冬の星息を吸うと鼻の奥がツンと痛くなる。息を吐けば暗い空気が白に染まり、身体の芯まで冷えきってしまいそうだ。冬の朝の澄んだ空気は好きだが、夜はどこかこわい。
ーーこんなに寒い冬の日に、恋人がどこかへいなくなってしまった。
「……っめぐみ、……」
小さい頃から自由で生意気な子どもだったが、こんなことは今までになかった。
寮、教室、自身の家、色んなところを飛び回って必死に探したが見つからず、悠仁や野薔薇に聞いても分からなかった。
「……あ、」
ひとつだけ、思い当たる場所がある。
「…………いた。」
艶のある黒髪を跳ねさせ、黒いコートを纏い空いっぱいの星空を見上げる、僕の恋人。
「……さとるさん、」
鼻先も、耳も真っ赤で、すこし震えているように見えた。
「寒いよ、恵。帰ろ。」
隣に立って恵に声を掛ける。
「……星空って、都会とか明るい所ではあんまり綺麗に見えないじゃないですか。田舎だとすごく鮮明に見えるのに。」
「……うん」
「五条さんも、明るいところに行って、おれには見えなくなっちゃうんですか?」
ーー恵は時々難しいことを言い出すんだよな。
子供の頃からそうだった。親同士よろしくやってるんだろ、おれらは用済みだ、どこで習うんだという小学生らしからぬ発言に驚いたっけな。
前、津美紀と星空を見上げていたときは子どもらしく目をキラキラと輝かせていたが、今日は違う。
「……どこにもいかないよ。恵のとなりにいる。
ほら、ほっぺこんなに冷たい。コーヒーは眠れなくなっちゃうから、ホットミルク飲も。帰ろ?」