって歩くマジュニアくん。横断歩道をしっかり左右確認してから渡るマジュニアくん。などどんどん記録していく。
しかし昨日、それがマジュニアくんにバレてしまったのだ!マジュニアくんが言っていた『毎朝のあれ』とは間違いなく僕の記録行為のことだろう。
バレないようにしていたつもりだったので、やめろと言われた時は驚いてしまった。
バレたと分かれば、そこからの行動は早い。まず、僕が記録行為をしていると分かりながら生活をしていたらマジュニアくんの、自然でキュートなお顔はと記録できなくなってしまう。そこで昨日『やめろ』と言われたあとすぐに望遠レンズを回に走った。これなら遠くからでも記録できるので今まで通りのマジュニアくんを記録することができる。
望遠レンズの性能の良さを感じたボクはすぐに、望遠レンズを取り付けたカメラを持ち、再び学校へ行き、遠くからマジュニアくんを記録することにした。
マジュニアくんは望遠レンズからでも最高だった。いつ見てもベリーベリーキュートだ。毎朝の記録後は、感情が高ぶりついつい告白をしてしまうほどだ。
むしろ遠くから撮影することが出来る分、バレる可能性が低くなったので今まで記録できなかった瞬間も記録できるようになった。それに気がついた僕は大いにはしゃぎ、この寒空の下、丸1日マジュニアくんを記録し続けた。
その結果が今日の風邪だ。
「あ〜あ…マジュニアくんに会えないなんて…マジュニアくんを記録できないなんて…マジュニスト失格だよね…」
ピンポーン
「ん、誰だろう…」
今はお母さんも出かけていていないし、風邪をひいていて申し訳ないが僕が出るしかない。
「はい。どちら様…えっ!?!?」
目の前に立っていたのはマジュニアくんだった。
※ ※ ※ ※ ※
「はい。どちら様…えっ!?!?」
玄関を開けるとそこには息を切らした長身の男。マジュニアが立っていた。
「ご、悟飯!!」
「まままま、マジュニアくんっ!?どうしてここに!!」
「どうしてってお前が休むから!!俺は、さびっ、ちがう!!プリントを届けろと言われたから仕方なく来てやったんだ!!」
マジュニアは顔を赤く染め、プリントを悟飯の胸に押し付ける。
それに対し悟飯は頬を緩ませながら、マジュニアのプリントを持つ手ごと受け取り、強く握りしめる。
「えっわざわざ届に来てくれたんですか!?かわいいなあ…」
「かっ…、?そんなことより全然元気そうじゃないか!俺は、お前の生きがいを奪ってしまったから寝込んでるんだと思って…」
「えっえっ!?生きがいを奪ったってなんですか?むしろ生きがいのせいで風邪ひいたんですけど…」
悟飯はマジュニアが何を言っているのか分からず困惑する。しかしその顔は緩みきっている。
「はあ?お前こそ何を言っているんだ…?まあいい!とにかくもう明日は休むなよ!こっ告白だってしてもいい!!」
「いいんですか!!??!?ありがとうございます!!!」
告白してもいい=記録行為を許可 という思考の悟飯は大興奮大感謝気色満面だ。そんなことは露知らずマジュニアは満足気にうなずく。
「フン。あまり調子に乗るなよ。とにかく明日から来い!わかったな!」
「もちろんですよ!!むしろ今からでも行きます!!」
「もう学校はおわっているだろう!もういい!また明日な!」
「はっひっまっまた明日ッッッ!!」
明日の約束をマジュニア側から取り付けられた悟飯は大興奮大感謝気色満面になり風邪を拗らせ次の日学校を休んだ。