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    最近やけに廃棄物の中にロボットが多いなと思っていたら、何やら新しい法律ができたらしい。
    ロボットに「期限」を設け、量産機を中心にして新陳代謝を発生させようという狙いで施行されたらしい法律に則って、まだ十分に働けそうなロボットが次々廃棄されてくる。ロボットが人間の都合に振り回されるのは世の常みたいなもんではあるけどちょっとこれはもったいないんじゃねえかな、とダストマンは思った。
    今日もまた、彼の働く廃棄物処理場にスクラップが運ばれてくる。


    「ロボットの霊」
    「そう」
    「デマでしょ」
    「そう思うんだけどねえ」

    処理場の管理人が禿頭を撫でつけながらぼやく。毎度思うのだがあれは何を撫でつけているのだろう、乱れる髪もないというのに。

    ダストマンが働くこの処理場では、金属製品を中心とした大型ごみを扱っている。無論その中には故障したり使用期限が切れたりして廃棄されたロボットも含まれる。
    ロボットに人格が標準搭載されるようになってから早十年経った現在。やれロボットの人権尊重だのやれロボットにも魂があるだの、人生だの成長だの生まれ変わりだの……と主張する輩の枚挙にはいとまがないが、ロボットの霊魂などという酔狂はその極致である。そもそもロボットは生物ではない。生きてるのとは違うのだから当然死んでるわけでもないだろうに、霊が発生するはずがない。
    しかし実際噂が出回っているのだ、ロボットの霊がいるという。

    「火の無いところに……って言いますし、なんか見た人でもいたんすか」
    「うん。ほら、うちに来るスクラップってみんな電源落とされてくるだろう」
    「あー。バッテリーも抜いててくれりゃあ楽なんですけどね」
    「まあみんながみんな利口じゃないからな……それで、そんなだから動かないはずだろう? でも夜中の巡回で見たって言うんだよね」
    「はあ」
    「そこは生唾飲み込んで『何を見たんですか』って言うとこだよダストくん」
    「はあ」
    「……まあいいや、そう、見たらしいのよ、いろんなロボットのパーツが継ぎ接ぎになったみたいな、変なロボットがうろついてるのを……」

    そういうわけだから──と言い置かれ、いやどういうわけなんだよとは思いつつもロボットが人間の命令に逆らえるわけもないので、夜中の巡回を人間の代わりに任されることになったダストマンである。右腕にはいつものバスター、左腕には懐中電灯を携えて、幽霊騒ぎが落ち着くまでの一時しのぎの警備員。
    万一幽霊に実体があって暴れられでもしたら人間なんかかないっこないからロボットを、しかも昔改造されたことがあるおかげである程度戦闘技能もあるロボットが都合よくいるんだからそれを使いまわして……という発想自体は別に構わないのだが、その間仕事を失くす警備員の給料はどうなってしまうのか。早々に事態を収束させなければ、「警備員なんかいなくてもダストくんがいるから大丈夫だね」とかいう理屈で警備員が失職してしまうかもしれない。
    それは、ちょっと困る。ダストマンだって別に人間の仕事を奪ってまで働きたくはないのだ。

    しかし、継ぎ接ぎのロボットか。ダストマンはその話を聞いてから、とあるロボットのことを電子頭脳の裏側にずうっと浮かばせていた。
    ジャンクマン。フランケンシュタインの怪物を彷彿とさせる継ぎ接ぎの厳めしい巨体が特徴のロボットだ。ドクター・ワイリーの脱獄騒ぎで主犯のひとりになり、その後の第七次世界征服事件でも暴れまわったというが、実は事件終息後にもいくつかの目撃情報があったりする。曰く、ゴミ捨て場に現れてスクラップの選別をしていたとか、粗大ゴミを置いて置いたらジャンクマンに持ち去られたとか、廃棄予定の携帯バッテリーを両腕に抱えて歩いているのを見たとか。どれも平和なものである。ワイリーナンバーズがその辺をほっつき歩いてるのは普通に警戒案件だろとっとと捕まえろよ、という意見もあるにはあるが、やってることがなんとなく可愛いので放置されている現状らしい。
    いや問題だろ。持ち去られたゴミが何に使われるかわかんないじゃん。
    とはいえ──その目撃情報を見て、ダストマンはジャンクマンのことを密かに好意的に思っていた。だって、敵ながらリサイクル精神のある殊勝なやつである。ゴミ処理担当のロボットとしては使えるものはゴリゴリ再利用してもらって廃棄物が減る分には問題ない、むしろもっとやってほしいぐらいだし。もっとやった結果ワイリーが増長する可能性からはいったん目を逸らして。
    そんなことをぼやぼや考えながらも巡回の仕事はきっちりやる。広いゴミ処理場の中、通路の端々にまで懐中電灯の光を当てて、三時間で一周できる程度の速度でガシャガシャ歩く。もともと人間の侵入者だってたまにいるのだ。スクラップの中の基盤やらバッテリーやら半導体やら、あと純粋に金属そのものを狙って盗みに来る不届き者は年に何度か捕まえる。警備システムの穴を掻い潜る手段が年々向上してきている気がするのは気のせいだと思いたい。

    で、歩いていると、なんだか足音が二重に聞こえるような気がする。

    自分の足音が通路に反響しているのだろうか、と思ったのだが、聴覚センサーを澄まして聞けば音の間隔も高さも質感も全然違う。ダストマンが立ち止まると一拍置いて二つ目の足音も止まる。ダストマンが歩き出すと二つ目の足音も歩き出す。さて、そろそろ処理場内も一周してしまうことであるし、ここいらで奴の正体を暴いてやろうではないか。
    ダストマンは立ち止まり、軽く排気を済ませてから、勢いよく振り向いた。バスターを突き付けるおまけつきだ。

    果たして犯人はそこにいた。
    ジャンクマンであった。

    「──初めまして、ダストマン」
    「え、ちっちゃ」

    ……小型化された、ジャンクマンであった。なにこれ、あいつ2メートル越えって聞いてたのに僕と同じくらいしかないんだけど。
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