馬鹿じゃないのかと益田は言った。嘲るような口調だった。
「馬鹿じゃないのか、死んでる人間を探してくれって?は‥‥っ、ふざけるなよ、死んでる人間なんか見つかるわけないじゃないか!探せば見つかるとでも思ったのか?生き返るとでも思ったのか!?馬鹿じゃないのか、死んだ人間が生き返るはずがないだろ!」
墓でも掘り起して現実を見ろよ!そう言って握りしめた拳を自分の腿に打ち付けた。
薄い唇を噛み締めて荒い息を吐いて何度も拳を打ち付ける。
「おい」
「ねぇ榎木津さん、僕はほんとうに馬鹿でした。馬鹿は僕ですよね、居もしない人間を見つけ出そうとしてたんですからね。っはは、笑っちゃうなぁ」
打ち付けた拳を凝視して益田は言葉尻を震わせた。
大きな窓から降り注ぐ月明かりが益田を白く浮かび上がらせ、榎木津の靴の先を照らしている。冷たく柔らかなその明かり中で益田は慣れない怒りを抑えて小さく震えていた。鋭角な横顔に血の色は無い。
榎木津は静かに、白く浮かんだ己の助手を見つめた。その頭上。
依頼人と思しき若い男。益田よりは年上だろうその男が差し出した一枚の写真。写っているのは男と同じ歳程の女。
「あの人、やっぱりそうですかって言ったんです。やっぱりって。やっぱり死んでますかって」
頬に落ちた睫毛の影が震えた。