ずっと囚われていた「あー!疲れた。今日いつもより忙しかったな」
「月末だしな。そういや三井、これ、ありがと。助かった」
会社の同僚が手渡してきたTシャツを目にした瞬間、三井は凍りついた。
ほんの一瞬だったので、おそらく相手は気がついていないだろう。
すぐに気持ちを立て直して、Tシャツを受け取り会話に戻る。
「うわ!このTシャツいつ貸したやつだよ」
「にねんくらい、前かなぁ」
「すっかり忘れてたわ」
「引越しの準備してたら出てきてさ」
「引越さないと返ってこなかったわけだな。少しは反省しろい」
必死に平静を装って、Tシャツをカバンに粗雑に突っ込んだ。
いま三井の手元に返ってきたTシャツは、正確には三井のものではない。
かつて交際していた流川のものだ。流川とは向こうから告白されて高校3年から10年ほどお付き合いをして、3年前に俺から別れを告げた。
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