「‥う‥‥うそ、でしょう‥‥?」
「嘘でこんな事が言えたら、僕はここまで追い詰められてませんよ」
「‥‥っ」
益田は青木の視線から逃れるように顔を背けた。しかし、覆い被さった青木からは、ほんのり赤く染まってあらわになった益田の頬がよく見えるようになっただけだった。その頬から首筋のラインを視線でなぞりながら青木は問いかける。
「それで君は?益田君は、どう‥なんですか?」
「ぼ、く‥‥は、」
益田は横を向いたまま、もごもごとくぐもった声を出した。
青木の視線を感じて恥ずかしい。見つめられている部分が熱を帯びてくるような気がして、ますます顔を背けた。そうして背けた視界の中に、青木の腕が映った。自分を押し倒している青木の腕。そう意識した途端に心臓が跳ね上がる。
たった一言。
いつもの調子で言い放った言葉をきっかけに、こんな状況に陥るとは。
『そんなに、僕の事が好きなんですか』
つい口をついて出てしまった。いつもの軽口の類だ。受け流されるだろうとすらも考えなかった。それ程、軽い気持ちだった。
『そうだよ』
ふいを突かれたような顔をして、少しの間を置いてから呟かれた青木の言葉。
「いつもそうやってはぐらかしますよね。僕はハッキリしない事は嫌いなんですよ」
まるで榎木津のような言い方をする、と益田は思わず小さく笑ってしまった。
そうだ、こんな時、彼なら何と言うだろうか。きっぱりと自分の気持ちを告げるだろうか。
きっとそうだ。だったら、自分も。背けた顔をゆっくりと元に戻す。
「今、榎木津さんみたいだと思ったでしょう?」
「‥‥‥え?」
益田が口を開く前に、青木が一重の目を更に鋭く細めてそう言った。
「駄目だなぁ、そうやっていつも君はあの人を引き合いに出す。それは良くないですよ」
良くない、と青木はもう一度言って腕から力を抜いた。肘を折って体を近付け、真正面から益田の目を見つめた。
青木は益田の髪の中に指先を潜り込ませて頭を固定すると、額をこつんと合わせる。
「ぁ‥‥‥っ、」
「ねぇ、益田くん。教えてください。君は僕の事をどう思っていますか?」
低く押し殺した声だ。
「そりゃあ、青木さんと同じですよ」
「同じ?同じなの?僕は君の事が好きなんですが、それと同じという事?」
「そうです」
「君の声で、聞きたい。言って?益田くん」